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ざしきわらし

 23歳の時、私は短大生の妹と二人でアパートを借りて暮らしていた。

 リフォームされて見た目は新しいが、元々はかなり古いアパートだった。

 最初は1人で住んでいたが、短大に入学した妹の寮費を浮かせようと、父が「お前ら一緒に住め」ということになった。

 そして妹が来てから変なものを見るようになった。


 部屋にいて本を読んでいる時など、目の隅にチラリと動くものが見える。

 すぐに顔を動かして見ても何もいない。

 それは何か緑色の服を着た子供に悪戯をされているような感じがした。

 気のせいだろうかと思ったが、あまりにも頻繁なので、病院に行こうかなと思いはじめていたところだった。


 ある日の夜、風呂から出てきた妹が言った。

「あれ~? 今、私の布団に小さな子供が寝てた」

 風呂場から居間までの間に6畳の部屋があり、私達はそこを寝室にしていた。万年二人の布団が敷きっぱなしになっており、寝室を通って私のいる居間まで来る時に、布団の上に子供が寝ているのを見たと言うのである。しかし子供はちらりと見えただけで、二度見した時には消えていたらしい。男の子か女の子かもわからなかったという。


 兄が当時の彼女(現在の奥さん)と遊びに来た時、その話をすると、言った。

「ざしきわらしじゃないか?」 

 もしそうならいいことだ、ざしきわらしの住み着いた家には福が訪れる、というような話をした。

 彼女が興奮し、いいことあるよ~、いいことあるよ~、と繰り返した。

 しかし私にも妹にも、特にいいことはなかった。


 二年後、妹は短大を卒業し、鳥取の旅行代理店に就職した。

 妹がいなくなってからも、ざしきわらし(仮)はずっと目の隅でチラチラと姿を見せていた。


 ある日の朝、私は仕事に出掛けるためアパートを出た。

 部屋は2階にあり、玄関を出ると鉄の階段を降りて駐車場にあるバイクに乗る。

 鉄の階段を降りはじめた時のことだった。


 カンカンカンカン――


後ろから早足で、足音だけが私を追い越して行き、砂利の音を一回だけ鳴らして消えた。


 私はびっくりして暫く立ち尽くしていたが、やがて思った。

「あぁ、出て行ったんだな」


 それ以来、目の隅でチラリと動く子供のようなものは現れなくなった。



 やがて仕事を変わり、その町を離れた。ややあって車で付近を通りかかることがあり、懐かしくも思い、アパートを見るため寄ってみた。

 アパートはなくなっていた。何もない空き地になっており、背の高い草が生え放題になっていた。あれからそれほど経っているわけでもないのに。何があったのかはわからなかった。

 あのざしきわらしはいいことは何もしてくれなかったと思っていた。しかし、もしかしたらアパートに降りかかろうとしていた何かの厄災から私達を守ってくれていたんだろうか?

 そんなことを思った。

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