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15話―二人の仇討ち

 コリンたちの活躍により、侵入者たちは退いた。ヌーマンたちウィンター家の血族も、孤児院の子どもたちもみな無事だった。


 ……しかし、ヌーマンたちを守るため奮闘した四人の護衛騎士、そしてハンスが命を落とすことになってしまった。


「ハンス殿……安らかにお眠りください。あなたの勇気ある行い、わしは決して忘れませぬぞ」


 翌日の朝、ハンスたちの葬儀がしめやかに行われ、敷地に隣接する霊園に遺体が葬られた。コリンは一人、犠牲となった者たちの墓参りをする。


 祈りを捧げていると、足音が近付いてくる。コリンが振り向くと、そこにはマリアベルのところから戻ってきた子どもたちがいた。


「ねぇ、コリンくん。せんせーからきいたよ、コリンくんってぼうけんしゃなんだよね?」


「あのね、ぼくたちのおこづかいぜんぶあつめたの。これ、あげるから……おねがい、ハンスおじちゃんたちのかたきをうって……うう、ぐすっ」


 財団の職員から、コリンが冒険者だということを聞いたらしい。全員の小遣いをかき集め、泣きながら依頼しに来たのだ。


 ハンスたちの仇を討ってほしい、と。コリンはお金を差し出している女の子をぎゅっと抱き締め、力強く答える。


「みなの願い、しかと聞いた。任せておくがよい、ハンス殿たちの仇はわしが討つ。されど、このお金は受け取らぬ。友だちからは金を取らぬ主義じゃからな」


「コリンくん……ありがとー」


「待っていておくれ。必ずや、奴らを仕留めてみせるでな」


 約束を交わしたあと、コリンは霊園を出る。正門に向かう途中、後ろから声がかけられた。


「待ちな、コリン。こんな朝っぱらからどこ行こうってンだ?」


「……アシュリーか。決まっておろう。ハンス殿たちの仇討ちじゃよ」


「仇討ちっつってもよ、敵の居場所は分かるのか?」


「分かるとも。こやつに案内させるでな」


 屋敷の一階テラスにいるアシュリーにそう問われたコリンは、左手を顔の横にかざす。手のひらを上に向けて魔力を凝縮させ、何かを呼び出した。


「おい、そりゃ……生首か?」


「左様。わしを狙ってきた闇の眷属、ボルドールの首じゃよ。コレに仮初めの命を宿してゾンビにし、道案内をさせるなり記憶を抜き出すなりすれば、敵のアジトもすぐ分かるわい」


「あら、そうなの~。じゃあ、わたしも同行させてもらえないかしら~」


 二人が話していると、カトリーヌが顔を覗かせる。気丈に振る舞っているが、頬には涙の跡がクッキリと残っていた。


「カティ……大丈夫なのか? 辛いなら無理しなくていいんだぜ。ここはコリンに……って言っても、聞かねえよな。昔っから、妙にガンコなとこあるし」


「わたしは大丈夫よ、シュリ。わたしも……ハンスたちの仇を討ちたいの。特に、みんなを裏切ったロナルドだけは……この手で、息の根を止めたい」


 ぎゅっと拳を握り、カトリーヌはそう口にする。心臓を氷水に浸されたような、おぞましい声色にコリンとアシュリーは冷や汗をかく。


「そうか、分かった。ならば共に行こうぞ。アシュリーはどうする?」


「アタイは残るぜ。また敵が襲ってこねーとも限らねえからな。ヌーマンのおっさんたちを守らなきゃいけねえからよ」


「あい分かった。では、留守は任せるぞよ。では……行こうか、カトリーヌよ」


「ええ。ハンスたちの命を奪ったこと……後悔させないとね」


 二人の復讐者が、動き出す。



◇―――――――――――――――――――――◇



「それで、結局ウィンター家の連中もガキも仕留められなかったというわけか? まったく、どいつもこいつも使えない! なんのために危険を冒して襲撃したというのだ!」


「も、申し訳ありません! ハンスのウスノロが邪魔をしてくるとは思わず……」


 その頃、ウィンター自治領から南西に二十キロメートルほど離れた岩山にロナルドとオラクル・ベイルがいた。


 岩山の内部をくりぬき、礼拝堂を備えた要塞に改造し居を構えているのだ。ベイルの部屋にて、ロナルドは叱責を受ける。


「言い訳など聞きたくないわ! 全く、苛立たしい。これではムダに戦力を減らしただけではないか!」


「も、申し訳ありません……」


「まあいい。今回の襲撃で、ウィンター邸の守りもだいぶ綻んだはず。次はそこを突いてや」


「オラクル・ベイル! 大変です、強大に魔力反応がここに近付いてきています!」


 次の計画を練ろうとしているところに、教団の信徒が慌てて飛び込んできた。手には、小さな羅針盤のようなものを持っている。


「なんだと? 今日は誰も訪問してくる予定はないはず……まさか! マジックレーダーを貸せ、すぐにだ!」


「は、はい!」


 部下からレーダーをひったくり、ベイルは急ぎ解析を行う。誰が魔力を発生させているのかを確かめるためだ。


 しばらくして、解析の結果が出る。ベイルが予想した通り、魔力の持ち主は――コリンだった。


「バカな、どうやってこの第二十七前線基地の場所を知った? いや、今はそんなことはどうでもいい! 全員に通達だ、基地の守りを固めろ!」


「か、かしこまりました!」


 ベイルの命令を受け、信徒は慌てて部屋を去る。だが、この時の彼らは知らなかった。どれほど守りを固めようとも、荒ぶる復讐者たちには無意味であることを。



◇―――――――――――――――――――――◇



 コリンたちが屋敷を発ってから、一時間後。シューティングスターに乗ったコリンとカトリーヌは、教団の基地がある岩山……と、川を挟んで反対側にある森に到着した。


「あそこじゃな。フン、岩山の内部に要塞を作るとは下らぬことをする」


「そうね~。うふふ、壊し甲斐があるわ~」


 ゾンビとして蘇らせたボルドールの記憶を抜き取り、二人は基地の場所を暴いた。後は内部に乗り込み、大暴れするのみ。


「さあ、そろそろ突入しようぞ。カトリーヌ、準備はよいかの?」


「もちろんよ~。コリンくん。……わたしの力、見せてあげるわ」


 そう言うと、カトリーヌは修道服を脱ぎ捨てる。それと同時に、冷気が彼女の身体を包み込んでいく。ビキニのような形状をした氷の鎧が、一瞬で生成された。


「な、なんちゅう格好をしとるんじゃ!」


「普通の鎧だとね~、ちょっとリキむだけでパァン!って弾けちゃうの~。だから、急所だけ守れていればいいの。うふふ、恥ずかしがっちゃって可愛いわ~」


 真っ赤になって顔を背けるコリンを見て、カトリーヌはくすくす笑う。気を取り直したコリンは、シューティングスターに跨がる。


 エンジンを吹かし、アクセル全開で走り出す。川を渡り、敵の基地へ真正面から突撃していった。


「ん? あれは! おい、全員に通達しろ、敵が来たぞ!」


「アイアイサー!」


 コリンたちに気が付いた見張りは、即座に敵襲を仲間に知らせる。基地の正門前の広場にコリンたちが到着する頃には、教団員が大勢集まっていた。


「たった二人でノコノコやってくるとはな! そこまでして死にたいのか。お前ら、あの二人を殺せ! オラクル・ベイルは気前がいい。仕留めればたっぷり報酬が貰えるぞ!」


「おおーーー!!」


「あらあら、悪い子たちがいっぱいね~。……上等だわ。みんな残らず……叩き潰してあげる」


 シューティングスターから降りたカトリーヌは、両手を真横に伸ばす。すると、渦巻く冷気が腕を包み込み、形を成していく。


「来なさい。星遺物……氷撃鎚バハク!」


「おお……なんと大きな鎚じゃ。わしの身長を越えておるわい」


 カトリーヌの右手に、氷で出来た巨大なハンマーが現れた。凄まじい冷気を放っており、近くにいたコリンは寒気を覚える。


 さらに、カトリーヌの左手付近に集まっていた冷気も形を成し、彼女の全身をすっぽり覆う巨大なタワーシールドとなった。


「あ、あれが噂に聞く氷撃鎚バハク……! な、なんて大きさなんだ……!」


「あんなのに叩き潰されたら、ひとたまりもねえぞ!?」


 完全武装したカトリーヌを見て、教団の戦士たちは動揺する。そんな彼らを一瞥した後、カトリーヌはコリンに声をかけた。


「コリンくん、わたしが道を開くわ~。危ないから、ここで見ててね」


「うむ、先鋒は譲ろう。おもいっきり、怒りをブチ撒けてやるがいい」


「ふふ、ありがとうね~。見せてあげるわ、『金牛星』アルベルト・ウィンター様から受け継いだ……天下無双の怪力を、ね」


 いつもと変わらない微笑みを浮かべ、カトリーヌはゆっくりと歩き出す。このすぐ後、コリンは知ることとなる。


 聖母のように穏やかなカトリーヌに秘められた、恐るべき爆発力を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完全に頭が氷点下超えてキレてる二人が行ったか(ʘᗩʘ’) でも氷のビキニアーマーとはコリンの目に毒だろ(↼_↼) その上ハンマー使いでは前作のあの人と被ってないか?普段シスターだし(゜ο゜…
[一言] さて、悪い子は矯正させとけばいいが、腐った悪党は叩きのめす!!!
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