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117話―たった一人の最後の戦い

「一人で来いだぁ? あの野郎、ふざけたこと言いやがる。コリン、あんなのに従う必要はねえぜ。全員で乗り込んで」


「いや、それは無理じゃ。マリアベル、ここへ」


「はい。マリアベル、ただ今推参致しました」


 勇ましく言い放ち、光の柱を指差すアシュリー。そんな彼女に、コリンは首を横に振る。自身の従者を呼び出し、一つを指示を下す。


「マリアベル。こんなことは言いたくないのじゃが……実際に見せねばみな分からぬ。あの光の柱に触れてはもらえぬか。僅かな時間でよい」


「かしこまりました。全て、お坊っちゃまの仰せのままに」


「何だ? 一体何をやろうって――!?」


「ぐっ……! やはり、わたくしでは()()()()耐えられませんね……」


 バーラムが疑問の声をあげた、次の瞬間。光の柱に触れたマリアベルの指が、一瞬で白骨になってしまった。


 即座に手を離し、指を治癒するが顔は苦痛で歪んでいる。不本意な指示を出してしまったことを悔いながら、コリンは謝罪した。


「済まなかった、マリアベル。そなたに無用な苦しみを経験させてしもうた」


「いいのです、こうして結果を見せれば皆様納得するでしょうから」


「なあ、もしかしてウチらがアレに触れたら……マリアベルはんみたいになるっちゅーことか?」


「左様。あの光の柱は、ヴァスラサック由来の神の力と、どこから調達してきたかは分からぬが闇の眷属の力で作られたもの。耐性の無い者が触れれば、全身が骨になって死ぬのじゃ」


 コリンの言葉に、アシュリーたちは驚きで固まってしまう。純血の闇の眷属、マリアベルですら耐えられない神と魔の二重防御を、ただの大地の民である自分たちが耐えられるわけもない。


 必然的に、神と魔……双方の血を引くコリンにしか耐えることは出来ないのだ。すなわち、それは――教団との最後の戦いを、指を咥えて見ていることしか出来ないということになる。


「ふざ、けンなよあの野郎……! どこまで卑怯な奴なンだ、コリン一人を大勢でなぶり殺しにしようってのか!」


「コリンはん、なんとか出来へんのか? ウチら、ここまで来て何の手伝いも出来んなんて嫌や!」


「……無理じゃ。奴は最初から、わしだけを誘い込むつもりで用意していたのじゃろう。なれば、わしに出来ることは一つ。敵の誘いに乗り、返り討ちにして帰還する。簡単なことじゃよ」


 自分たちの無力を呪い、憤るアシュリーとエステルに、コリンはそう言いながら微笑む。そんな彼を、マリアベルは心配そうに見つめていた。


「お坊っちゃま……わたくしも共に参りたいという思いで、胸がいっぱいです。ですが……それが叶わぬ以上、わたくしには待つことしか出来ません。ですから、ずっと祈っています。貴方が無事、この大地に帰ってこられるようにと」


「ああ、坊主には生きて戻ってきてもらわにゃならねえ。ようやく、お互い顔を合わせられたんだ。もっと話をしたいし、坊主のことをもっと知りたい。だから、絶対生きて帰れ」


「……うむ。約束する、わしは必ず生きて帰ってこようぞ」


 マリアベルに加え、バーラムもコリンに激励の言葉を送る。直接共に戦うことが出来なくとも、勝利を祈ることは出来るのだ。


「……コリン。アタイは今日ほど悔しい思いをしたことはねえ。だからよ、もし敵の親玉を生け捕りに出来たらアタイのとこに連れてきてくれ。しこたまブン殴ってやるからよ」


「そ、そうか。では、生け捕りに出来るよう努力はしてみるぞよ」


 アシュリーは変な方向に吹っ切れたようで、オラクル・カディルをタコ殴りにすることでストレスを発散しようと考えたようだ。


 苦笑いしながら承諾し、コリンは一歩光の柱へと歩を進める。その時、何を言うべきか迷っていたエステルが意を決して声をかけた。


「コリンはん! ……戦いが終わったら、大切な話があるんや。落ち着いたら……ウチの実家に、来てくれへんか?」


「大切な話……か。分かった、必ず行く。何があったとしても、必ずのう」


「……へへっ、楽しみやな。美味しい茶菓子、ぎょうさん用意しとくわ。せやから……絶対に、無事に帰ってきてな」


「うむ! 約束じゃ、エステル。わしは必ず、みなの元に帰ってくる。例え腕が飛ぼうが足がもげようが、目が潰れようともな」


 約束の言葉を交わし、コリンは微笑む。今にも消えてしまいそうな、儚い笑みだった。星遺物を呼び出した後、コリンは歩き出す。


「他の星騎士の皆様には、わたくしから話をしておきます。……いってらっしゃいませ、お坊っちゃま」


「行ってくるぞよ、マリアベル。さあ、これが教団との最後の戦いじゃ! 気合い入れていくぞい!」


 己を鼓舞し、コリンは光の柱に飛び込む。身も心も、魂までも焼き焦がすような焦熱感の中……コリンの意識は白と黒の光に呑まれた。



◇―――――――――――――――――――――◇



「……着いたか。ここは……ふむ、空中庭園か。ヴァスラ教団の総本山という事実さえ無視すれば、良い眺めじゃのう。いや、残念じゃ。全て破壊せねばならぬのがのぉ」


 気が付くと、コリンは空中神殿の一角にある庭園にいた。色とりどりの花が咲き乱れる、憩いの場所だ。もっとも、だからと言って見過ごしはしない。


 このイゼア=ネデールから教団の痕跡を一つ残らず消し去る。その強い意思と不退転の覚悟を持って、コリンはこの場所にやって来たのだ。


「いたぞ、あそこだ! コーネリアスを殺せ!」


「全員で囲んで袋叩きにしてやれー!」


「早速来おったな、薄汚いネズミどもめ。今日がお前たちの最後じゃ。一人残らず、地獄に送ってくれる! ディザスター・ランス【(レイン)】!」


 庭園に現れた教団兵たちに、コリンは一切の容赦のない攻撃を浴びせかける。無数の闇の槍が降り注ぎ、教団兵たちを消し飛ばしていく。


「ぐあっ!」


「ぎゃああっ!」


「くっ、これならどうだ! バーニングキャノン!」


「甘いわ。ディザスター・シールド【反射(リフレクト)】」


「げっ、跳ねかえ……あづっ、あづいいいい!!」


 中にはコリンの攻撃を避け、逆襲を仕掛ける強者もいるにはいる。……が、死ぬのが早いか遅いかが違うくらいしか差が出ない。


 渾身の炎魔法を放つも、あっさり反射されて自分が火だるまになる始末だ。もちろん、すぐに槍の直撃を食らい消し飛ばされた。


「さあ、はよう出てくるがいいオラクル・カディル! 部下が全滅するまで隠れているつもりかえ?」


『フッ、このまま君が消耗するまで待つつもりでいたが……どうも、君の魔力は底無しのようだ。よかろう、相手をしようじゃないか』


「ほう、隠れたままでどう戦うというのじゃ?」


『なら、姿を見せよう。もっとも……君の前に立つのは、私ではなく()()()()()()だがね!』


 どこからともなくオラクル・カディルの声が響き、見るも無惨に破壊された庭園にこだまする。コリンが声をかけた、次の瞬間。


「貴様の相手は……」


「ウチらがさしてもらうから~!」


「!? バカな、お前たちはベイルにロルヴァ! わしが倒したはず……何故ここに!」


 柱の陰から、すでに倒したはずのオラクル・ベイルとオラクル・ロルヴァが現れた。さらに、コリンの背後に音も無く別の相手も姿を見せる。


「会いたかったぞ、コリン。お前を殺したくてウズウズしていた……!」


「オラクル・アムラまでもが……。なるほど、幻影じゃな? 死人がよみがえるなど、早々あり得ることではないからのう」


『ご名答。彼らは私の神託魔術(オラクルマジック)、【デスペラード・トランパート】……ハートの絵柄の力で作り出された幻影だ』


 三人のオラクルの幻影に囲まれてなお、コリンは動じない。よく見ると、三人の額にはハートのマークと数字が刻まれている。


 ベイルは四、ロルヴァは二、アムラは七。トランプのスートとナンバーに対応しているのだろうということを、コリンは見抜く。


『彼らは実体を持たぬこと以外、全てオリジナルと同じ力を持っている。もちろん、それぞれの神託魔術(オラクルマジック)を使うことも可能だ』


「ほーん。それでわしを脅しとるつもりかの? 一度破った能力なんぞ、怖くも何ともないわい」


『大きく出たな。ならば、見せてもらおう。その言葉が偽りではなく本当なのか。それとも、コケおどしのハッタリに過ぎないのかを。幻影たちよ、かかれ!』


 オラクル・カディルの号令の元、三体の幻影がコリンに襲いかかる。闇の魔力を練り上げながら、コリンは不敵な笑みを浮かべた。


「もう一度、地獄に叩き落としてやろう。幻どもよ、覚悟せい!」

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― 新着の感想 ―
[一言] アウェーだろうが孤立無援だろうが、ヴァスラ教団をぶっ潰す!! それに変わりはないんだ!!!
[一言] 一人で呼び出した上で再生怪人まで寄越すとは(ʘᗩʘ’) 流石悪党どこまでもセコイな乁 ˘ o ˘ ㄏ
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