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十二の魂  作者: 影ノ者
7/22

7

 小さな四角い窓ガラスから差し込まれる光は側に置かれている花瓶を照らし、目覚めを知らせる為にベットで寝ている死干支の顔を照らした。


「んぁ…… 俺は一体……」


 光に照らされて目蓋をゆっくりと開いた死干支は、寝ぼけながらも横になっていた体を起き上がらせてベットの上に座る。

 大きく口を開いて欠伸を一つすると、左腕で閉じかけそうな目を軽く擦った。


 ある程度意識がはっきりとしたら、ベットから立ち上がり両手を腰に当てて体を伸ばす。


「ふぅ。今は朝か、俺は寝てたのか…… ああ、そうだったな」


 意識がはっきりすると頭の中に浮かんできたのは昨晩の出来事だ。

 死干支は照子と蘭溪を探しに行くと行ったが止められた。それに怒った死干支はあろうことか、小さい頃からの知り合いの雨凛と烈士に刃を向けたのである。


 辺りを見渡す限り、ここは支部内に存在する一つの部屋だろう。花瓶にベット、壁に掛けられている黒いローブのみが存在している小さな部屋だ。

 あの後雨凛と烈士が眠った死干支を余っていた部屋に連れて行き、ベットの上に寝かせたのだ。


 ーードスッ。


 なんの前触れもなく、部屋中に生鈍い音が響き渡る。小さな部屋も相まって、音はより鮮明に響いていた。

 

 死干支は自身の左腕で、自身の左頬を殴った。

 その左腕には昨晩の自分の行いに対する怒り、反省、後悔、呆れが含まれており、それを自分自身へと伝えたのである。


 殴った左頬は青紫色のあざができており、口内からは血が僅かに流れ出ていた。


「すぐ激情に駆られて、あの鍛錬はなんだったんだ」


 死干支は自分自身に言い聞かす。

 小さい頃から毎日欠かさずに行っていた精神の鍛錬だが、呆気なく激情に駆られてしまったということは鍛錬の成果が実って無いということだ。

 自分の不甲斐なさに反吐が出る。


「さあ、二人に謝ってさっさとここを出よう」


 死干支はベットの上に乱れて置かれている布団を綺麗に直し、壁に掛かっているローブを身に纏った。

 ポケットにはしっかりと摩天数珠が入っている。


 扉を開けると目の前には同じ扉が存在しており、右を向くと一直線の廊下がある。廊下の両端には同じ扉が幾つも存在しており、この部屋を含めて六つの部屋があった。

 廊下を進んで目の前にある階段を下ると、下の階から嗅いだことのある匂いと誰かの喋り声が聞こえてくる。


 死干支が階段を下り終わって左を見ると、そこには烈士と三郎の二人が座っていた。

 食卓の上に置かれている昨日のカレーを食べながら、何やら愉快に喋っている。


「いやー、それにしても昨日はやばかったなぁ。雨凛がいなければどうなっていたか。まあ結果良ければ全て良しってな、ガハハハ!」


「笑い事じゃないですよ烈士さん。昨日は本当にびっくりしましたからね。それにしてもあの子が……」


 そんな話が聞こえる中、奥側の席に座っていた烈士が死干支の存在に気がついた。


「お、死干支じゃねえか。ってどうしたんだその顔!? 何かあったのか!?」


「いえ、気にしてもらわなくて大丈夫です……」


「そ、そうか…… お前がそう言うなら気にしないでおくよ」


 烈士は頬に痣が出来ており口から血が流れている死干支を心配するも、本人の意思を汲み取ってこれ以上の追求は止めることにする。


「体はどうだ? 疲れも取れただろう」


「はい、おかげさまで……」


 死干支は烈士に合わせる顔がなく、顔を下に向けて小声で返事をする。そんな死干支の様子を見て、烈士は死干支の心情をすぐに察した。

 それを理解した上で烈士は笑顔で手招きをする。


「そうか! ならこっちに来い、早く飯を食べるぞ」


「えっ」


 烈士からかけられた言葉に死干支は驚いた。

 昨日の件について酷く怒られると覚悟していたが、怒ろられることは愚か、烈士は笑顔で一緒に飯を食べようと誘ってきたのだ。


「何驚いてやがる、朝飯を食べないと成長しねえぞ。さっ、早く来い」


「ですが…… 俺は昨日烈士さん達にあんな事を……」


「何うじうじしてやがる。男たる者覚悟を決めろ! 昨日は昨日、今日は今日だ!」


 後悔と反省の念に打ちひしがれていた死干支に、烈士は肯定的な言葉を投げかける。

 そんな事を烈士に言われるも死干支の表情は変わらなかった。自分が昨日した事はいけない事であり、しっかりとけじめをつけないといけないからである。


 死干支は烈士の元に歩み寄った。


「今日の朝飯は昨日のカレーだ。さあ、そのローブを脱いでさっさと食べようぜ」


 烈士が食器棚から皿を取って、死干支の分を取ろうとする。


「烈士さん、言いたいことがあります」


「なんだ? ちなみに朝飯はカレーしかないから文句は受け付けないぞ」


「いえ、そんなことではありません……」


 死干支はゆっくりと両膝を地面につかせ、最後に額を地面につけて土下座をした。


「昨日は本当に申し訳ございませんでした!」


 死干支の口から出た心からの謝罪。土下座だけでは足りないほど、昨日の出来事は重大だったのである。

 烈士は突然土下座をした死干支に、動揺することもなくじっと見つめていた。その数秒後、烈士は死干支の目の前で屈む。


「なあ死干支、顔を上げてくれ」


「はい……」


 烈士に言われるがままに、死干支はゆっくりと顔を上げた。その瞬間だ、烈士は死干支の額を指で弾く。


「うわっ」


 突然烈士にデコピンされた死干支は、予想外の出来事に素っ頓狂な声を出して体勢が後ろに崩れた。


「この馬鹿野郎、お前は大馬鹿やろうだ。人の話も聞けないのか。昨日は昨日、今日は今日って言っただろう」


「ですがしっかりとけじめをつけなければ……」


「良いか、俺は過去のことをうじうじと引っ張る奴が大っ嫌いなんだ! 謝ることは良いことだ、だがもう過去の出来事は忘れろ! ーー今この瞬間のことを考えれば良い!」


「ーー烈士さん……」


 こんなに寛大なのは烈士だからなのかもしれない。だがそれも烈士の性格であり、特徴でもある。

 これ以上何か言ったら烈士は怒るだろう、そんな事は出来ないので死干支は素直に烈士の気持ちを受け取ることにした。

 

 死干支と烈士は互いに立ち上がる。

 そばで見ていた三郎はその光景を見て、どことなく感慨深い視線を二人に向けていた。


「よし、それじゃあ改めて朝飯を食べようぜ!」


「残念ですがそれは出来ません。俺はここを出て行きます」


「なっ!? 今の話を聞いていなかったのかよ!」


「聞いていました。それを聞いて改めて出て行こうと考えたんです」


 死干支がこのような考えに至ったのにはいくつかの理由がある。もちろん烈士の対応が気に食わなかったということでは無い。


「理由は二つあります。一つ目に、まず俺はここにいた人間じゃない。しかも烈士さんの言葉を聞いて、自分の性格では気分を害してしまうと強く思いました」


「そんなことはねえよ。むしろ死干支みたいな奴も好きだぜ」


「ありがとうございます。そして二つ目は…… 自分勝手な発言なんですが、やはり二人を探すのを諦めきれません。母さんと蘭溪さんは俺にとってかけがいのない人物であり、必要な存在なのです」


「……」


 烈士は何も言い返せなかった。

 死干支の二人に対する想いはこれ以上なほど強いものである。そして何より、そんな気持ちを自分が良く理解しているからだ。


「烈士さんの寛大さに甘えて、どうかお願いします」


 死干支は烈士に深く頭を下げると、扉の方へ向かう。今すぐ止めなければならない、だが体が固まって動かなかった。

 そのとき、


「ちょっと待って! 死干支君、本当にここから出て行くのかい? 烈士さんも止めなくて良いんですか!」


「わかってる。わかってるんだが…… どうしても死干支の気持ちに共感しちまうんだ」


 烈士の握った拳は小刻みに震えており、唇を噛み締めている。そんなやり取りを聞いて、死干支は再び深く一礼してドアノブを握ったときだった。


「ちょっと待った!!」


 烈士の叫び声が部屋中に轟く。叫び声を聞いて、ドアノブを回そうとしていた手が止まった。

 死干支は烈士の方を振り向く、それと同時に烈士も死干支の方に顔を向ける。


「死干支、お前は昨日の件について反省しているんだよな?」


「はい。本当に反省しています」


「なら俺の言うことを一つだけ聞け」


「えっ…… 分かりました。だけどここに残れ、の命令は聞けません。ごめんなさい」


「わかった」


 本当はこんなこと言いたくない。何より自分の目の前にいるのは大恩師の孫だ、昔の自分ならそんなことを言う度胸も勇気も無かっただろう。

 だが今は違う。そう、大切な一つの命を預けられたから。



 ーー烈士よ。万が一儂達の身に危険が訪れた時には、死干支を任せたぞーー



「死干支、俺達の部下になれ! 俺達と一緒に喰魂を殺して、そして俺達と一緒に二人を取り戻そう!」


 烈士の魂は強く光っていた。



 


 

 

 


 



 

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