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十二の魂  作者: 影ノ者
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4

  晴れていた空はいつしか曇り、突如として大粒の雨が乾いた地面に降り注ぐ。まるで死干支の気持ちを表しているかのように。

 

 大雨が降り注ぐ中、死干支は最適な呼吸で、最適な動きで目的の場所へと向かっている。

 大雨が原因で地面がぬかるんでいるも、そんなことなど意識外にある死干支にはなんの影響も与えなかった。


 死干支が向かっている場所は、家から近くにある町である『古町』だ。ここに住んでいるある人物に会いに行っているのだ。

 と言うのも緊急事態の時にはその人物に会いに行けと蘭溪から教わっており、死干支自身も五回ほど蘭溪と共にその場所に行っている。


 死干支が走り続けていると、少し離れたところから甲高い声が死干支の耳に入ってくる。

 死干支が声のした方を見ると、そこには二人の人物が存在していた。


 一人は全身緑色で奇形の人物だ、詰まるところ喰魂だろう。見た感じ強さはそれほど感じられない。

 もう一人は短刀を握っている少女だ。見た感じ喰魂に追い詰められているところか。


 死干支はその光景を目に入れるものの、今は目的の場所に向かう方が先決なので無視して通り過ぎ去ろうとする。

 そのときだ、少女の叫び声が聞こえてきた。


「うるさい! 家族の無念を晴らすため、今ここでお前に負けるものか!」

 

 少女の叫び声を聞いて死干支は足を止める。

 少女の体は震えていたのにも関わらず、その意志は刀のように鋭かった。家族の無念を晴らすため、その言葉は死干支の心に突き刺さる。


「変化・摩天の鎌」


 死干支が口を開くと左手に握られていた数珠は淡い白色に光出して、瞬く間に漆黒の大鎌に変化した。

 死干支は二人の元へと近づく。そして口を開いた。


「酉の刻・九月双風」


 死干支が大鎌を一振りすると、二つの風の刃が放たれた。その内一つは喰魂の右腕を切り落とす。


「あぁぁぁぁぁぁ! 腕が、俺の右腕がぁぁぁぁ!」


 喰魂がもがき苦しんでいる姿を見て、少女は死干支の方を見てきた。死干支は喰魂に歩み寄る。


「貴様ぁ…… よくも俺の右腕を、今すぐ殺してくれる!!」


 怒り狂った喰魂はすかさず死干支に襲い掛かった。

 だが襲い掛かる前に背後から接近してきた風の刃によって、体を縦真っ二つに切られしまったのだ。


 縦真っ二つに切られた喰魂の体は二つに割れると、粉々に砕け散って雨と共に地面に降り注いだ。

 少女は目の前で起こった状況を見て呆気にとられている。死干支は少女の無事を確認して走り出すときだった、


「あ、あの! 私を弟子にしてくれませんか!」


 少女の口から飛び出てきたのは、予想もつかない言葉だった。

 会ってから一分も経っていなというのに弟子にしてくれとは、予想外にも程がある。


「俺は今忙しいんだ、そんな戯言に付き合ってる暇はない」


 死干支は少女の発言を否定して、再び走り出して行った。少女は座りながら凹んだ表情で、


「だめ、か。だけどあの方向は……」


 

 走り続けて三十分、死干支の目の前には沢山の建物が並んでいる。

 死干支は町の中に入ると人混みの中を華麗に移動していき、そしてある建物の目の前に辿り着いた。


 所々にひびが入っていて年季を感じさせる。黄ばんだ白色の建物の扉の上には大きな文字で『喰魂狩人ハントレリフ 古町支部』と書かれていた。

 死干支は扉を何回も強く叩く。


烈士れっしさん居ますか!」


 死干支が五回ほど扉を強く叩くと、扉の奥から扉に近づいてくる足音が聞こえてきた。そして扉がゆっくりと開かれる。


「なんだぁ、悪いが返す金なんてねえぜ」


 そう言いながら目の前に現れたのは、タバコを口に咥えていた巨大な男だった。

 百八十センチメートルほどの高身長に、見るだけでわかる鍛えられたその大きな体。金色の短髪を上げて額を曝け出しており、碧眼の瞳だ。

 ピチピチの白服に、黒い長ズボン、右腰には短刀が差されている。そして何より、怠そうな顔をしていた。


 烈士と呼ばれた男は目の前に立っている白髪の少年と、その手に握られていた数珠を見た途端、目を大きく見開いた。


「死干支か!? しかもその手にあるのは摩天数珠じゃ…… 一体何があった!?」

 

「家に何者かが攻めてきたんだ! それで俺は母さんに言われてここに逃げてきた、今も母さんや蘭溪さんがそいつと戦って……」


「嘘だろ!? あそこに攻める奴なんてこの世に何人いるか…… まさか!?」


 烈士は何かに気づいたのか、部屋の奥に走って行く。するとそこにいたのは、木の椅子に座って本を読んでいた女だ。

 

 烈士より頭一つ分ほど低く、真っ赤な長髪を腰の辺りまで垂らしている。黒色と赤色の混じった羽織を羽織り、短いデニムパンツを履いていた。

 腰に赤色の鞘を差しており、刀のつばは赤色の花形である。女は烈士の方を見ると軽く微笑んだ。


「おいテメェ、私を巻き込むんじゃねえぞ」


 花萌葱はなもえぎの瞳から放たれた威圧に烈士は一瞬怯んでしまう。だが今は刻一刻を争う事態だ。


「そんなことじゃねえ! 雨凛、緊急事態だ。今すぐ枯山に向かうぞ。蘭溪師匠達の住処が何者かに襲われた」


「なんだって!」


 雨凛は両手で勢いよく机を叩いて立ち上がる。そして駆け足で扉の方に向かうと、目の前に佇んでいる死干支が目に入った。


「死干支か!」


「雨凛さん、母さんと蘭溪さんが……」


「ーーくそッ、急がなければ。烈士! お前も来い! 悪いが今日命を捨てることになるかもしれんがな」


 そんな雨凛の発言を聞いた烈士は苦笑しながらも親指をたてる。そして壁に掛けてあった黒と黄色の羽織を羽織った。


「ここに入った時点で既に覚悟は決まってるぜ。さあ、早く行こう!」


 二人が扉を開けて外に出ようとしたときだった、


「あ、あの。俺も行きます!」


 死干支は自分も一緒について行くと言い出す。

 まだまだ体力は残っているし二人の手助けをしたい、そして何よりも今戦っているであろう照子と蘭溪を助けたい、そんな気持ちで一杯なのだ。


 死干支の発言を聞いた雨凛は死干支の両肩を手で軽く掴む。そしてゆっくりと口を開いた。


「いいか、死干支がその摩天数珠を持って一人でここに来たということは向こうで相当な事態が起こっている。恐らく蘭溪さんか照子さんのどちらかに逃げろと言われているはずだ。そんな所に死干支を絶対に連れて行くわけにはいかないんだよ。それが蘭溪さんとの約束だからな。死干支はここで待っていてくれ。もうすぐしたらここに一人戻ってくるから、そいつに事情の説明を頼む」


「わ、わかりました……」


 死干支はそれしか言えなかった。

 雨凛の予想は全て当たっている。照子にあんなことを言われて、あんな涙を流されて、それを無碍にすることの意味を何よりも死干支自身が一番分かっていた。


 雨凛と烈士は大雨の中に傘もささずに飛び出して行く。死干支はそれを見届けることしか出来なかった。


「ーーくそッ、俺がもっと強かったら……」


 死干支はあのとき恐怖で動けなかった自分の非力さを悔やんで、左腕で壁を殴る。


 殴られた衝撃で壁は少し凹み、水滴が飛び散った。

 びしょ濡れの死干支が顔を下に向けると、髪や顔についていた水滴が不規則なリズムで地面に垂れ落ちる。

 水滴の垂れ落ちる瞬間を見ながら、死干支は唇を噛んでいた。


 ザァ ザァと。


 悲しみの音を鳴らして雨はなおも降り続ける。


 

 ーーザァ ザァ と。


 

 

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