表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/311

153話―フェンルーの秘策

「ふあ~あ、暇だなぁ。少し前にヒョロいエルフが出てきたっきり、だ~れも出てきやしねぇ。こんなの、見張る必要があるのかぁ?」


「あんまりデカい声でそういうこと言うなよ。デオノーラ様に知れたら、カラッカラのミイラにされるぞ」


 トンネルの前で、数人の兵士たちがだらだらしていた。誰も通らないトンネルを見張るのに飽きてきたらしく、皆暇そうにしている。


 そんな彼らの元に近付く影が、二つあった。踊るような軽い足取りで、兵士たちの前に現れたのは……。


「ハァーイ、こんにちハー。ミンナ、元気してルー?」


「してるー?」


「ん? なんだおめぇらは。そのカッコ……旅の踊り子か?」


「そうだヨー。ワタシたち、()()であちこち回ってるんダー」


 妖艶なベリーダンスの衣装を身に付けた、二人の踊り子だった。両人とも、顔の下半分を紫色のベールで覆っている。


 ノリノリで腰を振りながら、兵士たちを誘惑する。娯楽に飢えていた兵士たちは、二人の踊り子を見て鼻の下を伸ばす。


「どうかナ? オニイサンたち、踊りを見ていかなイ? 今なら安くしとくヨー」


「そうしたいのは山々なんだけどなー、こっちも仕事が……」


「その様子だと、退屈してるんでしょ? だったら、少しくらい息抜きしてもいいと思わない?」


 踊り子たちのうち、小柄な方がウィンクをする。大柄な方も、妖艶な雰囲気を醸し出しながら流し目を送っていた。


「息抜き……うへへ、そうだよな。ちょっとくらい、()()()()()バチは当たらねえよな」


「決まりだネー。それじゃあ、ミンナ集めてきテ。とびっきりのダンス、見せてあ・げ・る♥️」


「お兄さんたち、おひねりも忘れずにね♥️」


「よーし、待ってろ! すぐに全員呼んでくる! お前ら、行くぞ!」


「おう!」


 鼻の下を伸ばし、デレデレした兵士たちは待機小屋の方へすっ飛んでいく。その様子を、踊り子……に変装したコリンとフェンルーは、ニヤリと笑いながら見ていた。


(ここまでは順調じゃな、フェンルー。しかし、この衣装……ちと露出が多すぎるのではないかのう?)


(そんなことないヨー。コリンくん、とっても似合ってるネ。うふふ、眼福眼福~)


(? よく分からんが……まあよい。ここからが肝心じゃ、しくじらぬようにせねばな)


(おっけおっけ、このお香を使えばみんなグースカ寝ちゃうヨ)


 フェンルーの考え出した作戦はこうだ。色仕掛けで兵士たちを全員集め、踊りを見せている間強力な催眠効果のあるお香を焚く。


 兵士たちが全員眠りこけたのを確認した後、国境ギリギリで待機しているアシュリーたち救援部隊を呼び寄せる。そして、一気にトンネルに入る。


 名付けて、『踊りでイェイイェイ! グースカ作戦』を実行したのだ。


「待たせたな、全員呼んできたぜ! さあ、早く踊りを見せてくれ!」


「はいはーい、任せテー。それじゃ、準備するからちょっとだけ待っててネー」


 しばらくして、見張りの兵士たちが全員集合する。フェンルーたちの前に座り、今か今かとその時を待っていた。


 コリンは腰から下げていたお香入りの箱を地面に起き、魔力を流して起動させる。それに合わせて、フェンルーも胸のバンドから小さな玉を取り出す。


「お待たセ! それじゃあ始めるヨー。ミュージック、スタートー!」


 フェンルーが玉に魔力を込めると、あらかじめ録音しておいた音楽が流れ始める。彼女の故郷、ガルダ草原連合に伝わる民族音楽だ。


 最初はしみじみとしたゆるやかな曲調だが、途中からは少しずつテンポが上がり陽気なリズムに切り替わる。その変化に合わせ、コリンたちは舞い踊る。


 時に激しく、時にゆっくりと。腰布やベールをひらめかせ、巧みなステップを踏む。


「ひゅーひゅー! いいぞいいぞー!」


「こっち向けー! もっと脚あげろー!」


「くぅー、こいつはいいぜ。こんなイイ女の踊りが見れるなんて、ちょーラッ……キー……ぐぅ」


 しばらくの間、兵士たちはおひねりを投げつつ踊りを楽しむ。が、やがて一人、二人と眠っていく。眠りのお香が効きはじめたのだ。


 そんな中でも、コリンとフェンルーは眠らない。正体を隠すために顔に着けているベールに、お香を遮断する魔法効果があるからだ。


「ぐー、すかー」


「ぐごー、ぐおー」


「案外寝るのが早かったのう、この阿呆ども。フェンルー、今のうちに合図を」


「うん、分かっタ。それっ、飛んでケー」


 全員が熟睡したのを確認したコリンは、フェンルーに合図を送るよう促す。フェンルーは小さな羊毛の塊を呼び出し、ウーグの町へ放った。


「アシュリー様、合図が来ました! 今なら行けます!」


「よし、迅速に行動しろ。物音は出来るだけ立てるなよ、踊り子の服着てるコリンに興奮するのもダメだぞ」


「いや、それはあなたぐらい……何でもないです」


 合図を受け取った騎士が、待機していたアシュリーたちに声をかける。返答に対して思わずツッコミを入れるも、アシュリー含めた女性メンバーの殺気のこもった視線に黙らされた。


「みな、来たな。さ、急ぐのじゃ。ぐっすり熟睡しておるとはいえ、いつ目覚めるか分からんからな」


「トンネルはこっちだヨー。さ、ゴーゴー」


 国境を越え、救援部隊は素早くトンネル内に入り込む。全員が突入したのを確認し、しんがりを務めるコリンとフェンルーが最後に足を踏み入れる。


「ふふ、ここまで上手く行くとはいい意味で想定外じゃわい。さ、ここからはわしがみなを先導しよう。はぐれぬように着いて」


「あー、もう我慢出来ねぇ! コリン、ちょっとだけ抱っこさせてくれ! な? 五分だけでいいから!」


「あー、アシュリーさんずるい! 私も!」


「私もー!」


「のじゃっ!? これ、こんな時に何を……おぁーーーー!!!」


 ある程度トンネルを進んだところで、不意にアシュリーがコリンに抱き着いた。妖艶な格好に、自制心が消し飛んだらしい。


 女の子と見間違うほど端整な顔をしているため、自制が利かなくなっても仕方ない部分もあるだろう。たぶん、きっと。


「あー、肌がもちもち! こいつー、そのハリを分けやがれー」


「ぬああああ! フェンルー、わしを助けてくれ!」このままでは女体に圧殺されてしまう!」


「んー、じゃあワタシも混ざルー!」


「!? 待て、何故そうな……ああああーーーー!!」


 揉みくちゃにされるコリンは、一縷(いちる)の望みを抱きフェンルーに助けを求める。が、それが彼女の本能を呼び覚ましたようだ。


 アシュリーたちに混ざり、コリンに抱き着く。その様子を、男性騎士たちが生暖かい目で見守っていた。


「……元気ですね、あの人たち」


「コーネリアス様がうらやま……しいかな、あれ」


「いやー、自分はちょっと……遠慮します」


 女性陣の間をたらい回しにされ、悲鳴をあげるコリンを見つめ……男たちはそう呟くのだった。



◇―――――――――――――――――――――◇



 それから数日、コリンたちはトンネルの中を進んでいた。アニエスのいる旧公国領東部までは、まだまだかかるようだ。


 ヨアヒムから譲り受けた記憶に照らし合わせた結果、あと数日はかかるだろうとコリンは考える。


「やれやれ、本当に長いトンネルじゃ。分岐もあちこちにあるし、ヨアヒム殿の記憶がなかったら遭難しておるな」


「だな、早いとこ抜けて外に出たいもンだ」


 元の軽鎧に着替えたコリンは、アシュリーと共に先頭に立ち先へ進む。その時、前方から何者かの気配を感じ取った。


 右手を挙げ、後続の者たちに警戒せよとハンドサインを送る。全員が身構える中、トンネルの奥からいくつもの矢が飛んできた。


「危ない! ディザスター・シールド!」


「ダルクレアのゴミどもか? ったく、いきなりのご挨拶だなおい」


「いや、それはないはずじゃ。ヨアヒム殿は、連中がトンネルに入ることはないと言うておった。つまり、この矢は」


 闇の盾で矢を防いだ後、コリンはトンネルの向こうを見つめる。すると、いくつかの松明の明かりが接近してくるのが見えた。


 少しして、槍や連射式クロスボウで武装したエルフたちが姿を現した。コリンたちに武器を向け、敵意を剥き出しにして叫ぶ。


「止まれ! お前たち、何者だ? どうやってトンネルをここまで進んできた!」


「どうどう、待たれよエルフたち。わしはコーネリアスじゃ。そなたたちの仲間、ヨアヒム殿の要請を受けて、アニエスの救援に来たのじゃ。ほれ、証拠を見せよう」


「えっ!? こ、コーネリアス様!? これはとんだ失礼を。てっきり、ダルクレア軍がトンネルを突破してきたのかと……申し訳ありません!」


 コリンが【ギアトルクの大星痕】を額に浮かび上がらせると、エルフたちは慌てて武装解除した。謝罪をしたのち、コリンの元に歩み寄る。


「よくおいでくださいました、我ら一同深く感謝します。ヨアヒムは、無事手紙を届けてくれたのですね」


「うむ。今はゼビオン城で治療してもらっておるぞ。命に別状はない、安泰じゃ」


「よかった……。無礼のお詫びに、ここからは私たちが皆様を案内します。さ、こちらへ。アニエス様が、首を長くしてお待ちしていますよ」


 救援部隊の方も武装解除し、エルフたちの案内を受けトンネルを進む。コリンとアニエスの再会の時がまで、あともう少しだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おやすみ兵士さーん、目覚めた時ミイラにならなければいいけどね~!
[一言] やれやれまたコリンの黒歴史が増えたか( ´-ω-) でもこの和やか展開にホットするよ( ω-、) 今まで酷かっただけにまた出来るだけ良くなったか(ーдー)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ