17話―ロナルドを探せ!
「侵入者どもを止めろぉ!」
「クソッ、来るな来るな! くるゴパァ!」
「うふふ、逃がさないわよぉ~。えいっ☆」
「援護射撃はわしに任せるとよい。不意打ちなぞ全部防いでみせようぞ」
要塞内部に入り込んだコリンとカトリーヌは、迫り来る教団の戦士たちを撃滅しながら先へ進む。二人が通った後には、死体の山が出来ていた。
存分に抱っこを堪能したカトリーヌから解放されたコリンは、彼女の少し後ろを歩きながら通路を進む。背後からの攻撃の阻止は、彼の担当だ。
「射撃部隊、前へ! 最新式のクロスボウの餌食にしてやれ!」
「ハッ! 射てー!」
床や壁、天井を破壊しながら迫ってくるカトリーヌたちを倒すべく、戦士たちは必死に迎撃する。クロスボウを装備した男たちが隊列を組み、矢を放つ。
「あらあら~、ムダよ~。ぜ~んぶ、このタワーシールドで防いじゃうもの~」
「ほう、便利なものじゃのう。盾が破損しても空気中の水分を凍らせて補修出来るというのは」
最新式と言うだけあって、放たれた矢はカトリーヌが構える盾に突き刺さりヒビを入れる。が、すぐに傷が修復し、矢も凍り付いて砕けてしまった。
矢だったモノの破片が床に落ちるなか、射撃部隊の面々は動揺してしまう。自分たちの攻撃が全く通じないことが信じられないようだ。
「う、嘘だろ!? こんなの、どうやって戦えばい」
「次はこっちの番よ~。アイススパイク!」
「ディザスター・ランス!」
「ぎゃあああああ!!」
次の行動に移るよりも先に、カトリーヌとコリンが仕掛ける。氷のスパイクと闇の槍のコンボを食らい、戦士たちは物言わぬ死体に変わった。
「他愛ないのう。さ、進むとしようかのカトリーヌ」
「そうね~。ロナルドに逃げられちゃう前に捕まえないといけないもの~」
「うむ。であれば、わしに任せておくれ。カトリーヌ、しゃがんで……いや、わしを抱っこしておくれ」
「うふふ、いいわよ~。はい、よいしょ」
いい案を思い付いたようで、コリンは早速行動に移す。最初はカトリーヌにしゃがんでもらおうとしたようだが、そうすると自分の眼前にたわわなアレが来ることに気付き抱っこしてもらうことにした。
「それで、どうするの~?」
「うむ、まずはそなたの記憶の中にあるロナルドをビジョンとして引っ張り出す。そうしたら、ビジョンに宿る魔力を探知して本人の居場所を目指すのじゃ」
「あら~、凄いわね。そんなことが出来るの!」
「もちろんじゃとも、わしは星騎士と魔戒王の子じゃからな! というわけで、済まぬが記憶を覗かせてもらうぞよ」
カトリーヌはもう一度ハンマーを背中のホルダーにしまい、コリンを抱っこする。コリンは右手でカトリーヌの額に触れ、記憶を読み取る。
しばらくして、コリンはお目当てのモノを探り当てたらしい。右手を離し、手のひらを上に向けと、手の上に小さなロナルドが現れた。
「あら~、まるで妖精みたいね~」
「ふふふ、これでもうロナルドは逃げられぬぞ。例えこの要塞を脱出して、地の果てに向かおうがのう」
「うふふふ、頼もしいわ~。それじゃあ、先に行きましょ~」
「うむ! ……なのはいいのじゃが、そろそろ下ろしてはもらえぬかのう?」
「また敵が出てきたら下ろしてあげるわ~、うふふ」
「……やれやれ」
ミニロナルドをコンパス代わりに、二人は通路を進んでいく。一方、要塞の最上階にある指令室では、てんやわんやの大騒ぎが起きていた。
「オラクル・ベイル! 敵の進撃が止まりません! このままではここに到達されます!」
「迎撃に向かわせた四部隊、いずれも全滅! 生命反応が一つもありません!」
「おのれ……! たった二人が相手と、少しばかり侮り過ぎたか。ならば、全力で迎え撃たねばなるまい。おい、ロナルド!」
「な、なんでしょうオラクル・ベイル」
「元はと言えば、貴様があの女を仕留め損なったのが原因だ。その責任、キッチリ取ってもらおうか」
危機感を募らせるベイルは、ロナルドの方に振り向き責任を追求する。しどろもどろになりながら、ロナルドは弁解しようとするが……。
「し、しかしですねオラクル・ベイル。私もまさかここまで相手の動きが早いとは夢にも」
「黙れ、自分の立場をわきまえろ。自分の撒いた種はしっかりと刈り取ってもらうぞ。お前たち、連れていけ!」
「ハッ!」
「ま、待て! 私をどこに連れて行くんだ!? は、放せ! やめろ、やめてくれぇぇぇ!!!」
失態の責任を取らされることとなり、教団の信者に拘束されロナルドは連行されていった。ベイルは水晶玉を覗き込んでいた部下の肩を叩き、命令を下す。
「例の実験兵器、メタルヒュドラにロナルドを搭載しろ。地下の実験場で侵入者どもを始末させる」
「で、ですがメタルヒュドラはまだ調整が完了していません! 暴走する可能性が」
「構わん、私が脱出するまでの時間稼ぎさえ出来ればそれでいい。上手いこと暴走して、奴らを道連れにしてくれれば御の字だ。さあ、整備班に通達しろ!」
「し、承知しました! ただちに通達します!」
ロナルドを生け贄にして、ベイルはコリンたちを始末させる作戦を思い付いたようだ。連絡用の水晶玉を使い、慌ただしく通達して回る部下を見ながらベイルは笑う。
「フフフ。多少予定は狂ったが、ここで例の小僧を始末してしまえばもう怖いものはない。今日が奴の命日だ。フハハハハハ!!」
◇―――――――――――――――――――――◇
「む? おかしいのう、さっきまで上の階にあったロナルドの反応が一気に下の階に移動したぞよ」
「あら~、せっかく階段を登ってきたのに嫌ね~。また降り直さなくちゃいけないなんて面倒だわ~」
二十分ほど経った頃、上の階に向かっていたコリンはある変化に気付いた。上の方にあったロナルドの反応が、一気に下の方へ移動したのだ。
敵を返り討ちにしつつ階段を登っていたカトリーヌは、思わず不満を漏らす。……が、なにかを思い付いたらしくうんうんと頷く。
「あ、そうだわ~。ねぇコリンくん、さっきの闇の槍ってどの方向にも撃てるのかしら?」
「その気になればどこでも撃てるぞよ? じゃが、何をし……ああ、そういうことか。一気に下までブチ抜いて、大穴開けてショートカットするつもりじゃな?」
「うふふ、せいか~い。コリンくんってば察しもいいのね~、そんなところもかわいいわ~」
「おぬしのかわいいの基準が分からん……。ま、よい。では早速やろうかの」
二人は階段の踊り場まで登り、準備を整える。コリンは魔力を練り上げ、下向きの闇の槍を作り出す。
「いでよディザスター・ランス! さて、あとはこれを放てば」
「えーいっ、バハクインパクト!」
「のじゃっ!?」
コリンが槍を発射しようとした、次の瞬間。カトリーヌがハンマーを取り出し、上から思いっきり槍をぶっ叩いたのだ。
氷の魔力が追加されたことにより、槍は凄まじい速度と威力で踊り場を破壊し下へ突き進む。要塞の各階を貫き、最下層まで続く大穴を開けた。
「おぬし、結構無茶苦茶するのう」
「うふふ、この方が早いかと思って~。さ、下に降りましょ~」
「うむ、そうし……いや待て、下がるのじゃカトリーヌ!」
早速穴に飛び込もうとするカトリーヌだったが、コリンに止められる。咄嗟に後ろに下がった直後、槍がバウンドして戻ってきた。
今度は踊り場の天井を破壊し、上へ上へと突き進んでいく。微かに悲鳴のようなモノが上から聞こえた気がしたが、コリンは無視した。
「……さて、今度こそ降りるとするかのう!」
「は~い。じゃあ、わたしに掴まってね~。一気に降りるわよ~、それ~!」
「ま、自分で降り……のじゃああああああ!?」
カトリーヌに抱き寄せられ、二人一緒に穴から下へ落ちていく。数十秒ほど落下した後、カトリーヌは最下層の床に着地する。
床にクモの巣状の亀裂が走り、凄まじい音が響く。が、本人は至って無傷であった。
「うふふ、とうちゃ~く。さ、ロナルドを探すわよ~」
「し、死ぬかと思うたわ……。それにしても、随分と広い場所じゃのうここは。倉庫か何かかの?」
「かもしれないわね~。こんなところでロナルドは何をしているのかしら~?」
異様に広い空間をキョロキョロ眺めていた二人の耳に、金属が軋む音が届く。コリンたちが前に向き直ると、遥か前方にあるシャッターが突如破られた。
「カトリーヌ、気を付けよ。何か来るぞよ」
「ええ、あれは……!」
「グォォォォォーーーー!!!」
敵襲を警戒し、二人は戦闘体勢を整える。そんな彼らの前に現れたのは……全長二十メートルほどはある、鋼鉄製のヒュドラだった。




