表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/311

134話―金牛の覚醒

 両足を土の中に埋め込まれ、身動きが取れなくなってしまったカトリーヌ。何とかして足を引き抜かなければ、満足に攻撃をかわせない。


 だが、それはボルガンも理解している。故に、土を固めて簡単に足を抜けないようにしつつ、息もつかせぬ連続攻撃を行い着実に傷を与えていく。


「グプププ、そぉらそらそら! おれっちの爪は痛ぇだろ? いくらオーガの皮膚が頑丈だってもよぉ、血が滲んできてるぜぇ!」


「……ええ、そうね。あなたの爪、とっても痛いわ。でもね、このくらいの痛み……。あなたたちの起こした戦乱の最中で、苦しみながら死んでいった人たちのソレに比べれば、全然痛くないわ! アイスボール・ショット!」


「おっと! 危ない危ない、そんなの当たらねえよ! グププププ!」


 氷の球を発射し、反撃に出るカトリーヌ。だが、ボルガンは爪を伸ばして天井に突き刺した後、縮小させて上方に素早く移動する。


 あらゆる方向を分厚い土の壁に囲まれているこの状況は、圧倒的に不利状態だ。氷の球が壁にぶつかって砕ける音を聞きつつ、カトリーヌは呟く。


「……だいぶ追い詰められたわね。生来の頑丈な身体がなかったら、とっくに死んでいるわ。……わたしは負けられない。星痕よ、わたしに力を!」


「祈ったところでムダさぁ! お前はここで死ぬし、湖に毒を投げ込むのを止めることも出来ない。みんな仲良く、あの世に送ってやる! モール・クロウ・ドリラー!」


 地面に降りたボルガンは両手をピタッと重ね、爪を絡め合いドリルのような形状へと変える。後ろに跳んでから壁を蹴り、勢いをつけ突進してきた。


 カトリーヌは左腕に力を込め、タワーシールドを構える。盾と爪がぶつかり合い、勝ったのは――ボルガンの爪だった。盾が砕け、爪がカトリーヌの腹に突き刺さる。


「そんな……う、かふっ!」


「ハッハー、やったやったぁい! ご照覧あれ、ゼディオ様! おれっちが星騎士を一人、討ち取りますぜぇ!」


「そうは……させ、ないわ!」


 幸い、爪は腹筋に阻まれ半分も刺さってはいない。だが、これ以上押し込まれれば確実に死んでしまう。武器から手を離し、カトリーヌは相手の腕を掴む。


「これ以上、は……やらせ、ないわ!」


「へっ、いつまで押さえてられるかねぇ? どんどん血と一緒に、力も抜けていくんだ。最後の悪足掻きにしかならねえんだよ!」


 カトリーヌにトドメを刺すべく、ボルガンも全身に力を込めて押し合いになる。大ケガを負ってしまっている以上、カトリーヌの方が不利だ。


 腹部の痛みが集中力を削ぎ落とし、傷口から溢れ出る血と共に力が失われていく。必死に腕に力を込めるが、いつまでも押さえてはおけない。


(わたしは、ここまでなのかしら……。みんなの仇も討てず、シュリも探せない……こんな、惨めな……)


『諦めるのかえ? カトリーヌ。いかんのう、そなたらしくもないではないか』


 心の中で敗北を認めつつあったカトリーヌの脳裏に、突如コリンの声が響く。朦朧としはじめていた意識が一瞬で覚醒し、カトリーヌは驚く。


(コリン、くん? ここにいるなんてあり得ないわ、今は南の方にいるはずなのに)


『そうじゃ。わしはコリン本人ではない。そなたの中にある星の力が、想い人の声と口調で語りかけているだけに過ぎぬ』


 頭の中に響く声が、そう告げてくる。カトリーヌが沈黙していると、声が再び語りかけてきた。コリンのような、力強い声で。


『負けられぬ戦いなのじゃろう? ならば、我が力を使え。そなたの内に流れる星の力を解き放つのじゃ!』


(無理よ……だって、どうやればいいのか分からないもの……)


『問題はない。かの少年によって、全ての枷が外された。四年間鍛え続けてきた今のそなたならば、我が力を使いこなせるはず。さあ、叫ぶのじゃ。星の力を宿すための言葉を!』


 次の瞬間、カトリーヌの頭の中に()()()が流れ込んでくる。それは、先祖代々受け継がれてきた星の力を解き放つための合言葉。


 絶対に負けられない。愛する者たちを守りたい。その思いが、覚悟と決意を呼び覚ます。もう、迷いもためらいも――欠片もなかった。


「……そうね、ここで負けるわけにはいかないわ。なら、わたしのするべきことは一つね」


「なんだぁ? さっきから何をブツブツ言ってる? 血を流しすぎて頭が変に――!? って、冷た! な、なんだこの冷たさは!?」


 カトリーヌの変化に気付かず、攻撃を続けていたボルガン。だが、突如爪に鋭い冷気を感じて思わず攻撃を中断し、飛び退いてしまう。


 腹から爪が引き抜かれた瞬間、氷の膜が傷口を覆って血を止めていく。カトリーヌの胸に浮かぶ【ウィンターの大星痕】が、一際強い青色の輝きを放つ。


「……見せてあげるわ。わたしの中に眠る力を。怒れる暴牛の、破壊のパワーを! 星魂顕現・タウロス!」


「ぐ、う、うわあああ!!」


 次の瞬間、カトリーヌの身体から凄まじい冷気の嵐が放出される。まともに立っていられず、風に煽られボルガンは吹き飛ばされた。


「な、なんだってんだあの姿……ありゃあ、牛……なのか?」


「はああああああああああああ!!!」


 カトリーヌの身体が、冷気を吸収し変化していく。両足首を固めていた土が吹き飛び、氷のヒヅメに覆われた足があらわになる。


 頭部には、闘牛のソレを思わせる鋭く湾曲した大きなツノが生え、腰からは先端に小さな毛のふさが付いたしっぽが垂れた。


 人と牛、二つの力と姿を兼ね備えた存在へと、カトリーヌは進化したのだ。


「……力が、溢れてくるわ。きっと、コリンくんも……この感覚を味わっていたのね。うふふ、お揃いだわ」


「へっ、ちょっと姿が変わったからって調子に乗るんじゃないぜ! おれっちの爪で、今度は顔を切り裂いてやる! モール・クロス・ネイル!」


「ムダよ、あなたはもうわたしを傷付けられない。タウロス・タックル!」


 ボルガンは再度背後にある壁を蹴り、フライングクロスチョップの要領で攻撃を放つ。対して、カトリーヌは足で地面を数回掻き、勢いよく突進していく。


「死……ぐばぁっ!」


「うふふ、牛さんの突進力を舐めちゃダメよ? その爪、もう使えないようにへし折ってあげる! バハクインパント!」


「うぎゃあっ! お、おれっちの爪が!」


 今度の対決は、カトリーヌに軍配が上がった。ツノを用いたタックルでボルガンを弾き飛ばしつつ、しっぽを使ってハンマーを手元に引き寄せる。


 そのままハンマーを振るい、長く伸びているボルガンの爪に叩き付け粉々に砕いてみせた。モグラ獣人は自慢の武器を失い、地面に激突する。


「ぐ、あ……! クソッ、まだだ。ここでやられちまうわけには……」


「残念だけど、もう終わりよ。あなたには……いいえ、あなたたちにはもう、何一つ奪わせない。自然も、領土も、命も全て!」


 大ダメージを受けながら、なおも立ち上がってくるボルガン。それを見たカトリーヌはもう一度地面を掻き、勢いよく走り出す。


「まだだあっ! 食らえ、ストーンキャノン!」


「ムダよ、全部砕いてあげるわ!」


 ボルガンは折れた爪で地面を掻き、土の塊を飛ばして悪足掻きをする。だが、全てハンマーで打ち砕かれ不発に終わった。


 胸に浮かぶ星痕を輝かせ、カトリーヌは加速する。目を開き、にっこりと微笑みを浮かべながら。


「これで終わりよ。金牛星奥義! レイジングホーン・ブレイカー!」


「ぐっ……ぎゃあああああああ!!」


 氷撃鎚バハクの打面に、氷のトゲが生成される。ソレが勢いよく振り抜かれ、ボルガンに炸裂した。断末魔の叫びをあげ、邪神のしもべは吹き飛ぶ。


 土の壁に激突し、その衝撃でフォネイラ湖を覆っていたドームが崩壊した。土くれが消滅していく中、カトリーヌは髪をかきあげる。


「……ありがとう。わたしの中に眠る、星の力。おかげで……一歩成長出来たわ」


 柔らかな笑みを浮かべ、乙女はそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] コリンほどリスク無しで使えるのは良いが(ʘᗩʘ’)それだと結局コリン1人残ることになる(-_-;) 歴代の嫁達みたく人を辞めても添い遂げる決意きめる時が来るのかのう(◡ ω ◡)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ