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空にキラリ  作者: 多田のぶ太
4/5

標的変更

 軽快に走る四人乗りの電気自動車。

 開いた窓から心地よい風が車内に入ってくる。

「なあ、エアコンつけない?」


 マモルは鼻歌を歌いながら聞こえないふりをしてハンドルを握っている。

 今の気温は約28度だ。エアコン付けるにしても28度設定にするから温度は変わらない。それよりも窓を開けて風を受けたほうが体感温度で涼しいハズだ。



「ちょっとスピード出しすぎじゃね?」「あーあ、停止線からはみ出した」

 いろいろとマモルの運転にケチをつけるタダシ。

 その度に「面倒くせー奴だなー」と呟く。こういうやり取りも、いつものことだ。

 

 マモルの隙をついて、タダシがエアコンのスイッチを入れる。温度を24度に設定。ゴーッという唸り声とともにエアコンが動き出す。

 それに気付いたマモルはすぐにスイッチをOFFにする。タダシはONにする。にらみ合いながらスイッチを押す二人。


「おい!ちょっと、前!前!前!」

 後部座席のユウジが声を張り上げる。ハッとしてマモルは急ブレーキをかけ、四人の体は前方にGがかかった。赤信号の交差点に飛び込むところだった。当然後部座席の二人も含めて全員シートベルトをしていた。これはタダシがうるさかったためだ。


「折角だから、目的地に着くまでは快適なドライブにしようぜ」

とタダシが提案。つまり、エアコンを入れろ、ということだ。

 後ろを振り向くマモル。ユウジもユウミもタダシの意見に賛成のようで、深くうなずいた。

 しぶしぶ窓を閉めるマモル。

「多数決ってどうなんだろうな。悪い奴が多ければ、悪い世の中になるだけじゃないか」

 マモルはひとりでブツブツ文句を言いながらアクセルを踏み込んだ。


 流れる景色。

 片側二車線、中央分離帯のある幹線道路を走っている。

 左側を後ろに流れる電柱には看板が立てかけられている。何本も同じ看板が立てられていたため、内容を読み取れた。花火大会の案内の看板らしい。


「もうすぐ花火大会あるみたいね」

 看板をみたユウミが言った。


 窓を閉めたおかげで、外の騒音からも隔離され、車内の会話もスムーズになった。


「花火なんて、環境汚染以外のナニモノでもないじゃん」

 マモルが一蹴した。友人の妹であっても容赦ない。

「花火のあの色は金属の炎色反応だからな。上空で燃やされた金属はどこへ行くんだろうな」

 マモルはまたブツブツ言いだした。

 エアコンの件で機嫌が悪いことも影響しているのかもしれない。

「まあまあ」とユウジは妹の頭を撫でながらなだめた。

 ユウミは気にしている様子もなく、美味しそうな食べ物屋さんが無いかと外を観察している。


「あ!近くで”大恐竜展”やってるらしいぞ。寄って行こうぜ」

 タダシは目をキラキラさせながら、はしゃぎだした。根っからの恐竜好きなのだ。

「そんな暇はない」

 有無を言わさず突き進むマモル。

 タダシは名残惜しそうに窓の外を眺めて唇をかみしめた。


「だいたい先月も行ったじゃないか」マモルはタダシに指摘する。

「先々月だ。場所が違うと、展示の仕方が違うんだって。別の角度から展示されている恐竜を見れれば、また違った発見があるってもんだよ。わかるだろ?」

「わかんないな。一緒だろ」

 それだけ恐竜マニアだということは知っている。時々展示会とやらも付き合うことはあるが、さすがに全部は付き合いきれない。

「な、ユウジは分かってくれるよな」

「ああ、そうだな。で、何の話してるの?」

「はっはっはっ。残念だったな」

 話を聞いていないユウジがテキトーに相槌うったことと、ユウジを味方にできなかったタダシを見て、マモルは笑っていた。



 もうすぐ、目的地の大型スーパーに到着しそうな頃、前を走っている赤い車から、右側にキラッと光るものが流れた。

 それは中央分離帯にある植木にぶつかり、下に落ちたとき、カランカラーンと音がした。マモルが運転する車のタイヤで踏みそうになったが、何とかよけた……。空き缶だ。その瞬間、マモルの目つきが変わった。


 急ブレーキを掛けて、ハザードを点けて停車させ、車から降りたかと思うと、先ほどの空き缶を拾うマモル。車内の三人は後ろの窓からその様子を見て「危ない危ないっ」って騒いでいる。マモルは車に戻ってきたかと思うと、


「標的変更!!!」


 怒鳴ると同時にアクセル全開。先ほど空き缶を投げ捨てた車を追いかけた。

「えっ!?」「ちょっと!!!」

 慌てふためく仲間をよそに、もはや周囲が見えないマモルには声が届かない。


 マモルの電気自動車は、モーター音を唸らせながら、だんだん速度を上げる。


「どうやって、あの車を止めるんだよ。横につけて、文句言うのか?」

「そんな面倒なことはしない。ぶつけるだけだ。そうすれば、向こうから話しかけてくるさ」

「!?」

 同乗している3人は言葉を失った。

 冗談には思えない。マモルなら、やりかねない。みんながそう思った。


 幸か不幸か、道路も混んでいないため、ポイ捨て車はすぐに見つけることができた。

 アクセルは全開。途中オービスのフラッシュを浴びるがお構いなしで突っ走る。

 

「赤いからって、三倍のスピードで走れると思うなよ」

 マモルは意味不明な独り言をつぶやきながら、赤い車との差を縮めていく。

 標的とした車に追いつき、追い越して、車の前に横向けに止める。刑事もののドラマとかでよく見る、犯人の車を止めるために刑事の車が通せんぼする、あれだ。さすがにワザとぶつけることはしなかった。

 赤い車も急ブレーキを掛けて、間一髪のところで止まってくれた。


「何だよ、いったい」

 犯人が、もとい、ポイ捨てしていた車から降りてきた男が、車から降りて、マモルに近づいてきた。マモルも車から降りて応戦体制だ。


 その様子を見たタダシは、

「ユウジ、出番かもしれないから、準備してくれ」

「お、おう」

 ユウジも返事をしながら車を降りた。



読んでくださり、感謝です。

何か意見などありましたら、遠慮なくお願いします。


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