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F門院の怪

 私が小学校二年生まで暮らしたアパートのすぐ近くにF門院という寺がある。

 ここに言い伝えられる怪談があり、それは小泉八雲の著作によって世に知られている。


 近くの橋の下で女の幽霊が小豆を洗っている。その橋の上を通る時に『かきつばた』という謡曲を歌うとよくないことが起こると言い伝えられていた。ある武士がその話を馬鹿にして、大声で『かきつばた』を歌いながら橋の上を渡った。すると見知らぬ女性が現れ、箱を渡して来た。箱を開けてみると、中には子供の生首が……。急いで家に帰ってみると、首をもぎ取られた息子の死体が横たわっていたという。


 まぁ、私が子供の頃にももうその橋はとっくになくなっていたので……。私がこれからする話はそれとは関係ない。

 というか、私の話はかきつばたの怪談とは比べようもないほど他愛のない話である。

 ぶっちゃけおかしなものを見た場所ということで言えばこのF門院が一番多かったというだけである。


 この場所だけで3回見た。


 最初は小学校低学年か幼稚園の時。

 F門院のお祭りの夜だった。

 夜店の屋台が並び、賑やかな人だかりの中で、なぜだか私はふと夜空を見上げた。

 松の木から松の木へと、何か大きな猿のようなものが飛び移っているのを見た。

 何しろ暗いのでその姿は大きな影としか記憶していないが、ニホンザルにしては大きすぎると思う。

 この話はこれだけにとどまらない。

 家に帰ると、兄が真面目な顔をして、でかい猿みたいなのが木から木へと飛び移っているのを見たと言い出したのだ。

 次の日、学校だったか幼稚園だったかへ行くと、一人の友達が同じことを言って来た。

 少なくとも3人が同じものを見たのである。あれはUMAか、それとも動物園から逃げ出したオランウータンか。


 2回目は小学校低学年の頃。


 本堂の軒下にアリジゴクの巣がたくさんあり、幼さゆえの残酷さに満ち溢れていた私は、アリンコを捕まえてはそこに落とす遊びを楽しんでいた。

 すり鉢状の巣に蟻を落とすと、砂の中からアリジゴクが現れて、せっせと蟻を引きずり込むのが面白くて、何匹蟻さんを殺害したことだろう。

 夢中になっていると、本堂のほうから低い声が、叱りつけるように私の名前を呼んだ。

 ありえないほどに低い声だった。まるで地鳴りのような。

 神様が私の愚行を見かねてお叱りの声を喰らわせて来たー!

 そう思った。

 慌てて走ってアパートに帰った。

 遅れて帰って来た兄が、血相を変えて私に言った。

「あの声、俺も聞いた!」

 話を聞くと、残酷な遊びをしている私を驚かそうと、あの時本堂の陰から兄は『蟻の王様』を演じて私に声を掛けようとしていたそうだ。

 そして声を掛けようとした時、本堂の中から低い声が私の名前を呼んだ……と。

 うーん……。

 やっぱりこれ、兄に騙されたのかなぁ……。

 でもまだ小学校四年生ぐらいの兄に、あんな低い声が出せるものだろうか。

 謎である。


 3回目は高校卒業直前。

 高校の友達何人かとF門院に行ったことがある。

 記憶が曖昧だが、堀川で釣りをしたように思う。

 なんにも釣れないので、退屈になった私はみんなの邪魔にならないように、離れた場所で川に石を投げて遊んでいた。

 すると川の中からへんなものが浮き上がって来た。

「えっ? なんじゃありゃ?」

 私はしげしげとそれを見つめた。

 河童だった。

 緑色の皮膚に白いお皿を頭に乗せ、皿の周囲に毛の生えた生き物が、後頭部を半分だけ川の中から出して、私に見せていた。

 こちらを向くかと思ったが、それはそのまま私の見ている前で、またゆっくりと沈んで行った。

 私は友達のほうへ走って戻り、「河童がおった!」と言った。

 Nという友達がそういうのが大好きで、興奮して私が河童を見たというあたりまでついて来た。

「石が頭に当たって怒ったんじゃね?」

 そう言いながらNはびゅんびゅん石を拾って投げた。

「河童ー! 出て来いやー!」

 ぶつけて殺す勢いで投げまくっていた。

「当たれー!」

 Nは私と違って運動神経がよく、Nの投げる小石はまさしく弾丸のようだった。

 しかし河童は二度と現れなかった。


 まぁ、何ていうか……。

 F門院には何かある。



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