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だから、殺してくれないか

 アキムは、考えていた。自らに天が与えた知識とこれまでの経験を重ねあわせて、何十通りもの理由を考えていた。それに、最後の言葉も気になる。「今度こそ本当にさようなら」、だと? どういう意味だ。エリアナインの視察が終わったら、友人でもないから会うことも話すこともないという理由か?

 珍しく、本当に珍しく、アキムは考え続けた。あの涙の意味を。



「お困りのようだね。頭に雪が積もっているよ」

 言われ、ハッとして意識を目の前の世界へと戻した。頭を払えば、積もった雪と解けた水滴が飛び散る。そして、ルイスがいた場所で、この場に似つかわしくないラフなダメージファッション姿の女がいた。

ブロンドのボブカットの女は、ニヒヒ、と笑う。同時に、アキムの頭で行われた検索に引っ掛かった。



「あんたが、ニオ・フィクナーか」

 ルイスの双子の妹にして、この情報社会で素性がほとんどつかめなかった相手。それが、いつのまにか隣に来ていた。

「ああ、分かる? すごいね。ボクたちは双子といっても二卵性だったから、姉さんと結構違うからさ」

 言われてみれば、ルイスはグラマラスな体つきだったが、ニオは体の凹凸が少ない。声も中性的で、男装もできそうなほどだ。



「で、ギフテッドの君が頭に雪を積もらせるほど悩んでいた答え、知りたいかい?」

「おい待て、なんでギフテッドだと知っている」

 自分がギフテッドだとは、ほとんど口外したことなかった。ルイスから聞いたのだろうか。いや、あんな別れ方をしておいて、数分後に妹へそんな話をするとは思えない。

 ならなんだと、もう一度思考の海に飛びこもうとしたら、これだよと、ミニスカートのポケットからIドロイドを取り出して、アプリを開いた。



「ボクが作った盗聴器と、それを聴くためのアプリだよ。姉さんは隙だらけだからね。簡単にくっつけられたよ。もう取ってきたけどね」

 アキムがルイスの食道に仕込んだ盗聴器とは大違いだが、見た限りではノリかなにかで付着させていたのだろう。透明な円状で腕時計程の大きさをした盗聴器が見てとれた。



「ついでだけど、君の事も調べさせてもらったよ。斎賀アキム二十四歳。血液型はAB型で、さっき知ったけどギフテッド。それで、この条件で絞り込むと、この数十年で日本に住んでいた人は一人しかいない。でも、表向きは死んだことになっているね」



 Iドロイドの3Dホログラムにはアキムについての情報がいくつも乗っていた。自らの死亡記事まで出ている。とはいえ、それが世間に知られると不味い。中には警察のログまで見受けられた。凄腕のハッカーというわけだ。

しかし、死んでいないことを世間に知らされては色々と困る。力づくでも止めようと手を上げた時、ニオは大丈夫だと、手で制した。



「誰にも言わないよ。ただ、自分たちだけが見ている側ではないと知るべきだね」

 どういうことだと聞き返せば、あの四日間の間にも、盗聴器を仕込ませていたという。

「君は嘘つくのに抵抗ないんだね。まあそのおかげで、今の君が本当の斎賀アキムだって知れるんだけどさ」

 掴みどころのないニオは、なにが目的でそんなことをしたのか。それに、ルイスの涙の答えも知っている。とはいえ、

「あんたの行動から目的が見えない。俺やルイスのことを盗聴して、なにがしたい」

「そうだね、いくらでもからかえるけど、ここは単刀直入に話そうかな」



 またニヒヒと笑ったニオは、金色の瞳にこの二年間よく見てきた悪意を浮かばせていた。

「君と――ライアードと手を組みたい」

「なんだと」

 ギフテッドでも万能ではないよね。ニオは一旦柵から離れると、周囲を確認している。

「どうやら、ここにはボクたちだけのようだ」

 雪を珍しがっていた乗客も、寒いからか船内へ戻っている。どうやら、他人に聞かれたくない話のようだ。

「あの涙の理由は、ボクの話を聞いていれば導き出せると思うよ。それで、結構唐突な話になるけど、信じてほしい」

「御託はいい。嘘か眞かは、俺の頭で見抜く」

「なら話しやすいね。それじゃ、一つ目だけど、なぜボクたちフィクナー財団が、日本の――他国の貧困層を救おうと思ったかだけどね。結構重たい理由があるんだ」



 理由と聞いて、アキムにはずっとひっかかっていたものがあった。アメリカにだって、エリアナインの様な場所はある。

それに、元はと言えば、アメリカが移民を抱えきれなくなったから日本が受け入れたわけだ。つまり、フィクナー財団は解決していない母国の問題を後回しにして、日本に来た。アメリカの傘の下にいるからかと考えていたが、どうにも違うようだ。それに値する理由とすれば……。



「エリアナインに――いや、ライアードに目的があるのか」

「流石ギフテッド、まさにその通りさ」

「おだてなくていい。あんたたちは俺たちに何の用があるんだ」

「正確に言うと、用があるのは日本政府かな」

「政府が……? なぜだ」



 決まっているだろう? ニオは悪い笑みを浮かべたまま、アキムへ歩み寄ると、背伸びして、吐息を吹きかけながら耳元で囁いた。「裏の顔を潰すため」だと。



「君たちライアードが人材派遣会社を名乗りながら、裏ではエリアナインを利用した違法品の密輸取引をしていて、そこで得た違法薬物で有名人のスキャンダルを起こしている――全部、ボクたちも日本政府も知っているのさ。でも、ライアードを無理やり調査する大義名分までは掴めていない。あとは、天才君なら分かるはずだ」



 ニオの言葉に体から血の気がひいていき、冷や汗がダラダラと流れる。それでもアキムの脳みそは目の前の事象に対する審議と重要度を査定した後、一つの答えにたどり着く。



「――あんたたちフィクナー財団がエリアナインの視察に来れば、ライアードの裏側は仕事を奪われるのを防ぐために、何らかの行動を起こす……そうか、だからか。日本政府は裏側について知っているが、警察を向かわせるほどには実態がつかめていない。だから、こちらが行動した時に、捕えて、証拠とする……そういうことか」

 全て見通せた。ニオに確認を取れば、素直に驚いている。



「まさか、そこまで分かるとはね……ライアードがアクセスも治安もよくないエリアナインにいながら、ここ二年程で有名度が段違いに上昇した。今では、日本に本社のある指折りの一流企業に名を連ねている理由が分かったよ。君が導いたんだね。嘘つきで容赦のないギフテッドが、今の答えを数秒で出したように、売り上げを伸ばしてきた。そこまで知れば、姉さんの涙も分かるだろう?」



 ルイスも、ライアードを潰すために来ていることは知っている。貧困層を救いながら、社会に寄生する悪の企業を消せるのなら、喜んで参加したことだろう。

しかし、ルイスはアキムというライアードの社員に、多かれ少なかれ好意を抱いている。今回の件が上手く進めば、間違いなくアキムも職を失うか、罪人になる。そこから救うために、商売の話だとかを口にしたのだ。フィクナー財団とライアードが提携を結べば、日本政府も手出しはできない。そして視察する時より前に真実を告げれば、裏の顔は露顕しない。



そうして、ルイスが舵を取りながら、いつかは裏の顔も消えて、福祉へ人材を派遣する会社へと変わる。

 なるほど、ルイス。思っていたより、頭がいいな。まさか、嘘を隠していたとは。しかし、弱いな。あの涙がなければ、ここまで考えることもなかった。

「納得したって顔をしているけど、そろそろこっちの話に移っていいかな」

 ニオからの情報はあとでムジナに伝えるとして、最初の話に戻ることになった。ニオと手を組むという話に。



「なぜ、ボクがここまで話したのか。理由は簡単だ。今回の視察を台無しにしてもらいたいからなんだ」

「視察中に撃ち殺せ、とでも言うつもりか?」

「ビンゴ! その通りだよ」

 なに? 冗談で言ったつもりだが、ビンゴだと?

「君たちのかき集めた銃器で、もしくはグレネードでも、なんなら刺殺でもいい。ボクを除いた三人を殺してほしい」



 ニオの顔に、どこか自分やムジナの表情が重なる。もしかしたら、ソシオパスかもしれないと思えるほどに。だが、今の話は……

「やろうと思えば、できないことではない。エリアナインはライアードという蜘蛛の巣だ。中へ引き込めれば、いくらでも狙撃地点はあるし、部下をホームレスに紛れ込ませて襲うこともできる。だが、リスクがあまりにも大きいのと……なぜ、そんなことをしなくてはならない」



「まず、そっちにとってのリスクに対するリターンとして、今後フィクナー財団がライアードを世界へと全力で後押しする。そのために、父さんと母さん、それから姉さんは邪魔なんだ。父さんも母さんも、今後は姉さんを代表にして慈善活動を行うそうだからね。でもボク一人が残れば、くだらない福祉だとか慈善だとかにはお金を使わない。優秀な人材を育てるために使うんだ」



 だから身内を全て殺してくれないか。ニオは、当たり前の様にそう口にした。



 この女は、自分とよく似ている。本当にソシオパスの才能がある。なにせ、金のためだけに家族を殺させるのだから。

「ここまで準備するのに、とても時間と手間をかけたよ。日本に来ても、君たちに見つからないように外出しないで、盗聴器の心配から、部屋に籠って。その前からも、ネットの海にボクの感情が分からないようにしてきた。商売の基本は、今や情報の有無だからね。君たちにとっては、ボクという存在を知れなくて困っていただろうけど、ボクからすると、ボクという情報を一番高く君たちに売れる瞬間を待っていたんだ」



 それと、これを渡しておく。ニオはIドロイドからアキムの端末へと情報を送った。アキムは送られてきた情報をスライドさせていると、実に丁寧に、視察の際にどういった護衛が行われるのか、事細かに記されていた。



「そこにある情報と、これから話す『殺害』のプランについて聞き終えたら、今後の発展のために手を結ぼうじゃないか。金という金を、ボクが出して、ギフテッドの君が操り、市場はボクが用意して、君が商品を選び、ボクが集めて、君がより高く売る――素晴らしいだろう? そんな未来のためなら、人の命の二つや三つ、どうでもいい。ボクはお金が、なによりも大好きだからね」



 ルイスと違い、気の合う女だ。そして、最高の未来が待っている。世界を股に掛けた商売は、ギフテッドの脳髄を刺激し続けるだろう。

「メールも電話も、どんなアプリを使っても、今やどこかで見つかる。だから、古臭いやりかただが、手紙でやり取りをすることにするか」

「その答えは、ボクの話に乗ってくれると捉えていいんだね?」

 もちろんだ。こんなチャンス、本来ならあるはずもない。アキムはメモ帳にライアードの住所を書くと、それを渡した。

「事が成功するまでは、デッドメディアに頼るしかないが、これからはよろしく頼む」

 こちらこそ。ニオが差しだした手のひらとガッチリ結ぶと、具体的な話し合いが始まった。


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