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完全犯罪

 ムジナは地下にある社長室で腹を抱えて笑い転げていた。虎の敷物に寝ころんで、狂ったピエロの様に笑い続けている。なにせ、自分たちを消そうと画策している連中の裏をかけるのだから。



相手の嫌がることを繰り出して、こちらにとっての旨みとする。商売もそうだが、人生も似たようなものだ。今回は相手が聞いていた話とは違い、予想していた動きとも違うという嫌がらせをして、フィクナー財団との関係という旨みだろうか。

とにかくライアードの裏側を引っ張り出して、潔癖な社会の禍根を絶つ。その計画は水泡と化し、大金をはたいてフィクナー財団を呼んだことも、ボディガードの武装やら人件費も無駄になる。

それに比べて、こちらの計画が上手くいけば、日本政府はフィクナー財団を危険地帯に送り込んで命を奪ったことで国際社会から非難を浴び、代わりにライアードは、傷つきながらもニオだけは守り抜いたことで賞賛を得る。



 そう、今回の計画ではニオにも多少の危険を付きまとわせることになる。フィクナー財団の四人中三人が殺されて、ニオだけ怪我一つなかった。狙われもしなかった。それはネットではなく人を通じて広まり、ニオがなんらかの手を使ってフィクナー財団を乗っ取った、と捉えられるかもしれない。



だからこそ、ニオを狙った攻撃もプランに含まれている。危険だが、おそらくエリアナインが混沌に染まるであろう渦中の中で、ライアードが必死にニオを守ったということになる。証人も、向こうが寄越したボディガードを二、三人生かして用意する。その結果として、フィクナー財団を継いだニオは、命の恩人であるライアードと提携を結び、金と頭脳で世界中をアキムの研究室兼市場にする。



 計画の大まかな概要は、そう決まった。あとは、いかにしてフィクナー財団の三人を殺し、自然にニオだけ助けるか。アキムは考えられるだけの未来をA4用紙に書き込むと、封筒に封をして、郵便局へと部下に運ばせた。

なにもかもがネットで繋がっている社会でも、廃れないものはある。タバコも手紙も、その内の一つだ。

「それで、俺が頼んだ物と人は用意できたか」

 寝転がったままのムジナへ問いかければ、万事そつなくこなしたと、笑いながら答えた。ムジナがここまで笑うのは、初めてかもしれない。それだけ、旨い話なのだから。

 あとは、視察の当日が来るのを待つだけだ。





 人を殺す日、だというのに、空は雲一つなく晴れ渡っている。

しかし、風が強かった。何枚も着込まなければ凍えてしまいそうな日中に、黒塗りの高級車が三台、薄暗いスラムと化したエリアナインの道を進んでいく。ニオからの情報によれば、前と後ろの二台に、最新のアサルトライフルと防弾スーツに身を包んだボディガードがいる。



アキムは廃墟となったビルの上から、Iドロイドの3Dホログラムを開き、エリアナイン中に仕掛けた監視カメラと、ドローンからの映像データを立体的に映し出していた。

 ニオの話では、まずエリアナインを回った後に、ライアードで今後のことを話し合うらしい。

その場には最新鋭のスーツを着込んでアサルトライフルを構えたボディガードは行かず、スーツ姿で、拳銃一丁だけしか武装していない奴らが来るそうだ。

おそらく、こちらの裏の顔が出てくれば、スーツ姿のボディガードが時間を稼ぎ、防弾スーツを着込んだ所謂殺しのプロがライアードに突入するのだろう。



とはいえ、ここは銃社会であるアメリカとは違い、平和な日本だ。エリアナインもスラムのようで危険が含まれているが、重武装の兵隊を大勢連れてくるようなことはできない。そんなにドンパチしては、他国でなにをやっているのだと咎められるだろう。



そういうことなので、ボディガードは最低限だ。会談に同席するスーツの連中とアサルトライフルを手にする二組を合わせても二十人にも届かない。エリアナインは、どこが崩れていて、どこが高い建物なのか知られていないため、事前にスナイパーを配置させておくことすらできない。つまり、あちらは完全にこちらの思惑通りに動くというわけだ。



 しばらくは、自分の目でもエリアナインを見通せるビルの上から時間が経つのを待つと、やがて黒塗りの高級車たちはライアードの駐車場へ停めて、スーツ姿のボディガード六名に囲まれながら、フィクナー財団一行はライアードの自動ドアを通り、アンドロイドが礼をすると、こちらですと案内される。



その映像も3Dホログラムから見えるので眺めていれば、何一つ問題も起こらずに、ムジナは笑顔で出迎えて、早速問題点について話し合っている。

ボディガードたちは二階にある表向きの社長室で、どことなくソワソワとしている。ウィス・フィクナーもシール・フィクナーも、ルイスですら、目の前の話し合いに集中しきれていないように見えた。


そんな会談の場で、笑いを押し殺しているのであろうニオは、今回もダメージファッションを着て、仕切りに金色の腕時計を気にしていた。そこへ、ムジナは問いかける。「何かおこまりですか?」と。

 ニオは自然を装いながら、トイレに行きたいと照れて答える。なら、部屋を出て右を行き、突き当りをまた右に曲がれば女性用トイレだとムジナが教えると、六名いたボディガードの半分、三名がついていく。当然だ。社内のどこで捕まり、人質にされてもおかしくない状況なのだから。



 さて、ようやく準備は整った。ムジナとニオを除いたフィクナー財団三名と、ボディガード三名は、二階にある社長室にいる。ニオもボディガード三名を連れてトイレに向かった。黒塗りの高級車二台には、十二名の武装したボディガードが出番を待っている。



アキムはわざわざ持ってきた充電式のコーヒーメーカーから一杯注ぐと、シュガースティックは入れずに一口含み、苦みが広がる。それが消える頃、アナログな無線機の電源を入れた。



「G1、作戦開始だ」

 ネットに繋がらない無線機で、ライアードの社長室を遠くに見ることのできる廃墟の屋上にいる、正真正銘の『殺し屋』に連絡を送る。ライアードの抱える部下ではない、言うなればフリーの殺し屋へ秘密裏に計画へ参加してもらい、仕事としてID認証のいる最新型の狙撃銃で、『ムジナ』を狙撃させた。

 社長室にある監視カメラからは、ムジナの右肩をかすめた弾丸がガラスをバラバラにすると、ウィス・フィクナーの足元に着弾した映像を保存する。ボディガードは銃を取り出し、その身を盾に三人を囲う。



そこでムジナが、大げさに倒れて「逃げてください」と言い残して気絶したふりをする。ニオから裏の経営もムジナが仕切っているように情報を歪めたため、ボディガードを含めたフィクナー財団一行は、現状が全く把握できずに困惑していると、G1はもう一発の弾丸をボディガードへ向けて撃ち、鮮血の赤と砕けた脳みそが社長室に散らばる。



誰がどんな目的でこんなことをしているのか理解できていない彼らは、とにかく緊急事態だと社長室を飛び出る。

残された二名は拳銃を構えてフィクナー財団を護衛しつつ、黒塗りの高級車で待機していたボディガードへ連絡を取ろうとした。しかし、すでにジャミングはかけてある。こちらの指定する周波数でしか通話ができないので、監視カメラ越しに見える彼らは実に滑稽だった。



「お疲れ様でした。あとはお逃げください」

 前払いで依頼をしたG1こと殺し屋に作戦終了を告げたら、次はニオの方に無線で連絡をとる。第一段階は終了したと。



「OK、まあ見ててよ。ボクなりに『役』をこなすから」

 そのままポケットへ無線機をしまったのか、トイレを出てボディガードにIドロイドの画面を見せた。偽りのテロ予告の画像を。

 監視カメラから見えるニオは、こんなところで死にたくないとパニックを起こす。ニオについていったボディガードは困惑しながらも、タチの悪い冗談だとなだめようとする。



「S1、やれ」

そんなニオとボディガードたちへ、ライアードの社員が隣接する別練からトンプソンの雨を降らす。命中精度の低い射撃に翻弄されながらも一名が被弾し、窓側に避難する。そしてニオは悲鳴を上げて逃げていく。

今、この時はエリアナイン中にジャミングがかけられており、S1の名で呼んだ社員が証拠となる映像は残らないようになっている。



これで、ニオとその他三人のボディガードはバラバラになった。この時になってようやく、ニオの画面に映っていた嘘のテロ予告を、それぞれのIドロイドへ送信する。

戦争のない世界といえども、テロ組織は根絶されなかった。それらに狙われていると錯覚させ、通信がつながらないのなら、外で待機しているアサルトライフル組へと合流することになる。

しかし、それらは全て、アキムの予測通りだった。



「C1、奴らを起こせ」

 ライアードの外、駐車場より離れたところにあるスーパーマーケットの残骸に、ライアードの社員が一人紛れていた。そこには、もはや言葉を喋ることすらできなくなった、生かしておいても価値のない薬中が固まっている。そんな連中を、薬を餌に起き上がらせる。



そのまま白い粉の詰まった袋を黒塗りの高級車へ投げれば、薬中共は我先にと駆け寄っていき、異様な光景に車から出てきたボディガードの警告などに耳を貸さず、ただ走っていた。

その着ている服の下に、大量のダイナマイトを巻きつけて。

こちらからの周波数によって着火する仕組みのダイナマイトは、威嚇射撃をしても止まらなかった薬中が車のすぐ近くに落ちた白い粉の入った袋を掴むと、こちらから電波を送る。



「いい花火だが、少しやりすぎたか」

 遠目に見える、煙の上がるライアードの駐車場での惨劇に対し、アキムは本社の壁に傷がついたかな、程度にしか感想はなかった。しかし、あとはこれを繰り返すだけだ。



 爆発音を聞いて外も中も危険だと察知したボディガードたちは、銃を構えながら、フィクナー財団の三人を連れて逃げようとする。ニオがいないと足を止めていたフィクナー財団も、三名のボディガードがついているから大丈夫だと説得していた。被弾して、動けずにいることなど知らずに。



そうしてライアードから離れていけば、あえて監視カメラにかけていたジャミングをOFFにする。映る映像は、三名のボディガードに守られながらエリアナインを逃げるフィクナー財団と、こちらから指示をして動きださせた、薬中たちだ。

まだ言葉を喋るくらいはできる薬中は、今の世の中で一番脅威となるテロ組織の名前を叫ばせながら、ダイナマイトを括り付けたまま突進する。

相手が驚いて反応できないうちに、その場にいた全員がアキムからの電波で大爆発を起こし、炎に包まれた。ジャミングをかけていた影響からか、それとも爆風からかは分からないが、監視カメラの映像はノイズが混じっていたものの、しっかりと残してくれた。テロ組織の犬となった薬中たちが、自爆テロを仕掛けた様子を。



「さようなら、ルイス」

 粉みじんに吹き飛んで、体のどの破片が誰のものか分からぬほどの大爆発は、ビルの上にいたアキムのところにも爆風が遅れてやってきた。しかし、上手くいくものだ。

 アキムはコーヒーを飲み干すと、ニオへ連絡を取る。あらかじめ教えておいたやり方で、地下室へのエレベーターが来る隠し扉の先にいたのだ。

 よろよろと外に出たニオへ、第二陣とばかりに薬中たちが集まっていく。そこを、気を取り戻したムジナが駆けつけ、助け出すとシャッターを閉める。そのままシャッター越しに爆発したが、一連の流れは映像に残っている。

更に、二階のトイレ部分には、ムジナが走ってニオを救いに行った様子を見ていた生き残りのボディガードもいる。



「万事つつがなく、計画通り」

 ウィス・フィクナーもシール・フィクナーも、ルイスも、テロ組織によって殺された。そしてニオは偶然にもムジナのおかげで生き残った。あとは、警察が駆けつけてきて、事の推移をニオとムジナが説明するだろう。そこには生き残った証人であるボディガードもおり、テロ組織から送られてきた犯行予告もある。



 これで、ライアードは深く疑われない。その場にいたので怪しまれるのは当然だが、とても一企業がここまでのことをするとは思われないだろうし、なんの利益もない。

つまり、今回の件は全てテロ組織によるフィクナー財団を狙ったテロ行為としてトレンドの一位を飾り、勇敢にもニオを守ったムジナの姿は称賛の嵐だろう。



 アキムはやっと終わったので、快晴の空を見上げながら横になった。これからは、あの空が見える全ての場所が、アキムの知的好奇心を満たす場所になるのだ。

「楽しみだよ、ニオ」

 パトカーの音が聞こえてくる。救急車のサイレンもだ。いつまでもここにはいられないので、コーヒーメーカーだけ手にして廃墟となったビルを降りていく。この後は、前に停めてある車でライアードに戻った、ということになる。


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