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102話―宮を守る戦い

 コリンたちが戦っている頃、キョウヨウの中心……御門の住まう宮では激しい攻防が繰り広げられていた。御門直属の守衛隊と、教団の本隊が争っているのだ。


「この先に御門がいるぞ! 生け捕りにしろ! 我らが女神への生け贄とするのだ!」


「そのようなことは断じてさせぬ! 進め、誇り高き剣士たちよ! 例え命を落とそうとも、御門だけは守り抜くのだ!」


「おおーーー!!!」


 ツバキの父、トキチカ・コウサカ率いる武士の一団が表に立ち教団の戦士たちを迎え撃つ。卓越した剣技をもって、一人ずつ仕留めていく。


 一方、教団の方も負けじと反撃に出る。クロスボウを用いた狙撃部隊が、相手の攻撃範囲の外から武士たちを狙う。こちらも着実に、相手を倒していく。


「いでよ、星遺物……断殻刀【真打】! さあ、皆の者よ。私に続け、一点突破し敵陣を崩すぞ!」


「ハッ、お任せを!」


 トキチカもまた、祖先より受け継いだ星遺物を呼び出し先陣を切る。白銀の輝きを持つ刀を振るい、教団の戦士たちを斬り捨てる。


「ぐあっ!」


「ぎゃあっ!」


「あの男を止めろ、これ以上進ませるな! クロスボウ部隊、射」


「させぬ! バブルガムトラップ!」


 敵の飛び道具を封じるべく、トキチカは口から大量の泡を吐き出す。つるつる滑る泡が地面に広がり、教団の戦士たちの足を滑らせる。


 結果、次弾を放とうとしていた者たちは盛大にズッこけることとなった。転んだ衝撃であらぬ方向に矢が飛び、そこかしこで同士討ちが起こる。


「うげっ、こっちに向かって射つんじゃねえ!」


「ぎゃあっ! か、刀が刺さっ……」


「くそっ、これじゃどうにもならねえ! オラクル・トラッド、助けてください!」


 前衛を突破され、戦士たちは逃げ惑いながら幹部に助けを求める。すると、後方に待機していた大柄な男……オラクル・トラッドが姿を現す。


「フン、情けねえ奴らだ。たかが蟹侍ごときに何てこずってやがる」


「申し訳ありません、予想以上に敵の士気が高く……宮内部に侵入すら……」


「なら、ここからはオレ様が――むっ!」


 部下たちを掻き分け、前に進み出るオラクル・トラッド。その時、背後から凄まじい殺気を感じ取り後ろを振り向く。


 すると、敷地内にドレイクが突撃してくるのが見えた。キョウヨウ市街にいる教団兵をあらかた始末し終え、宮に突入してきたのだ。


「よお、見つけたぜ。そのツラ、てめぇがこいつらの親玉だな?」


「ああ、そうだぜ? だったらどうした、もてなしてくれるのか?」


「ああ、盛大に歓迎してやるよ。海の男流の……荒々しいやり方でな!」


「てめぇら、散れ! 前後に別れろ、蟹と海賊野郎を食い止めな!」


 ドレイクとトキチカに挟まれた状態では、いかにオラクルとはいえ分が悪い。そこで、トラッドは部下たちを壁にして相手の到達を遅らせる作戦に出た。


 部下たちは人の壁となり、ドレイクとトキチカの進路を塞ぐ。……が、トキチカの方はともかくドレイクを止めるのには力不足過ぎた。


「邪魔なんだよ、雑魚どもが! てめぇら全員、まとめてぶった斬ってやる!」


「この……ぐあっ!」


「と、止まれ……ぎゃひぃっ!」


「うわあ、来るな来るなくるごはっ!」


 鬼に金棒、ドレイクにアルマトーレ。星遺物を持ったドレイクは鬼のように強く、群がれば群がるだけ返り討ちにされていく。


 人が木の葉のように宙を舞い、吹き飛んでいく様はある種の爽快感があった――後に、宮の防衛戦に参加していた武士はそう語ったという。


「チッ、役立たずどもが。なら、先にお前の相手をしてやろう。オレ様の神託魔術(オラクルマジック)、【ゴースト・ダスト・デッド】を食らいな! 第一の爆弾、シラヌイ玉!」


「あん? くだらねえ、ただの人魂じゃねえか。そんなもん、相殺してやらぁ! アクアキャノン!」


 オラクル・トラッドの手のひらから、クリーム色をした人魂が放たれる。ふよふよとそれなりの速度で宙を漂いながら、ドレイクの元へ向かう。


 それを見たドレイクは水の玉を作り出し、投げつけて破壊しようとするが……。


「バカが、そう簡単に行くか! 曲がれ、シラヌイ玉!」


「んなっ!? 自由に軌道を操れるのかよそれ!」


「それだけじゃねえ。そらっ、加速だ! 木っ端微塵に吹き飛びやがれ!」


 人魂が直角に曲がり、水の玉を避けてしまう。さらに、急加速してドレイクの元へ飛んでいく。不意を突かれたせいで、かわせないと思われた、が。


「ディザスター・シールド! キャプテン・ドレイク、大丈夫かの?」


「おお、よく来てくれたなボウズ! 助かったぜ、ありがとよ」


 そこに間一髪、コリンとツバキが現れた。コリンが闇魔法を唱え、盾を作り出してドレイクを守る。人魂が爆発し、巻き込まれた盾は消滅した。


「あ? なんでてめぇらがここに来やがる。てめぇらの始末はレキシュウサイに頼んであるはず……奴め、仕留め損ねたな」


「何をブツブツ言っておるかは知らぬが、もう観念せい。わしら全員でかかれば、貴様一人など容易に撃破出来るからのう」


「ああ、そうだな。だから……オレ様も退散するぜ。一旦仕切り直しだ!」


 これだけの星騎士が相手となれば、流石に苦戦は免れない。そう判断したオラクル・トラッドは、懐から取り出した転移石(テレポストーン)を使い脱出してしまう。


「こんにゃろう、逃がすか! おりゃあっ!」


「おーおー、残念だったな。今回は引き分けってことにしといてやるよ、次は必ず殺すぜ、全員をな。その時が来るのを楽しみにしてやがれ! わぁっははは!」


「逃げおったか。なれば仕方ない、残る下っぱどもを鎮圧するとしよう。ディザスター・ランス!」


「全く忌々しい。日に二度も敵将を逃すことになるとは。この鬱憤、ここで晴らすとしよう!」


 ドレイクが斧を投げるも、直撃する寸前でトラッドの転移が完了してしまう。コリンたちは渋い顔をしつつ、残った教団兵たちを仕留めていく。


 しばらくして、情報を吐かせるために生け捕りにした五人を除き全員の始末が終わった。幸いにも、守衛隊側の死傷者は少ないようだ。


「ツバキ、よくぞ戻ってきた。いいタイミングだな、助かったぞ。他の方々も、助力感謝致します」


「いえ、拙者はさほど役には……ですが、ようやく辻斬りの黒幕らしき人物と接触出来ました」


 戦いが終わった後、後始末を部下たちに任せトキチカはコリンたちを客間に通す。宮の防衛に力を貸してくれたことに礼を述べ、頭を下げる。


 そんな父に、ツバキは辻斬り事件を起こしていた下手人候補、レキシュウサイと遭遇し戦ったことを告げた。すると、トキチカの表情が変わる。


「! そうか、ついに見つけたか。でかしたぞ、ツバキ。とはいえ、御門への報告はまだ無理だ。まずは、キョウヨウの復興に取り掛からねばならぬ。民のためにもな」


「なら、わしらも協力させていただきまする。必要な資材等があれば言うてくだされ。こちらで手配しますでな」


「力仕事ならオレに任せな。こう見えて、大工の仕事もやれるんだな。ま、日曜大工レベルだけどよ」


 過ぎ去った脅威より、まずは目の前の被害の修復。そんなトキチカに、コリンとドレイクは協力を申し出る。


「かたじけない、重ね重ね礼を申し上げます。幸いにも、焼かれたのは都の一区画のみ。数日で復興も終わりましょう」


「だといいのだけれど。まあ、とりあえず今は身体を休めましょう父上。みな、此度の戦いで疲弊していますから」


「だな。んじゃ、オレはひとっ走りしてジャスミンを連れてくるぜ。一人ぼっちで心細いだろうからな」


 そう言うと、ドレイクは客間を後にする。コリンもまた、都にいるだろうアシュリーとアニエスを迎えに行くため、ツバキを伴い宮を出た。


「……やれやれ。まさかいきなりかような戦いが起こるとはのう。しかし、レキシュウサイといい先ほどの大男といい……一太刀すら浴びせられぬのはフラストレーションが溜まるのう」


「ええ、拙者もだ。そんな時は、温かい温泉にでも入るのが一番。コリン殿、今日は我が屋敷に泊まってくださいな。屋敷の者一同、丁重におもてなしするから」


「おお、それは楽しみじゃのう。うむ、いつまでもぐじぐじしていても良くないしの。今日はゆっくり休んで、また明日からリベンジの機会を狙えばよい」


 思考を切り替え、コリンはそう口にする。敵の正体と能力を知れただけ儲けもの。そう考えることにしたのだ。


 そうして、二人はアシュリーたちを探しに都を歩き回るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回は取り逃がしてしまって惜しいの一言か(ʘᗩʘ’) でもあら?温泉?メンバー減ってるのに温泉回やっちゃうの(?・・) まず間違いなくドレイクが覗くだろうな(◡ ω ◡)
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