147話―スーパーウール・マジック!
「なんだぁ? 何をするつもりか知らねえが、見せてみろよ。てめぇの本気とやらをよ!」
「言われなくても見せてあげるヨ! ホアチャー!」
奇っ怪な叫び声をあげつつ、フェンルーは黒こげになった羊毛を突き破り飛び出す。全身をもこもこの毛で覆い、羊そっくりの姿になっていた。
「ぷっ、はははは! なんだそりゃ、牡羊座だからって羊の真似してるのか? こいつはいい、コンガリ焼いてやるぜ!」
「そうはいかないヨ! ウールボール・ショット!」
「ハッ、そんなもん叩き落として……うおっ!?」
フェンルーは毛の中から帯を伸ばし、羊毛を千切ってこねて握り拳よりやや大きいくらいの玉にする。それを、ガルヌ目掛けて投げ付けた。
へろへろした軌道で飛んでくるソレを、余裕を持って叩き落とそうとする……が、ある程度接近したところで急加速をはじめる。
完全に不意を突かれたガルヌは、咄嗟に目を閉じて両腕を顔の前でクロスさせる。防御姿勢を取り、衝撃に備えるが……何も起こらない。
「……あ? チッ、ただのこけおどしかよ。ふざけやがって、ビビって損したじゃねぇか」
「ぷぷぷ、エンジンかかっても根っこは小心者だネー。本当に強い戦士はね、ドンナ時でも恐怖で目を閉じないってオジイチャン言ってタ。だから、お前弱いネ!
「んのガキ……! さっきまでベソかいてたくせに調子乗ってんじゃねえぞゴラァ! サラマンダークロー!」
おそるおそる目を開けたガルヌが見たのは、ふわふわの毛玉がくっついている自分の右腕だった。ぷぷっと笑うフェンルーにキレ、勢いよく飛びかかる。
「死ねやオラァ!」
「やーだヨ! ウールスキン・アーマー!」
「ぬおっ!?」
炎の爪を宿した拳を叩き込み、ズタズタに引き裂こうとするガルヌ。しかし、強靭で弾力に富んだ羊毛に力負けし、跳ね返されてしまう。
フェンルーの魔力が宿っているからか、炎を浴びても燃える様子は全くない。代わりに、爪に引っ掛かった毛の一部が抜け、ガルヌの手に付着する。
その毛が瞬く間に増殖し、毛玉になっていったのだが……頭に血が昇ったガルヌは気が付いていなかった。
「どこまでも人をコケにしやがって! こうなりゃ、意地でもてめぇをバラバラにしてやる!」
「ふっふーン。やれるものならやってみなヨー。お尻ぺーんぺン!」
激昂したガルヌが爪を振るい、羊毛に弾かれフェンルーがぽよんぽよん飛ぶ。抜け落ちた毛がガルヌの身体にくっつき、毛玉になる。
そんなルーチンがしばらく続き、ガルヌの身体が毛玉まみれになる。それを見たフェンルーは、起死回生の一手に出た。
「クソッ、しぶとい野郎だ。いつの間にか身体じゅう毛玉まみれに」
「今だヨ! グラビディ・ウール……フリーズ!」
「ぬ……おっ!? なんだ、急に身体が重く……があっ!」
フェンルーが叫ぶと、ガルヌの身体にくっついている毛玉が鉛色に変化する。それと同時に、重量が増したらしくガルヌは倒れ込む。
急激な加重によって肩や肘が脱臼してしまい、痛みに悲鳴をあげる。何が起きたのか理解出来ずにいるガルヌに、フェンルーが得意気に語りかける。
「ビックリしタ? その毛玉はねー、ワタシの意思一つで重くしたり軽くしたり出来るんだヨ。今、トッテモ重くしてるから動けないネ」
「ぐっ、てめぇ……まさか、最初っからオレサマをハメるつもりだったのか!?」
「そうだヨー? 覚醒した瞬間に、ドンナ能力が目覚めたか感覚で理解したからネ。まさか重さを操れるようになるなんて、ワタシも思わなかったけどネ」
新たに得た力を活かすための作戦を、フェンルーはたった五秒で考え出した。相手を怒らせて攻撃を誘発し、わざと食らう。
そうして羊毛をたくさんくっつけたところで、一気に重量を増やす。結果、こうしてガルヌはまともに身動き出来ない状態になった。
「クソがぁぁ……! こんな毛玉、燃やし尽くしてやるぅぅぅ!」
「無理だね、その毛玉はワタシの魔力をタップリ含んでるもン。簡単には燃えないヨ。さあ、トドメを刺させてもらうかラ!」
「やべぇ、クソッ! パワー全開だぁぁぁぁ!!」
両足に巻いていた帯をバネ状に巻き、セットアップの態勢に入るフェンルー。それを見たガルヌは、急いで毛玉を燃やそうとする。
「もう遅いネ! 白羊星奥義! 活殺天地破断衝!」
「やめろ、こっちに来る……がはぁっ!」
帯を使って飛び上がったフェンルーは、頭上に固く平べったい羊毛の塊を作り出す。身体を上下反転させて、今度はその塊を蹴る。
急加速しながら降下し、フェンルーは帯を束ね右腕に巻き付ける。動けないガルヌの背中に向かって拳を叩き込んだ。
「う、ぐ……まさか、オレサマが……負ける、なんて……がふっ!」
「終わったネ。これで一歩、オジイチャンに近付けたかナ。……コリンくんに、後でお礼言わなきゃネ」
内臓ごと背骨を砕かれたガルヌは、口から大量の血を吐き出し事切れた。無事逆転勝利を飾ったフェンルーは、安堵の笑みを浮かべそう呟いた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「アシュリー、右手側からまた来るぞよ!」
「任せな、全員返り討ちにしてやるぜ!」
その頃、ゼビオン城に突入したコリンとアシュリーは玉座の間を目指して進んでいた。ピアスに宿る認識阻害の魔法は、すでに効力を失っている。
そのため、城内を警備しているダルクレア兵が引っ切り無しに襲ってきていた。もっとも、発見次第即抹殺を徹底しているため、コリンたちは無傷だが。
「奴らを止めろ! ゼディオ様のところに行かせるな!」
「死ぬ気で守り抜け! 絶対に」
「うるせえンだよ! チャージスピアー!」
「ぐああああっ!」
アシュリーは顔を歪め、通路の奥からわらわらやって来るダルクレア兵たちを、槍から放った炎で消し炭に変えていく。
コリンと再会して情緒が安定しても、憎しみは消えていないらしい。火だるまになって苦しむ兵士たちを見て、心の底から愉快そうに笑う。
「アッハハハハ! ざまぁみろ、もっと苦しめ。オヤジやおフクロ、冒険者の皆はもっと苦しみながら死ンだンだ。てめえらも……ハッ! いや、違うンだコリン。アタイは」
「よいのじゃ、みなまで言うな。これはそなたの正当な復讐、軽蔑などせぬ。むしろ、わしも手伝わねばなるまい。ダズロン殿たちの仇を討つためにな!」
「! ……ありがとよ、コリン。さあ、玉座の間まであと少しだ。気合い入れて行こうぜ!」
「うむ!」
狂ったように笑う途中、コリンがいることを思い出したアシュリーは慌てて弁明しようとする。そんな彼女の言葉を遮り、コリンは優しく声をかけた。
アシュリーは感謝の言葉を伝え、コリンの手を握り廊下を駆け抜けていく。襲い来る兵士たちを退け、ついに二人は玉座の間の前に到達する。
「……着いたな、コリン。この大扉の先に、ゼディオがいるンだな……」
「そうじゃ。数多の命を奪い、人々の人生を狂わせた元凶がわしらを待っておる。さあ、行こう。奴を倒してこの国に夜を取り戻すのじゃ!」
「ああ、勿論だとも! とりゃあっ!」
槍を振るい、アシュリーはド派手に扉を破壊する。二人が玉座の間に踏み込むと……奴はそこにいた。銀色の太陽を作り出した、邪神の子の一人。
幻陽神将ゼディオが、玉座に座りコリンたちを見つめていた。足を組み、肘を突いた状態で。
「ンフフ、ンフフフフ。ようこそ、我が城へ。歓迎しよう、夜を取り戻さんと来る者たちよ」
「我が城じゃと? たわけが、この城は今は亡きラファルド七世……そして、その息女エレナ殿下のモノじゃ。貴様のような薄汚い侵略者のモノではない!」
「……会いたかったぜ、ゼディオ。この三年と半年、ずっと待ってた。てめぇにリベンジする機会を。覚悟しやがれ、魂まで全部燃やしてやるよ」
殺意に満ちた言葉を口にするコリンとアシュリーを交互に見た後、ゼディオは笑う。ゆっくりと玉座から立ち上がり、前に進む。
「我、思う。汝らは闇を求める賎しき者たちだ。光を愛し、光に愛されたこの我が……浅ましき闇に敗北することなど、絶対にない。太陽は沈まぬ、永遠にな!」
「フン、なら一ついいことを教えてやろうぞ。明けぬ夜がないように、いつか太陽は沈む。安らかな眠りをもたらす夜がやって来るのじゃ!」
「ンフフフフ! 夜は来ない、永遠に。我がいる限りな。さあ、来るがいい。我が幻影の力、とくと見せてやろう!」
両手を広げ、ゼディオが叫ぶ。最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。




