114話―星騎士集結
ペテル・アル・ランザに到着したコリンとアシュリー。丸一日観光を楽しんだ二人は、翌日に控えるスター・サミットに備え早めに宿を取る。
翌日、二人は宿で朝食を食べた後サミットの会場……フィアティー大会堂へと向かう。もちろん、シッカリと身だしなみを整えた状態で。
「さて、いよいよこの時が来たなコリン。緊張してねえか?」
「今のところは問題ないぞよ。時間にもたっぷり余裕があるしの。確か、会場はこっち……ん? あれは!」
「やあ、コリンくんにアシュリーさん。久しぶりだね、元気にしてたかい?」
大通りを歩いていると、前方に見知った人物を見つける。数人の護衛を引き連れたスコットが、会場に向かっていたのだ。
「うむ、わしもアシュリーも元気にしておったぞよ。そなたも壮健そうじゃのう、よかったわ」
「はは、ありがとう。まだ父上の体調が良くなくて、僕が代理で来てるんだ。今はカトリーヌが看病してるんだ」
「そっか、オヤジさんまだダメなのか。早く治るといいな」
ウィンター家代表、スコットと合流したコリンたちは一緒に会場へ向かうことにした。お互いの近況を話し合い、穏やかなムードで道を行く。
三十分ほど歩くと、街外れに大きな議事堂が建っていた。ここが今回のスター・サミットが行われるフィアティー大会堂だ。
「おお、随分大きくて立派な建物じゃ。滝みたいに水が流れ落ちとるぞよ」
「ここはね、代々のランザーム王族が重要な会議をするのに使っていた由緒ある議事堂なんだよ。そんな場所でサミットが出来るんだから、ありがたいものだよね」
「うむ、そうじゃのうスコット殿。む、受け付けはあそこのようじゃな」
会堂の正門前には、ラインハルトが手配したと思われる係の者たちが並び入場者が来るのを待っていた。そこにコリンたちが向かうと、相手もこちらに気付いたようだ。
「おはようございます。申し訳ありませんが、招待状を拝見してもよろしいでしょうか?」
「うむ、よいぞ。ほい、どうぞじゃ」
「ンじゃ、アタイらも」
「はい、ありがとうごさいます。ただいま確認しますので少々お待ちを」
係員は招待状を受け取り、特殊な魔法を使って本物かどうかをチェックする。少しして、チェックが終わり招待状が返却された。
「確認が終わりました。ギアトルク家とカーティス家、ウィンター家のお三方ですね。どうぞ、中にお入りください」
「ああ、ンじゃ失礼するぜ」
「ここからは彼らと行く。皆はサミットが終わるまで待機していてくれ」
「ハッ! スコット様、お気を付けて」
ペコリと頭を下げる係員の横を通過し、コリンたちはフィアティー大会堂内に入る。その際、スコットは護衛たちと別れた。
ここから先に入れるのは、各星騎士家の代表とその同伴者のみ。それ以外の者は、例え何者であろうとも進むことは出来ない。
「さてさて、他に誰か来ておるのかのう。確か、部屋は……」
「第一公会堂室やで、コリンはん。久しぶりやなぁ、元気しとったか?」
コリンが招待状を開き、サミットを行う部屋を探していると……どこからともなくエステルの声が聞こえてくる。
「おお、その声はエステル! ……と言いたいところじゃが、声のトーンが僅かに違うのう。おぬし、一体誰じゃ?」
「ほお、見抜いたか! 声真似するのは得意な方なんだが、中々どうして鋭い観察力してるじゃないの」
「うおっ!? 天井から人が!」
声に違和感を覚えたコリンが問いただすと、廊下の天井の一部がベリッと剥がれる。どうやら、布を使って隠れていたようだ。
くるんと一回転しながら降りてきたのは、ラーナトリア家の当主バーラムだった。漆黒の忍び装束を身に纏い、スカーフをなびかせている。
「自己紹介しとこうか。ワシはバーラム・ガド・ラーナトリア。エステルの親父にして、黒蠍衆の頭領だ。よろしくな、坊主」
「むむ、エステルのパパ上であったか。それは失礼しもうした。……しかし、何故あのように試す真似を?」
「いやなに、坊主がウチの娘の婿に相応し」
「エステル式稲妻ドロップキックーーーッ!!」
「ごはっ!」
その時、今度は壁の一部が剥がれ本物のエステルがエントリーしてきた。とんでもない威力のドロップキックを実の父にブチかまし、廊下の奥に吹っ飛ばす。
「おお、本物も来ておったのじゃな。でも、なしてバーラム殿を蹴り飛ばしたのじゃ? それに、先ほど婿がどうたらと」
「なんでもないんや、ちょっとした親子の戯れというか……スキンシップみたいなもんや! わはははは! ほな、ウチらは先行っとるさかい、後からゆっくり来ぃや!」
顔をすっぽり面当てで覆ったエステルは、コリンの言葉を遮るようにわざとらしく大声を出す。そのままダッシュで親父を回収し、廊下の奥へ消えた。
それを見たコリンはただ首を傾げるだけだったが、アシュリーとスコットは大方の事情を察した。廊下の奥とコリンを交互に見てフッと笑う。
「やれやれ、エステルの奴もそういう目でコリンを見るようになったか。何だか、置いてかれた気分だぜ」
「ふふ、青春してるねぇ。微笑ましい限りだ」
「? ? ???」
二人の会話を全く理解出来なかったコリンは、疑問符を乱舞させながらしきりに首を傾げる。一方、エステルとバーラムの方は……。
「オトンのドアホ! なにいきなりあんなことぶっこんどるんや! ウチ顔から火が出るかと思ったやないか!」
「だからってなお前、いきなり蹴り飛ばすヤツがあるか!? 腰いわしたらどうするつもりだタワケ!」
「あんなこと言い出すからやろがい! このアホンダラー!」
小部屋に隠れて、小規模な親子喧嘩を行っていた。
◇―――――――――――――――――――――◇
数分後、コリンたちはサミットを行う部屋に到着する。指定された席に座ってジッと待っている彼らの元に、続々と各星騎士家の当主たちが集う。
「やあ、待たせてしまったかな。みんな、久しぶりだね」
『双児星』オーレイン家当主、ベルナック。若草色の法衣を身に付け、和やかな笑みを浮かべながら会議室にやって来た。
「待たせたな、いろいろあったが解決したんでこっちに来たぜ」
「まったく、オトンはホンマに……!」
続いて、親子喧嘩を終えた『天蠍星』ラーナトリア家の代表バーラムと、その娘エステルが入ってきた。二人とも若干疲れた様子だったが、面倒事に巻き込まれると察知し誰も聞かない。
「邪魔するよ。アタシで六人目か。これで半分が揃ったね」
「いいえ、これで過半数越えよリュミちゃん。アタシたちも来たわよん」
「コリンくん、久しぶり! また活躍したんだって? 噂を聞いたわよ」
少しして、『人馬星』ガルダ家代表リュミ、そして『処女星』バーウェイ家の代表マデリーンとその娘、イザリーがやってくる。
「おお、懐かしい顔ぶれが揃ってきたのう。イザリー殿も久しぶりじゃな、そのドレス似合っておるぞ」
「そ、そう? ふふ、ならよかった! 今日のために気合い入れておめかししてきたのよ」
コリンに誉められ、イザリーはご機嫌だ。そんな彼女を見て、エステルは自分もドレスにするべきだったか……と内心悔やむ。
「おーい、来たぜー。なんとかビリっけつだけは避けられたな、ラッキーラッキー」
「……ドレイク殿が寝坊しなければ、もう少し早く到着出来たのだがな」
「うっ! それを言うなって、トキチカの旦那。次は気を付けるからよ」
それから十数分後、今度は『宝瓶星』アルマー家のトップ、ドレイク……そして、『巨蟹星』コウサカ家の当主トキチカも姿を見せる。
道中一緒にやって来たようだが、何かトラブルがあったようでトキチカは不機嫌そうにしていた。
「おお、みな来ておるようじゃな。うんむうんむ、サボりの常習犯じゃったアルマー家のボンもおるとは。今日は良き日じゃ」
「足元にお気をつけください、リヒター殿。先日ワックスをかけたので、滑りやすいですから」
「うむ、分かった」
そのすぐ後、長い顎ヒゲが目を引く老人が会議室に入ってきた。穏やかな笑みを浮かべ、先端に羊の頭を模した飾りのついた杖を突いている。
その後ろには、今サミットの主催者……『天秤星』ラインハルト・フォン・リーデンブルクが立ち、老人が転ばないように配慮していた。
「おお、ラインハルト殿。そのお方は一体……?」
「紹介しよう、この方は『白羊星』ライル・バルダートンの血を引く末裔のリヒター・フルウルク・バルダートン殿だ。現当主陣の中で最年長、御歳九十九歳になる」
「ホッホッ、君の噂は他の家の者や孫から聞いておるよ。よろしくのう、コーネリアスくん」
「こちらこそ。よろしくお願いしまする、リヒター殿」
コリンは席から立ち、リヒターの元に向かい握手を交わす。ニコニコ笑いながら、ヒリターは自分の席に向かう。
それから数十分が経ち、サミット開始まで残り三分という時になってようやく最後の一人……『双魚星』グリルゴ・ファルダバルが姿を現した。
「やーれやれ、歩くのも面倒くさいわい。ん、もうみな来ておるのか。フン、律儀な奴らだ」
「グリルゴ殿、もうすぐサミットが始まる。愚痴をこぼしている暇があるなら、席に着いてもらいたい」
「若造めが、偉そうに……うっ、分かった分かった、座るからそんな目でわしを見るな! ったく……」
ラインハルトに指示され、グリルゴは席に座る。これで、十二星騎士の代表が勢揃いすることになった。ラインハルトは席を立ち、一礼してから全員に告げる。
スター・サミットの始まりを。
「お集まりの皆様、始めましょう。星を継ぐ者たちの会談……スター・サミットを」
その宣言に、コリンたちは万雷の拍手を送る。荘厳な会議が、幕を開けた。




