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126話―夢の中の再会

 ウィンター領防衛戦は、コリンたちレジスタンスの大勝利で幕を閉じた。ほとんどの聖王国軍の兵士は殺されたが、コリンは四人だけ生かした。


「コーネリアス様、何故この四人だけ?」


「一人は敵の元に帰す。わしからの宣戦布告を、ゼディオに届けるためのメッセンジャーとしてな。残りは捕虜じゃ。ゼビオン領を占領している奴らの情報を話抜き出させてもらう」


「なるほど、そういうことでしたか。分かりました、では一人お選びください。残りの者を捕虜として連行します」


 すでに自分が帰還したのを知っているだろうが、改めて宣戦布告しなければ気が済まない。ゴードンにそう説明した後、コリンは生存者たちを見る。


 別にメッセンジャーは誰でもよかったので、最初に目が合ったヒゲもじゃの兵士を選ぶことにした。彼に近付き、その場に立たせる。


「では、おぬしにメッセンジャーをしてもらおうかのう。途中で逃げたりせぬように、細工をしておこう。ほれ、口を開けい」


「誰が開け……おぐっ!」


「開・け・よ」


「……はい」


 抵抗するヒゲもじゃだったが、脛を杖でブン殴られおとなしくなった。口を開くと、コリンは杖から生成したスライムをぶち込んだ。


「もごっ!? おごおっ!」


「よいか? おぬしは真っ直ぐ敵の親玉の元に戻り、わしのメッセージを届けるのじゃ。途中で逃げようとすれば、体内のスライムがドッタンバッタン暴れまわるぞよ」


「わ、分かりました! 真っ直ぐ帰ります!」


 バルードイの末路を見ているだけあって、ヒゲもじゃは必死に頷く。体内からスライムに喰われるなど、想像もしたくないらしい。


 運良くメッセンジャーに選ばれずに済んだ他の三人は、安堵の表情を浮かべながら憐れみの視線をヒゲもじゃに送る。


 ……もっとも、彼らも彼らで苦難が待ち受けているのだが、それはまた別の話である。


「ほれ、早速帰るがよい。スライムで作った馬に乗せてやろう、早く帰れるぞよ」


「はいいぃぃぃー!」


 コリンが作ったスライムの馬に跨がり、ヒゲもじゃは南へ向かって出発した。残りの三人は後ろ手にロープで縛られ、騎士たちに連行されていく。


「これにて雌雄は決した。我らの勝利だ! さあ、領都へ凱旋しよう!」


「おおーーー!!」


 勝利に沸き立つ騎士たちは、ゴードンやコリン、カトリーヌを先頭にパジョンの町へと帰っていく。この戦いを機に、風が吹きはじめた。


 偉大なる勝利と支配からの解放をもたらす、闇色の風が。



◇―――――――――――――――――――――◇



「ふぁ……ふ。あの忌々しい太陽のせいで、すっかり昼夜の感覚がなくなってしもうたわ。変な時間に眠うなってかなわんわい……」


 パジョンに戻り、勝利を報告したコリンたち。ヌーマンは大層喜び、祝いの宴が行われることとなった。領民たちも参加し、盛大な宴が開かれる。


 宴を楽しんだ後、コリンはウィンター邸三階にある客室で休んでいた。太陽光を遮断するため、黒色の分厚いカーテンをかけている。


「むう……一度眠るとするか。疲れを溜めるのはよくない……」


「うふふ、そうね。なら、わたしたちが添い寝するわ~」


「ふ、ふつつか者ですが……頑張りましゅ!」


 コリンがベッドで横になろうとした時、部屋の扉が開く。入ってきたのは、枕を持ったカトリーヌとエレナの二人だった。


 カトリーヌは牛、エレナはうさぎの着ぐるみパジャマを着ている。疲労が溜まっていたコリンは、もうツッコむ気力もなかった。


「……左様か。では共に寝るのじゃー。新しい闇魔法は燃費が悪くての、すぐ疲れてしまうのじゃ……」


「うふふ、ならわたしたちがゆっくり癒してあげる。おじゃましま~す」


「し、失礼しましゅ!」


 ニコニコ笑顔のカトリーヌはともかく、エレナの方はかなりこっ恥ずかしいようで顔が真っ赤だ。それでも退かない辺り、覚悟は決まっているらしい。


 二人でコリンを挟むようにベッドに寝転がり、ぎゅっとくっついて人間布団になる。世の男たちが血の涙を流して羨ましがるシチュエーションの完成だ。


「お疲れさま、コリンくん。ゆっくり眠ってね。よいしょ、腕枕してあげるからね~」


「じゃ、じゃあ私は……子守唄を歌います! 昔、ばあやが歌ってくれたのを……」


「ありがとのう、二人とも。ぐっすり眠れそうじゃわい」


 その言葉通り、コリンはあっという間に寝付いてしまった。穏やかな表情で寝息をたてる少年を、カトリーヌたちは愛しげに見つめていた。



◇―――――――――――――――――――――◇



『……ン。……コリン、聞こえているか?』


「ん、む……この声は、パパ上?」


 夢の中で、コリンは何者かに語りかけられる。語りかけてきたのは、彼の父……フリードだった。


『よかった、声は届いたようだな。ずっと音信不通になっていて心配したぞ、俺もフェルメアも。一体何があったんだ?』


「うむ、実は……」


 この四年間、フリードたちもコリンを探していたようだ。コリンは空中神殿での戦いから今日に至るまでの出来事を、洗いざらい話して聞かせる。


 話を聞いていたフリード、コリンの言葉が終わったしばし沈黙する。イゼア=ネデールの現状を知り、心を痛めているのだろう。


『……そうだったのか。ついにヴァスラサックが復活を果たしたわけだ。奴め……』


「パパ上、わしが戻ってからずっとマリアベルと連絡が取れませぬ。城との繋がりも絶たれて……何がどうなっているのやら」


『マリアベルか。四年前から、コリン同様プッツリ連絡が途絶えてしまっている。城そのものは健在なのだが……』


 せっかくなので、コリンはマリアベルの安否についてフリードに尋ねる。が、フリード側もマリアベルに何が起きたのか分かっていないようだ。


「なのじゃが?」


『深い眠りに着いているようで、全く反応がない。分身体に強力な眠りの魔法をかけられているようでな、本体にも影響が及んでいる状態だ』


 フリードの言葉に、コリンは考え込む。最後にマリアベルと顔を会わせたのは、空中神殿に乗り込む直前だ。そのすぐ後、例の出来事が起きた。


(……わしがいなくなったすぐ後で、()()()が起きたのじゃろう。復活した邪神の子に捕らえられた……というのも考えられるが、ううむ……)


『コリン、今イゼア=ネデールは強力な結界に守られている状態にある。俺やフェルメアだけでなく、天上の神々も介入出来ないほど強固だ。破るのには、かなり時間がかかるだろう』


 コリンが考え込んでいると、フリードが語りかけてくる。ヴァスラサックは外部からの邪魔が入らないように、すでに手を打っていたようだ。


『今しばらくは、大地に住む者たちと協力して持ちこたえてくれ。一部分でも結界を破れれば、綻びから部下を送り込める。そうすれば』


「いえ、ここはわしら星騎士にお任せください。天上の神々も、介入の機会を窺っているはず。パパ上が動けば、それに乗じて動いてくるかと」


『……確かにな。ヴァスラサックの復活を口実にして干渉してくるだろう。そうなれば、事態が余計複雑なことになるのは想像にかたくない』


「ですので、パパ上はそちらを抑えてくだされ。ヴァスラサック一味は、わしら現役の星騎士が倒します。そのために、この力があるのですから」


 助力を申し出るフリードに、コリンはそう答える。ただでさえ厳しい状況なのに、余計な勢力の介入は避けたいのだ。


 故に、フリードに頼んだ。イゼア=ネデールを狙う勢力が介入してこないよう、睨みを利かせてもらうことを。


『……分かった。お前は俺の自慢の息子だ、勝利を信じよう。マリアベルの件も、引き続き調査を進める。頑張れよ、コリン。俺もフェルメアも応援しているぞ』


「ありがとうございます、パパ上。見ていてくだされ、わしは必ず邪神を滅ぼしてみせまする!」


『……ああ、期待している。お前の力を、存分に見せつけてやれ!』


 勇ましく啖呵を切り、コリンはそう宣言する。息子の力強い言葉に、フリードはそう答えた。



◇―――――――――――――――――――――◇



「ンフフフフ。やはりあの程度の軍勢では、星騎士二人を討ち取るのは無理だったようだなァ。ま、いいさ。物資も兵力も、全てこちらが上。それに、()()()()も進んでいる。それが成功すれば、奴らは全滅だ」


 その頃、銀色の太陽を通して戦いを見ていたゼディオは旧ゼビオン城のテラスにいた。日光浴をしながら、そう呟く。


「ゼディオ様、報告があります。ここ数ヵ月、ラーナトリア家の密偵を追跡していたのですが……」


「首尾よく逃げおおされた、と。我の元にくる報告は、決まっていつも悪いもの。今回もそういうことなのだろう? ん?」


「は、はい。申し訳ございません!」


 そこに、彼の部下が現れる。報告があったようだが、先に内容を言われ申し訳なさそうにうつむく。


「よいさ。ラーナトリア家の当主はすでに無力化してある。小娘がどれだけ足掻こうとも、どうにもならぬさ。捨て置け、今は最優先事項があるからな」


「ハッ、かしこまりました!」


 部下にそう答え、ゼディオは太陽を見上げる。彼の元にコリンのメッセージが届くまで――時間は、そうかからない。

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― 新着の感想 ―
[一言] あのマリアベルがコリン消失の後ぐらいに無力か?(ʘᗩʘ’) ちょっと手が早くないか?あの時の女神はまだ不完全だった筈だが神殿消滅のどさくさ紛れて生き延びても早々に能力を使えるか?(゜o゜; …
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