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橋本絵莉子(ex.チャットモンチー)『日記を燃やして』(2021年)

●歌ものロックの良作


元チャットモンチーの橋本絵莉子によるソロで初めてのフルアルバム。『日記を燃やして』というタイトルが挑戦的だが、挑戦的でありつつ、オーセンティック(≒真正)な歌もののアルバムとなっている。


チャットモンチーが完結した後、ソロになって試行錯誤しながら前を向いて活動を続ける橋本さん。"日記を燃やして"というタイトルは、過去を振り返らずに前を見るということを意味しているのかもしれない。そして、ジャケットの自画像はチャットとしてではなく、一人としての私を見てほしいという願いが込められているのかもしれない。


彼女のキャリアでいえば、チャットモンチーの『告白』に次ぐ歌ものロックの良作だ。歌もの好きにもロック好きにも刺さる。一回聴いてピンとこなかった方はぜひ2周目を聴いてみてほしい。豊穣な音楽の庭が眼前に広がっていくのを感じるだろう。


ここで各曲を簡単に見ていこう。


オープナーの#1「ワンオブゼム」。チャットモンチー時代の代表曲の一つである「世界が終わる夜に」のメロディの質感があるサビ。そのサビのボーカルの声質は爽やかで力があり、涙に濡れながらそれを拭う意思に満ちている。


#2「かえれない」。グネグネ動くベースとハネるリズムにしなやかさと強度がある。ギターのカッティングがおしゃれだ。


#3「ロゼメタリック時代」。ロゼはフランス語で「バラ色」、メタリックは「金属的」という意味。ロゼワインのような淡い酩酊感と金属のような光沢のある曲だ。


#4「タンデム」。タンデムとは、二人で乗る自転車やオートバイのこと。僕も深くは分からない、哲学的とも取れる歌詞が安直な理解を煙に巻く。


ところで、村上春樹『1Q84』の編集者の小松じゃないけど、小説において"特別な何か"、つまり"読み切れないもの"って大事だよね。読者には読んで理解し切れないけど、豊かな意味がそこに含まれていると分かる文章。文化芸術でも大事だと僕は思っていて、その点で言うと、本作『日記を燃やして』の作品には、"読み切れないもの"がある。


#5「あ、そ、か」。家族について歌った穏やかな曲調の曲。「大人になったらちゃんと選べるように/その小さな体と小さな勇気で/この世界の前しか見なくていいよ」という、子供に宛てて書いた歌詞に橋本さんの優しさを感じる。


#6「fall of the leaf」。イントロのドラムパターンに落葉の景色を見る。橋本さんの誕生日(1983年10月17日)の季節である秋への賛歌。


#7「脱走」。しがらみの外へ走り出そうとする、素敵な小品のような曲。小さな自由がここにはある。


#8「前日」。方言を交えることで、日常の本音感を増している。こんな曖昧な感情を粒度高く描けることに感嘆する。


#9「今日がインフィニティ」。即効性が高く、一昔前ではシングルカットもできそうなくらいポップな曲。まさにインフィニティ(≒無限大)な活力を感じる。オススメ!


#10「特別な関係」。ラストにふさわしい、ゆったりとした曲。録音でボーカルを重ねるダブルトラックのサビが艶やかで寂しげに聴こえる。


こうして見ていくと、曲ごとに雰囲気が違い、各曲が多様な個性の豊かさをはらんでいることに気づかされる。


そして、音楽を知的にもて遊ぶのではなく(音楽的知性の見せびらかしではなく)、音楽に奉仕していると感じる。それゆえの音楽の深みがある。そして、音楽とは音で伝えること。この作品は弱い正しさも深い感情もリスナーの耳に届け、胸に伝える。


10年先でも20年先でもいいから、いつかチャットモンチーをオリジナルメンバーで再結成してほしい。僕の好きなバンドでチャットモンチーと同じく"完結"した"うみのて"も4年後に復活しているし、ありえるのではないかと思う。


しかし、今はチャットモンチーが完結した後に続く橋本さんの物語を追っていきたい。彼女が選んだ道だから。


僕も83年生まれなので、同じ歳の方が活躍するのは嬉しいし、希望だ。ますますのご活躍を期待しています!


Score 8.1/10.0

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