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空にキラリ  作者: 多田のぶ太
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作戦会議

 マモル、タダシ、ユウジの三人は小学校からの付き合い、言わば幼馴染というやつだ。

 不定期に、ここ、ユウジのアパート部屋で会議をしている。会議というよりも、単なる愚痴を言っているだけだと言えなくもない。


 ビールをゴクリと飲んで、缶をカツンとテーブルに置きながら、「で、どうするんだ?」とタダシが切り出す。先ほどのアイドリング車両の話はまだ続いている。


「まず、張り込みして実態調査だ」

 ウーロン茶のグラスを手で揺らしながら、マモルが提案する。いや、提案というよりほぼ決定事項のように言う。


「どれだけアイドリング車両があるか、把握する為だな」

 とりあえずタダシなりに解釈する。


「コンビニ、パチンコ店、高速道路のパーキング、それから・・・・」


「おい、俺たち3人じゃ限界があるぞ」


「え?いつのまにか俺も人数に入っているの?まあいいや、調査くらいなら手伝うよ」

 聞き役に回っていたユウジもしぶしぶ賛同する形となった。



「張り込みして、アイドリング車を見つけたら、そっと近づいて、車の中に人がいないか確認する。そして、周りを見てドライバーがしばらく戻ってこないことを確認する」


「確認して?」

 そこからが重要だ、と言わんばかりに二人同時にマモルに問う。


「周りを見て、誰もいなければ即座に運転席側のドアをあけて、エンジンを止めて-」

「ちょっとまて!調査だったよな?」

「キーを抜くときは、抜きにくいものもあるから気を付けて-」

「おい!調査だけだったよな!?」

 慌てて大声でわめくタダシに対して、冷ややかな目でマモルが

「冗談だよ」と一言。


「それより、調査ってなんだよ。何の調査で、その結果がどうだったらどうなのか、そこから説明してくれ」

 不信感を募らせたタダシにマモルが答える。


「調査というのは、アイドリング時間の調査だ。だいたい1時間あたり、車種にもよるが約1リットルのガソリンを消費する。1日でどれくらいのアイドリングの実態があるのか調べて、その場所での延べのアイドリング時間を出し、そこから何リットルの無駄なガソリンが消費されたかを算出する。結果、CO2の排出量も割り出せるしな」


 予想はしていたが、そういうことだ。CO2排出での地球温暖化を懸念してのデータ取りか。マモルらしいな。二人はそう思った。二酸化炭素排出量が増えることによって、地球温暖化につながるということは、耳にタコでもイカでもできそうなくらいマモルから聞かされている。最近の若い人たちはもう学校の授業で習うのかもしれないが、自分たちはせいぜい日本の四大公害を習った程度だ。これまでもニュース等では耳にはしていたが、そんなに気にしてはいなかったし、気にしても仕方のないことだと思っていた。


「なるほど。調査の内容はわかった。で、調査の結果をどうするんだ?」


「いいわけに使う」


「???」

タダシとユウジの頭にはクエスチョンマークが3つどころか数えきれないくらい溢れていた。


「いいわけというか、つかまったときの根拠資料だな」

さらにクエスチョンマークが増えていく。頭から零れ落ちそうだ。


「なんの根拠だよ」

耐えきれなくなったタダシが問い詰める。


「動機だよ。遊び半分でやっているんじゃないってことを証明するためだ。それがあれば、つかまっても刑は軽くなるだろう」


「つかまることが前提の資料か……。おまえ、それよりも、やり方を変えたらどうだ?キーを抜いて投げ飛ばすんじゃなく、もっと温和に話し合いでアイドリングをやめてもらうとか」


「無理だな。言葉で注意してわかるような奴らじゃない。『てめぇに関係ねーだろ!』ってどなられたり、下手したら殴られてしまうよ。あと、よくいるのが自分のお金で買ったガソリンだから、どう使おうが自由だ、っていうやつ。金さえあれば何をやってもいいとでも思っている連中だろうね。仮にもし、説明してその場でわかった風な顔して聞いてても、すぐに忘れてしまったり、逆に反発してもっとひどくなる危険性もあるんだ」


「悪い、もう実際にやって、ダメだった結果、キーを投げ捨ててるわけか」

 申し訳なさそうにタダシは言った。


「いや、頭でシミュレートしたに過ぎないが、これくらいのことは想定できるだろ」

 マモルはこのように、カチンとくる言い方が得意だ。


「頭でシュミレートか。結局言えないんだな」聞き役だったユウジが余計なことを口走った。


シュミ(・・・)レートじゃなくてシミュ(・・・)レート!いるんだよなぁ、間違える奴」


「どっちでもいいじゃんか」とユウジ。


「どっちでもよくない!シュミレートって……趣味じゃないんだぞ。英語で書くとsimulate、s、i、m、uだ。これでシュミと読めるか!」

 妙なところに突っかかってきた。腹いせも多少は含まれているのかもしれない。

 なんにせよ、面倒くさい奴だということに違いない。


「それと、真夏日だから、社内に子供を放置する親がいるかもしれないから、そういうやつの早期発見だ。つまり人命を救うことにつながるというわけ。どお?」


「どお?じゃなくて、まぁ、確かにそういう親もいるみたいだしな。ただ、そういう場合は、エンジンを切ると冷房も切れるから気をつけろよ」


「!!」マモルはハッとした。が、しばらく考えて「いや、環境汚染を見逃すわけにはいかないから、子供は別の場所で保護だ」


「マジでかよ!」


「まぁ、調査の意味はわかった。ただし、駐車場に車が複数台いて、一人ですべてをチェックすることは不可能に近い。一人ずつ別々の場所じゃなく、一か所を集中して調査すべきじゃないか?」

とタダシが提案した。

 ユウジも賛同。ユウジは一人ぼっちが嫌いな性格だから、当然といえば当然だ。

 一人が嫌いなのに、よく一人暮らしを始めたもんだ。ただ、実家はすぐ近くだが。


「わかった。その方が効率がいいかもしれないな。ただ、雑談して見落としたりするのだけはやめてくれよ。そこだけが気がかりだ。特にユウジ」


「わかったよ。がんばる」

 そして即座に話題を変える。


「それにしても、男3人でこんなミッションを始めるのか。女性が一人でもいると盛り上がるのにな」


「そうだな。色気がないと、やる気も薄れてくるってもんだ」タダシもユウジに賛同。とはいえ、タダシは妻子持ちなのだが。


「おいおい、ドラマじゃないんだから。現実はこんなもんだろ。テレビの見すぎだよ」


「そりゃそうか」

 そういいながら、何缶目かのビールのプルタブをプシュッと開けるユウジ。


 そのとき、玄関の扉がガチャっと開く。

「お兄ちゃん、これ余ったから食べないかって」


 マモルとタダシは顔を見合わせ、声をそろえて言った。

「いるじゃん!」


「あ、みなさんこんばんは。あれ?今日は何の相談?」


「ちょっと待て、それはダメだ。それだけは。かわいい妹に危ない橋は渡らせられん」


「人手は多いほうがいいって、絶対」

 性的対象かどうかは問わず、女性が一人いるだけでも雰囲気が明らかに違うことを知っているため、タダシは精一杯ユウジを説得させようと声を大にして訴えかける。


「え~?なになに??」

 ユウジの妹は興味津々で部屋に上がってきた。


読んで頂きありがとうございます。


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