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152話―救援部隊結成!

 その日の夕方、ロタモカ公国へ向かうメンバーが決定された。コリンとアシュリー、フェンルーの三人を中核とし、三十人ほどの救援部隊が編成される。


 カトリーヌたちも同行したがっていたが、本国の守りも磐石なものにしなければならない。隙を見せた瞬間、他の邪神の子たちが軍を差し向けてくるだろう。


 故に、救援と防衛のバランスを吟味した結果、この布陣で向かうことになったのだ。


「さて、明日の朝には出発するが……しかし、案内人無しで迷いの森を抜けねばならぬのか。大丈夫かのう」


「その心配はねえよ、コリン。あの国にはもう……まともな森なんて、ほとんど残ってねえからな」


 倉庫で物資を集めながら、コリンは呟く。以前ロタモカ公国に行った時は、エステルやアニエスに迷いの森を案内してもらった。


 今回はそうした案内が無いため、森を抜けられるか不安に思っていた……が、アシュリーの放った不穏な言葉に眉がつり上がる。


「なに? どういうことなのじゃ?」


「……復讐のために帝国のあちこちを放浪してた時にな、たまたまロタモカとの国境の近くまで行ったことがあったんだ。そン時に、見たンだ。枯れ果てた迷いの森を」


 アシュリーは、真っ直ぐコリンを見ながらそう語った。立ち枯れた木々と、折れて地面に散らばった無数の枝が、とてももの悲しく不気味だったと。


「この世の地獄っていう言葉がピッタリの光景だったよ。生き物の気配なンて、まるでなかった。流石のアタイもおっかなくなって、引き返しちまったさ……」


「むむ……これは、わしらが思っているよりも深刻な事態が引き起こされていると見て間違いあるまい。明日の朝、すぐにアディアンを発たねば」


「ああ、そうだな。幸い、国境までは新設したワープマーカーを使えばすぐだ。……問題は、そっから先なンだけどな」


 ゼビオン帝国と旧ロタモカ公国の国境までは、アシュリーの言う通りあっという間に行くことが出来る。だが、そこから先は楽ではない。


 旧公国領一帯を支配するダルクレア聖王国軍、そして彼らを束ねる邪神の子の妨害を退けなければならないのだ。生半可な戦力では返り討ちだ。


「うむ、わしもそこを心配しておるのじゃ。わしら星騎士はともかく、他の騎士たちが……む?」


「失礼致します、コーネリアス様、アシュリー様。今しがた、ロタモカから来た遣いの者が目を覚ましまして。コーネリアス様に会いたい、と言っているのですが……」


 その時、倉庫の扉が開かれ城で働いている使用人が入ってきた。アニエスからの手紙を持ってきた使者が目を覚ましたと、使用人は告げた。


 ゼビオン城に着いた時には瀕死の状態だったが、手厚い治療により無事回復したようだ。少し考えた後、コリンは返事をする。


「よし、会いに行こう。ただ、せっかく治ってきた身体に障ってはいかんからな。手短に話を終わらせるとしようか」


「かしこまりました。では、ご案内致します」


「うむ。アシュリー、すまぬが続きを任せるぞよ」


「ああ、分かった。こっちのことは気にしなくていいぜ、コリン」


 荷物の準備をアシュリーに任せ、コリンは使用人に案内され使者がいる部屋へ向かう。部屋の中には、ベッドに寝かせられたエルフの青年がいた。


 全身に包帯を巻いており、とても痛々しい姿をしている。側には治癒術師が控え、癒しの魔法を青年にかけ続けていた。


「よかった、来てくれて……。僕はヨアヒムといいます。お見知りおきを、コーネリアス様」


「よろしくのう、ヨアヒム殿。して、わしに話とは一体何じゃ?」


「……安全に公国に入るための方法を、お伝えしようと思いまして。今、ロタモカは邪神の子……渇命神将を名乗る女、デオノーラに支配されています。奴は、枯死した植物を通して国境を……う、げほっげほっ!」


「そう慌てる必要はない、ゆっくりでいい。せっかく塞がった傷が、開いてしまうでな」


 青年――ヨアヒムは、コリンに伝えようと呼んだのだ。邪神の子の監視から逃れ、安全に国境を越えるための方法を。


「はい、すみません……。デオノーラは、枯れてしまった植物を媒介にして国境一帯に監視網を構築しています。普通に地上を進めば、すぐ見つかって殺されてしまいます」


「なるほどのう。じゃが、そなたは満身創痍とはいえ生きて公国を脱出し、アディアンまでたどり着けた。何か、安全策があるのじゃな?」


「はい。アニエス様がいるグリヴェラの町から、二年かけて掘り進んだ地下トンネルを使って国境を越えました。コーネリアス様も、それをお使いください」


 咳き込んだ後、落ち着いてからヨアヒムは語る。長い年月をかけて、彼らはトンネルを掘り公国の各地に張り巡らせた。


 アリの巣のように広がる……いや、今も広がり続けている複雑なトンネル。それを用いて、彼は国境を越えてきたのだ。


「幸い、デオノーラの監視は地下にまでは及んでいません。トンネルに入る時と出る時にさえ気を付ければ、安全に移動出来ます」


「そうか……分かった、しっかり覚えておこう。ありがとう、ヨアヒムよ」


「ですが、気を付けてください。ダルクレアの連中は、遭難と罠を警戒してトンネルの中に入っては来ませんが……出入り口を見張っていますから」


 ヨアヒム曰く、トンネルはあちこち複雑に枝分かれしている。左右だけでなく、上や下にも立体的に分岐があり……不正解の道には、罠を仕掛けてあるのだとか。


「僕はトンネルを出た時に、待ち伏せしていた連中に襲われました。今もずっと、見張りを続けているはずです。聖王国の奴らには、くれぐれもお気を付けて」


「その忠告、深く心の刻ませてもらうぞよ。アシュリーたちにも、伝えておこう」


「それと、最後に――僕の記憶の一部を、あなたに差し上げます。僕の頭の中には、トンネルの構造が全部叩き込んであります。それを利用すれば、トンネル内で迷うことなくアニエス様の元へ……う、ごほっ!」


「済まぬ、無理をさせてしもうたな。すぐに記憶を抜き出す故、少しだけ頑張っておくれ」


 そこまで言ったところで、ヨアヒムは口から血を吐いた。治療が進んでいるとはいえ、まだ完治はしていない。


 コリンはヨアヒムの額に手をかざし、トンネルに関する記憶だけを闇魔法で抜き取る。すぐさま自分の頭の中に格納し、目的を果たす。


「これでよし。ヨアヒムよ、わしはそなたの勇気ある行動に最大の敬意を表そう。必ず、アニエスとロタモカ公国を救ってみせる。そなたは、ここで吉報を待っていておくれ」


「ありがとう、ございます、どうか、アニエス様を……助けて、あげてくだ……さ……」


 最後まで言い切る前に、ヨアヒムは力尽きて気を失ってしまう。コリンは治癒術師に会釈し、倉庫へと戻っていく。


 その途中、ヨアヒムから手に入れたトンネルに関する記憶を覗き見る。彼が語った通り、地下トンネルには数百もの枝分かれした道があった。


(ううむ、思っていたよりも遥かに複雑怪奇じゃな。これは把握しきるまでちと時間が要るのう。じゃが……ヨアヒム殿やアニエスのためにも、覚えきってみせるわい!)


 心の中でそう決意し、コリンは拳を握る。その日の夜、コリンは一晩中トンネルの構造を把握するためヨアヒムの記憶を眺めていた。



◇―――――――――――――――――――――◇



 翌日の朝。コリンはアシュリーやフェンルー、選抜された救援部隊のメンバーと共に帝都アディアンを出発した。


 新たに設置されたワープマーカーを使い、かつてコリンたちが訪れた国境沿いの町、ウーグに向かう。ここまでは、予定通り。


 本当に大変なのは、ここからだ。国境線ギリギリまで近付き、コリンとフェンルーは双眼鏡でロタモカ側の土地を見る。


「ダルクレアの連中め、大勢たむろしておるわ。トンネルから誰か出てくるか……あるいは、誰かが入るのを虎視眈々と狙っておるな」


「どーする、コリンくん。全員蹴散らしちゃウ?」


「いや、闇雲に攻撃を仕掛けるのは危険じゃ。奴らが設置している大砲の射程が、この町まである可能性があるでの。町の住民たちを巻き込むことはしとうない」


 国境の向こう側には、ダルクレア聖王国の軍隊が屯留していた。木製の小屋とたくさんの大砲を用意し、トンネルを警戒している。


「あ、いいこと思い付いちゃっタ。コリンくん、耳貸しテ?」


「ん、なんじゃ?」


「あのね、こういう作戦はどうかナ? ごにょごにょごにょ」


「ふんふん、なるほど。その作戦が成功すれば、奴らを無力化しつつ安全にトンネルに入れるのう。よし、早速準備じゃ!」


「はーイ! 任せテー!」


 フェンルーの提案した作戦に乗ったコリンは、早速行動に出る。アニエスたちを救うための第一歩が、踏み出された。

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― 新着の感想 ―
[一言] 連中も好き放題やってくれてるが(ʘᗩʘ’) アイツ等この大陸を統治してく気はあるのか?(゜ο゜人)) 自分達で人が住めない土地作ってどうするんだ?(⑉⊙ȏ⊙) アニエスは今度は蟻さんと友達…
[一言] ……待ってろよアニエス。今コリンたちが助けに行くからさ。
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