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120話―流転する運命の果てに

「な、なんだその姿は……!? 貴様、一体何をしたのだ!?」


「わしの中に眠る星の力を、解き放ったまでのこと。全ての星騎士がこの切り札を持ち……一人が解禁すれば、他の者たちも連鎖的に扱えるようになる。もっとも、今のわしには負担が大きいがの」


 禍々しい姿に変貌した宿敵を見て、動揺するオラクル・カディル。そんな彼に、コリンは口から血を垂らしながら答える。


 まだ幼い彼の身体では、莫大な星の力に耐えきることが出来ないようだ。杖を支えにしながら、左手で血を拭う。


「フッ、命を削っているというわけか。なら、勝機はこちらにある! 行け、絵札の戦士たちよ!」


「……ムダなこと。この姿になったわしに、敗北などない。見せてやろうぞ、闇の真髄を!」


 そう叫ぶと、コリンの身体から黒色の煙が吹き出した。そこに各スートの絵札と残りのスペードの字札が突撃していくが……。


「!? バカな、私のトランプが消滅しただと!?」


「わしの身体から出ているのは、ただの煙ではない。貴様ら大地の民にとって猛毒となる、濃厚な闇の瘴気を放っておるのじゃ。神の魔法で生み出されたトランプなど、すぐに腐食して消滅するわ」


「くっ、とりあえずカードの補充をせねば……!」


 闇の瘴気に触れた途端、カードが腐り落ち消滅してしまう。どんな特性があろうとも、直接トランプでコリンを傷付けることはもう出来ない。


 オラクル・カディルが取れる戦術は、もう一つしか残されてはいない。コリンの身体が星の力に耐えられなくなり命を落とすまで、逃げるだけだ。


 だが、そんな悠長な戦法を許すほどコリンは甘くない。目にも止まらぬ速度でオラクル・カディルの元に走り、飛び膝蹴りを叩き込む。


「そうはさせぬわ!」


「ぐ、がはっ!」


 カードの補充も間に合わず、カディルは吹き飛び壁に叩き付けられる。残った四枚のエースのカードも、闇の瘴気により消滅した。


「これでもう、厄介なトランプは使えぬな。残る一枚、ジョーカーがちと不穏ではあるが……使う前に仕留めればいいだけのこと」


「ぐう、おのれ……!」


「ふふ……ぐ、うぇぇっ!」


 床に崩れ落ちたオラクル・カディルは、満身創痍になりながらも立ち上がる。一方のコリンも、強すぎる星の力に身体を蝕まれ床に血を吐く。


「フッ、お前の方もだいぶキツそうだな。辛いなら、解除してもいいのだぞ」


「そうはいかぬわ。わしが星の力を解除すれば、貴様は即座にトランプの束を呼び出すじゃろう。消耗しきったわしでは、もう勝ち目はない。故に……このままトドメを刺す!」


 コリンの額にある【ギアトルクの大星痕】が、さらに強く輝く。最後の切り札を放ち、長かった戦いに終止符を打たんとしているのだ。


「磨羯星奥義! ディザスター・フォトン・イレイザー!」


「くっ、ここで負けるまけにはいかぬ! デスペラード・トランパート再発動! 女神よ、私に力を!」


 コリンの頭上に、山羊の頭蓋骨が描かれた丸い門が現れる。門が開くと、その奥から強烈な闇の波動が放たれた。


 最後の力を振り絞り、ジョーカーを除く五十二枚のカードを再召喚したオラクル・カディルはその全てを展開し、自身を守る壁にする。


「いけええぇぇぇぇぇぇ!!!」


「ぐ、う……まずい、耐えきれな――」


 だが、それでもなおコリンの奥義を防ぐことは出来なかった。全てのトランプが焼け焦げ、消滅し……闇の奔流が、カディルを呑み込んだ。


「ごふ……がはっ!」


「はあ、はあ、はあ……。これで、奴も終わりじゃな。全く、肝を冷やしたぞよ……」


 闇の波動が消えると、全身が焼け爛れたオラクル・カディルが床に倒れ込む。その執念故か、驚くへきことにまだ息があった。


 とはいえ、すでに虫の息。あと数分もすれば、力尽き息絶える。そう思い安堵していたコリンだったが……。


『よく倒したものね、我がしもべたちを。その力、憎らしいわ』


「! その声……貴様は、ヴァスラサック!」


 倒れ伏したオラクル・カディルの胸ポケットから、ジョーカーのカードが飛び出し宙に浮かんだ。そして、低い女性の声が聞こえてくる。


 かつて大地を支配し、人々を苦しめた末に十二人の星騎士に討たれた邪神。ヴァスラサックがついに、コリンにコンタクトを取ってきたのだ。


「待っておれ、ヴァスラサック。今から貴様を討伐しに行くからのう!」


『ふふ、それは無理ね。だって、お前はこの大地もろとも滅びるのだもの』


「なに……むうっ!?」


 次の瞬間、神殿全体を強い揺れが襲った。そのすぐ後、コリンは異変を感じ取る。空中神殿が、ゆっくりと落下しはじめているのだ。


『オホホホホ! この神殿には、浮遊させるための莫大な魔力が注ぎ込まれているのよ。もし地上に落ちれば、その衝撃で大爆発。全てが塵になるわね』


「おのれ、貴様!」


『わらわを倒しに来るかしら? 歓迎するわ。わらわと戦っている間に、この大地は滅びるけれどね! オーホホホホホ!!』


 ヴァスラサックは神殿を地上に落とし、全てを滅ぼすつもりでいた。全ての命を根絶やしにし、新たな生命を創り出し第二の理想郷を生み出す。


 それが、邪神の目論見だった。


「ふ、ふふ……諦めろ、コリン。もう、何をしてもムダだ。私もお前も、地上の者らも。みな、滅びる。すべては、偉大なる女神の意のままに」


「ふざけるでないわ。かようなこと、このわしがさせぬ。大地の破壊など、決して許さぬわ! ディザスター・ランス!」


 死に瀕したオラクル・カディルの言葉に憤り、コリンは礼拝堂の床を闇の槍で破壊する。大きな穴が開き、遥か下にフィアティー大会堂がポツンと見えるようになった。


『あら、何をするつもりかしら? ふふ、せっかくだから最後まで見届けさせてもらうわ。存分に足掻きなさい。抜け出せない絶望の中でね!』


「絶望? そのようなもの、わしは抱かぬ。わしが抱くのは……この大地を、仲間たちを守り抜くという信念と覚悟のみ! はあっ!」


 楽しそうに嘲りの言葉を口にするヴァスラサックにそう答えた後、コリンは手にした杖を勢いよく穴の中に投げ込む。


 回転しながら落下していく杖は、ある程度下に落ちたところで黒い光を放つ。そして、神殿全体を呑み込むほど大きな、異次元へ転移するゲートが開く。


「この大地に、神殿は落とさせぬ。わしや貴様らもろとも! 異次元に落ちてもらうぞ」


『愚かな! 巻き込まれてはたまらぬ、ここから』


「逃がしはせん! ヴァスラサック、一人だけトンズラしようなどわしが許さぬぞ」


『くっ、離せ! 離しなさい、この下等生物が!』


 異次元に落ちたところで、神殿の迎える末路は変わらない。ここに留まれば、ジョーカーを介して顕現しているヴァスラサックも無事では済まない。


 それを分かっているコリンは、邪神が逃げられぬようカードを掴む。闇魔法で床に固定し、カードからの逃走を封じる。


「おぬしは復活間近のようじゃのう、え? 神殿の落下で生まれる爆発を食らって、タダで済めばいいのう~」


『ぐぬうう! よくも、よくもこんな! カディル、この者を殺しなさい!』


「ムダじゃよ。あやつは一足先に死んだ。わしも、さっさと逃げ……う、ごほっごほっ!」


 後は、神殿から脱出すれば全て丸く収まる。だが……コリンにはもう、逃げ出すだけの力も残ってはいなかった。


 その場に崩れ落ち、口から盛大に血を吐く。星を宿した状態を解除し、荒い息を吐いた。


「はあ、はあ……。もう、限界か。やはり、禁断の奥義を用いた代償は大きいのう」


『フ、あははははは!! 残念だったわね、お前の運もどうやらここで尽きたようねぇ。潔く滅びなさい、この神殿と共に!』


「悪いのう、それだけは出来ん。わしは約束したのじゃ。何があろうとも、仲間たちの元に帰ると。それに……」


『それに、何だ?』


「体力を消耗してはいるが、この程度の窮地で……わしが死ぬとでも思うたか? 例え何ヵ月、何年異次元をさ迷うことになろうとも。わしはイゼア=ネデールに帰還してやるわ!」


 邪神を相手に、コリンは勇ましく啖呵を切る。その時、脳裏に仲間たちの姿がよぎった。頼もしく、愛しい星を宿す騎士たちの姿が。


「……済まんのう、みんな。今すぐには、帰れそうもないわい。大幅に遅れてしまう愚か者を、後でたんと叱っておくれ」


 罵詈雑言を喚き散らすヴァスラサックを無視し、床に座り込んだコリンはそう呟く。その直後――神殿は異次元へのゲートに呑まれ、完全に消え去った。


 偉大なる英雄と、邪神を内に抱いたまま。


「……わしは死なぬ! どんな手を使おうとも、必ずや舞い戻ってくるぞ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりこうなってしまったか(ʘᗩʘ’) 流石に一人で女神を討つのは分が悪過ぎる(-_-;)挑むにしても皆でが1番最善だったか(◡ ω ◡) この状況では生き残れただけでも大金星か(↼_↼)…
[一言] コリーーーーーーン!!!
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