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136話―羊たちのお助け旅団

 フェンルーが仲間に加わった次の日。新たに制圧した各地区から、不思議な人たちの目撃情報が寄せられてきた。


 羊の被り物をした一団がどこからともなく現れ、戦闘で壊された町の修復をしたり、炊き出しを行って住民たちを元気付けているらしい。


「何とも不思議な話じゃのう。……というか、それはバルダートン家の者たちではないのか?」


「奇遇だね、コリンくん。私もそう思っていたところだよ。……済まないが、実態を調査してきてはもらえないかな?」


 話を聞いたコリンとヌーマンは、即座に正体を考察する……が、それが本当だという確証はない。平定した地域の復興や治安レベル向上のため、しばらく戦いの予定はない。


 そのため、コリンはヌーマンの頼みを快諾する。レジスタンスの面々や忍びたちは忙しいため、同行するのはもちろん……。


「というわけで。一緒に来てもらいたいのじゃよ、フェンルー殿」


「あい、お任セ! それと、ワタシのことは呼び捨てにしていいヨー」


「ん、承知した。では、早速調査に行こうぞ」


 フェンルーが一緒に来ることになった。カトリーヌは星魂顕現の反動で寝込み、エステルは療養中の父を迎えに行くため出払っている。


 必然的に、フェンルーしか同行出来る者がいない。それに加え、仮にバルダートン家の者たちが各種支援を行っているなら、フェンルーがいた方がスムーズに話が進む。そうした考えも込みだ。


「それで、まずはどこに行くノー?」


「現状、一番新しい目撃情報があるラタンの町に行ってみようと思うておる。ウィンター領に近いでな、三時間もあれば行けよう」


「よーし、それじゃレッツゴー!」


 パジョンの外に出たコリンは、シューティングスターを呼び出し南へ向かおうとする……のだが。


「おー! これ凄いね、ピッカピカだヨ! どんな造りになってるのかナ? あっ、ここ回すと動くノ?」


「あああ、待つのじゃ待つのじゃ! あちこちいじり回すと暴走してしま……ダメじゃ、そこに触れてはならーん!」


 生まれて初めて見たキカイにフェンルーが大興奮してしまい、落ち着かせるのに十分近い時間がかかってしまったのだ。


 幸い、バイクが故障する事態だけは避けられた。が、この時コリンは心の中で固く誓う。次からはあちこち触られないよう、対策を練ろうと。


「……さて、ようやく着いたのう。まずは聞き込みから始めるとしようぞ」


「あい!」


 三時間とちょっとが過ぎた後、ようやくコリンたちはラタンの町に到着した。手分けして聞き込みをする……つもりだったが、目的の団体がすぐ見つかった。


「ん? 間違いない、あれが」


「あ、オトウチャンだ! おーい、オトウチャーン!」


「って、やはりバルダートン家じゃったか……。フェンルーを連れてきて正解じゃな」


 ついでに、相手方の正体もあっさり判明した。嬉しそうに笑いながら、フェンルーが走り寄っていくのを見てコリンは苦笑する。


 少し遅れて後を追い、町の広場で炊き出しを行っている羊の被り物を身に付けた一団の元へ向かう。広場に足を踏み入れた、その刹那。


 目にも止まらぬ速度で接近してきた二人組みにとっ捕まり、コリンは広場の中央に拉致される。そして……おもてなしを受けた。


「ん? んん?? んんん???」


「ようこそようこそ、こうして出会えて実に喜ばしい限り! さあみんな、英雄さんを歓迎しよう!」


「はーい!」


 コリンを連れてきた者たちを含め、十一人の被り物軍団がにわかに盛り上がる。その中心にいるのは、前当主リヒターだった。


「ほっほっほっ。久しいのう、坊。元気そうで嬉しいよ」


「長老! よかった、そなたも健在だったのじゃな! ……して、これは一体?」


「あの日から、わしらは旅をしておるのじゃ。人々を助けるための旅をな」


 町の住民たちにスープを振る舞う親族たちを見ながら、リヒターは被り物を脱ぎつつそう答える。すっかり禿げ上がってしまった頭を、つるりと撫でた。


「人助けの旅?」


「そうじゃ。元々、わしらバルダートン家は領地を持たぬ流浪の一族。他の星騎士と分断されてしまったせいで、邪神への反抗もおぼつかぬ」


「だから、我々は邪神の勢力に見つからないようこっそり大陸各地を回っているんです。人々を助けながらね」


 コリンとリヒターが話をしていると、そこに先ほどの二人組みの片割れがやって来た。リヒターによく似た顔立ちの、中年の男だ。


 悲しいことに、羊の被り物がまったく似合っていない。思わず吹き出しそうになるコリンを見て、男は大袈裟に首をすくめる。


「やれやれ。会う人みんな、おんなじ反応をするんですよ。あ、まだ名乗ってませんでしたね。僕はトランチと言います。フェンルーの父です、どうぞよろしく」


「こちらこそよろしくですじゃ。ということは、もう片方は」


「はい、妻のマーシェルです。ガルダ草原で暮らす羊部族出身の……ってのは、もうフェンルーから聞いてますね」


 リヒターの息子、トランチも交え三人は広場の隅に移動してそれぞれの四年間の出来事を話し合う。といっても、あまり話すことのないコリンが聞き役に回っていたが。


「……みな、苦労しておるのじゃな。わしがもっと早く帰還出来ておれば……」


「いやいや、坊は悪うない。悪いのは、坊に頼らんと何も守れなかったわしらじゃ。坊がいない間は、わしらがこの大地を守らにゃならんかったのになぁ……」


 話を聞き終え、謝罪の言葉を口にするコリン。そんな彼に対して、自責の念を込めてリヒターはそう答えた。トランチも同意し、深く頷く。


 が、その直後にトランチが咳き込んだ。ハンカチを口に当て苦しそうに咳をする彼の後ろに回り、コリンは背中を撫でる。


「トランチ殿、大丈夫かのう?」


「ああ、ありがとう。情けないことに、僕は肺を患っていてね……戦えないんだ。本当は、父の代わりにバルダートン家の代表として戦わないといけないのにね」


 コリンにそう言った後、トランチは悲しそうに広場の中央を見る。一族の者たちと一緒に炊き出しをしているフェンルーを、ジッと見つめていた。


「……あの子はまだ十七。普段は明るくいい子ですが、一族の名を負って立つプレッシャーがどれほどのものか。父として、本当に心配だよ」


 その言葉を聞き、コリンもフェンルーの方を見る。思えば、これまでのはしゃぎっぷりも不安とプレッシャーに押し潰されないようにするためのものだったのかもしれない。


「坊、わしからも頼みたい。孫娘を……フェンルーを共に支えてはくれぬか?」


「もちろんですとも。志を同じくする者同士、支え合うのは当然のことですじゃ」


「そうか、そう言ってもらえて安心したよ。わしらはしばらく、ウィンター領を拠点に活動しようと思っておる。明日にでも、ヌーマン卿に挨拶せねばな」


「……そういえば、何故にフェンルーだけ別行動を? ゼディオの監視を潜り抜けてウィンター領に近付くのは、相当難しいはずでしょうに」


 現在、旧ゼビオン帝国一帯は銀色の太陽を用いてゼディオに監視されている状況だ。分散して行動すれば、それだけ見つかるリスクが高まる。


 だというのに、何故フェンルーだけがフォネイラ湖にやって来たのか。その答えは……。


「実はね、僕たち一族揃って……うん、方向音痴なんだよね……」


「……はい?」


「うんむ、監視の目を誤魔化しながらウィンター領を目指しておったのじゃがな。途中であっちへフラフラ、こっちへフラフラしとる間に……」


「……フェンルーがはぐれた、と」


 コリンの言葉に、リヒターとトランチが頷く。一族からはぐれ、たまたまフォネイラ湖の近くに迷い込んでいただけらしい。


 真相を知ったコリンは、あまりのしょうもなさにずっこけてしまった。何か重大な問題があったのかと思っていただけに、心配損である。


「……ま、よいわ。しかし、そうなるとますます心配じゃのう。みな、迷わずにパジョンに行けるのかえ?」


「無理だネー。だから、コリンくんに道案内してもらおーと思ってるヨー」


 コリンが問うと、炊き出しの手伝いを終えたフェンルーがやって来た。大きなため息を吐いた後、コリンは頷く。


「……仕方あるまい。今日はこの町に泊まろう。明日、共にパジョンに行こうぞ」


「ワーイ! ありがとー、コリンくん!」


「済まんのう、何から何まで迷惑をかけて。わしも最近、とんと身体が弱ってしもうてな。まったく、歳は取りたくないものだのう」


 バルダートン家という羊に囲まれ、コリンは苦笑いする。彼の受難は……まだまだ、始まったばかりだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一族揃って方向音痴か(ʘᗩʘ’)最早血筋としか言えんのか(↼_↼) 羊を導くなら牧羊犬が必要だな(゜ο゜人))
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