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100話―都を襲う異変

 宿で一夜を明かしたコリンたち。翌朝、ヤサカ特有の朝ごはんを堪能する。その後、キョウヨウへ向けて出発する運びとなった。


 夜のうちにツバキが移動に必要なモノを手配していた。が……目の前に現れたソレを見て、コリンたちは絶句してしまう。


「……のう、ツバキ殿。これは一体、その……なんじゃ?」


朧車(おぼろぐるま)という魔物にござる。ヤサカは名の通り、八百万の坂があると言われるくらい起伏の激しい土地。そこを苦もなく進むのに、この魔物が適しているのさ」


「コンゴトモヨロシク」


 宿の前に現れたのは、黒地に金色の装飾が施された立派な車だった。……車両の前面に、大きな顔が付いていることを除けば変なところはない。


「ええ……コレに乗るの? 大丈夫? ボクたち食べられちゃったりしない?」


「心配ご無用。しっかりと教育されている故、そのようなことは起こらないから。キョウヨウは遥か東、徒歩だと軽く十日はかかる。でも、朧車なら三日。早くて便利だよ」


「いや、まあ……うーん」


「オレ、オマエタチ、トモダチ。トモダチ、タベナイ。アンシンシロ」


 乗るのを渋るアニエスに、ツバキはそう説明する。朧車も頷き、フレンドリーさをアピールしてくる。


「まあ、仕方あるまい。急がねば辻斬りの被害も増えてしまうじゃろうしな。朧車よ、乗せてもらうぞよ」


「カイテキナタビ、ヤクソク。ハヤクノレ」


「やれやれ……ンじゃ、乗り込むとするか。しっかし、ビジュアルの圧がすげぇな……」


 スライド式の扉を開け、一行は乗り込む。内部の空間は魔法によって拡張されており、一軒家風の玄関と奥に続く廊下が広がっていた。


 ツバキ曰く、全員分の個室と集まってくつろげる大部屋にトイレ、風呂場が備え付けられているという。これなら、キョウヨウへの旅も快適だ。


「なんだか凄いわね、ワクワクしちゃうわ! ヤサカに来ても、いつもは港周辺の町しか行かないから乗ったことないのよね、朧車」


「ジャスミン殿は元気じゃのう。困惑したりしないのかえ?」


「ぜーんぜん。あっちこっち海を旅してると、もっと奇怪でヘンテコなものがたくさんあるもの。もう見慣れちゃったわ」


「さ、左様か。意外とたくましいのう、ジャスミン殿は」


 朧車の内部に広がる、囲炉裏を備えた大部屋でくつろぎながらコリンとジャスミンはそんな会話を行う。その後、それぞれの部屋に荷物を置き、再度居間に集まる。


「さて、ここからは山を三つ越えることになる。外の揺れは、中にいる拙者たちには届かぬ。が、何か異変があれば朧車が知らせてくれる。急に語りかけてくるだろうから、気を付けて」


「あいよ。ま、道中何事もなきゃいいンだがねぇ」


 警戒すべきは辻斬りの黒幕だけではない。山に潜む山賊や魔物たちも行く手を阻む厄介な者たちだ。……だが、最初の二日は何事もなく過ぎた。


 あまりにも何も起きないため、コリンやアシュリーは拍子抜けしてしまう。もっとも、彼らは知らなかったが朧車はすさまじい速度で山道を爆走している。


 そんな状態の朧車を襲えば、誰であろうと即座に返り討ちに合う。故に、誰も手出ししてこないのだが……コリンたちはそれを知らない。


『モウスグ、サイゴノヤマコエル。ソシタラ、キョウヨウ、トウチャク』


「だそうな。いや、これまで何事もなくて何より」


「逆に何事もなさすぎて退屈だけどな。キョウヨウに着いたら、いいオンナと……待て待て、冗談だジャスミン。だからそのフライパンを置け、いいな?」


 居間でゴロ寝しながら、ドレイクはニヤニヤ笑う。そんな彼の元に、フライパンを構えながらジャスミンが近付く。


「全くもう! 遊びで来てるわけじゃないのよ。お義父さんはコリンくんたちのお手伝いで来てるんだからね! 忘れないでよ」


「わ、分かってるって。大丈夫、遊ぶのはその後で」


「なんにも分かってなーい! えいっ!」


「オ゛ッ゛!」


 お仕置きとばかりに、ジャスミンの振り下ろしたフライパンがドレイクの股間に炸裂する。潰れたカエルのような声を出し、ドレイクは悶える。


「アホなことやってンなー、全く。ツバキ、あとどれくらいだ?」


「順調に進めば、今日の昼過ぎにはキョウヨウに到着出来る。一度父上のところに行って報告してから、御門のところに行くことになるな」


「む、左様か。やれやれ、ここまで長かったのう」


 三日目ともなり、そろそろコリンも旅に飽きはじめていた。海と陸の旅が、もうすぐ終わる。その後に待つのは、辻斬り事件を起こす者との戦いだ。


 しばらくして、朧車から山を越えて平野に出たという報告があった。いよいよ、都入りの時がやって来たのだ。ツバキは車体の屋根に登り、状況確認を行う。


「キョウヨウにも美味しいご飯いっぱいあるといいなぁ。ボク、おにぎり気に入っちゃった。梅干しの酸っぱさがね」


「皆の衆、大変だ! 都の方で火の手が上がってる、済まないが手を貸してくれ!」


「! むむ……着いて早々、とんだご挨拶じゃ。よいぞ、すぐに向かわねば。朧車、速度を上げい!」


『オマカセ!』


 のんびり世間話をしているところに、慌てた様子のツバキが戻ってくる。どうやら、辻斬りとはまた違う異変が起きたようだ。


 コリンも朧車の屋根に登り、都がある東の方を見る。遥か遠くの方で、いつくもの煙が立ち昇っているのが見えた。


「フン、何者かは知らぬがわしが来たからにはこれ以上の狼藉などさせぬぞ。朧車、あとどのくらいで着くのじゃ!?」


「アト、ジュップン。スグニツク」


「よし、なら今のうちに……いでよ、闇杖ブラックディスペア!」


 どんな敵が現れるか分からない以上、備えは万全にしておかなければならない。コリンは星遺物を呼び出し、魔力を練り上げる。


 キョウヨウが近付くにつれ、都の惨状がクッキリと見えてきた。都の境界となる防壁は無惨に崩れ、そこかしこで炎が燃え盛っている。


「! あの旗……やはり、キョウヨウを攻撃しておるのはヴァスラ教団か! 忌々しい奴らめ、かような海の果ての国でも悪事を働くとは。許せぬ、成敗してくれる!」


 都の中に立てられた旗を見て、コリンは怒りに燃える。旗に描かれていたのは、ヴァスラ教団のシンボルマーク。


 今回の焼き討ちを行っているのは、不倶戴天の敵だったのだ。コリンは急いで車内に戻り、仲間たちにそのことを伝える。


「チッ、また奴らかよ。懲りねえもンだな、またブチのめしてやらねえとな」


「許さぬ……我が故郷を焼くなど、決して許される行いではない! 必ずや、我が刀の錆にしてくれる!」


「ボクだって許さないよ! 一人残らずけちょんけちょんにしてやるんだから!」


 コリンから話を聞き、アシュリーやツバキたちも怒りをあらわにする。そんな中、ドレイクただ一人が笑い声を漏らす。


 心の底からゾッとする、おぞましい声を。


「クッ……フフフ、いいじゃねえか。奴らをとっ捕まえて締め上げて……吐かせてやる。ハワードたちを殺した黒幕の正体をな。久しぶりに……ドス黒いやる気が湧いてくるぜ」


「お義父さん……」


 そんなドレイクを見て、ジャスミンは複雑な表情を浮かべる。そうこうしているうちに、ついにキョウヨウに到達した。


 朧車を降りたコリンたちは、それぞれの得物を手に都に突入する。ジャスミンだけは、安全のために車内に残っていたが。


「ひゃはははは! 泣け、叫べ、そして命乞いをしろ! 俺たちを追いやったこと、後悔させてやる!」


「誰か、誰か助けてぇ!」


「バァカ、助けなんてこねえよ。てめぇはここで死ぬんだ。俺の」


「ディザスター・ランス!」


「うぎゃあ!」


 都に入って早々、教団の信者が町民を殺そうとしている場面に出くわす。コリンは即座に闇の槍を放ち、信者を消し飛ばした。


「あ、あなた方は……?」


「案ずるな、わしらはそなたたちの味方じゃ。すぐに教団の者どもを追い払うでな、安全な場所に隠れておれ」


「あ、ありがとうございます! 侵入してきた者たちは、かなりの数がいます。どうかお気を付けて!」


 助けられた町民の女は、感謝の言葉を残し都の外へ走っていく。それを見送った後、コリンたちは都の中央へ視線を向ける。


 罪無き者たちを苦しめる悪逆の徒を討つべく、一歩を踏み出す。


「さあ、狩りの始まりじゃ。一人残らず、ヴァスラ教団に与する者どもを仕留めてくれる。みな、ゆくぞ!」


「おおーー!!」


 炎に包まれた都で、戦いが始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジャスミンも随分と手慣れてるんだな(ʘᗩʘ’) 流石にあんな養父がいれば仕方ないに尽きるか(-_-メ) やってる事もまだ仏心を感じるよ、下手すれば火にかけて灼熱フライパンで去勢しに来るぞ(…
[一言] >「わ、分かってるって。大丈夫、遊ぶのはその後で」 >「なんにも分かってなーい! えいっ!」 >「オ゛ッ゛!」 ……おバカ。 やっぱりヴァスラ教団が暴れてるみたいだな! やることはただ一…
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