Mr.Children『産声』(2026年)
●産まれたての清新な声と音楽が聴こえる
説明はもはや不要、人気四人組ベテランロックバンド「Mr.Children(略称:ミスチル)」の新譜のレビュー。前作『miss you』('23)に引き続き、セルフプロデュース作品だ。
【収録内容】
01. キングスネークの憂鬱
02. Again (TBS系 日曜劇場「リブート」主題歌)
03. Saturday
04. ウスバカゲロウ
05. Glastonbury
06. 禁断の実
07. 平熱
08. 空也上人
09. Stupid hero
10. Nowhere Man ~喝采が聞こえる
11. 産声
12. Umbrella
13. 家族
さて、本作のレビューをする前に、直近3作を手短かにレビューしていこう。僕の問題意識を手っ取り早く伝えるにはこれがよい。
★ミスチル『重力と呼吸』('18)
熟達して精緻でありつつ、瑞々しい演奏。重力を受け止めつつ、生々しい自然体の呼吸から生まれる佳曲ばかり。一曲一曲大切に作られている印象から、"量産"という言葉は似つかわしくないが、良い歌を安定してたくさん作っている爛熟期のミスチル。
★ミスチル『SOUND TRACKS』('20)
ソングライティングも音も完成度が高く、何回聴いても消費されない力強さをもったアルバム。ロンドンとLAでレコーディングを行なっている意欲作だけあって、音のテクスチャーも響きも上質な作りだ。表現的には前作『重力と呼吸』よりも幅が広いように感じる。この暗さは僕の心の形に上手い具合にフィットする。
★ミスチル『miss you』('23)
近作の中では異色作とされる本作。ジャケに一人でたたずむ桜井和寿さんの葛藤とその熱量に過不足なく寄り添う楽器隊の演奏が、生々しくダークな響きをもって伝わってくる。エゴを過激にえぐり出した#6「アート=神の見えざる手」等、表現の振り幅も広い。
『深海』に収録されていてもおかしくない内向的な楽曲が並ぶ前作『miss you』。本作『産声』はそこからどのように舵を切ったのだろうか、そこか僕の最大の関心ごとだった。
どんなディスコグラフィーの物語をたどるのか。尖っていくのか、ポップな歌ものでいくのか、外向的で行くのか、内向的に行くのか、様式美で行くのか、混沌としているのか、あるいはこれらの要素を全てはらむハイブリッドな音楽性で行くのか。
アルバムタイトルのリード曲#11「産声」を聴いたときに自然に笑顔になった。ホーンも含めて底抜けに明るく開放的サウンド。過去の名曲「蘇生」のような、願いをもった前向きな世界観に胸がすく思いがした。
ミュージシャンはよく前作への反動という動機を持って新譜を製作している。本アルバム『産声』も、前作『miss you』の『深海』チックな暗い海底の胎内から、外の世界に飛び出したときの産声のような響きをもって迫ってくる。
本アルバム『産声』について、すでに紹介した#11「産声」を除いて一曲目から見て(聴いて)いこう。
#1「キングスネークの憂鬱」。サビ前までは彼らの過去の名曲「フェイク」を彷彿とさせる露悪的なサウンドと歌詞と歌いぶり。このバースの怪しい雰囲気と、それを振り払うようなサビの清新な高揚感が、サウナと冷水浴のように交互にきて気持ち良い僕好みの曲だ。
#2「Again」を聴いたとき、その曲名もあって中期以降の彼らの代表曲である「HANABI」 を思い起こした。「HANABI」よりも陰影と屈託があるが、「HANABI」の「もう一回、もう一回」という願いと意思の力が、「Again」にもみなぎっていた(やるせなさと共に)。
#3「Saturday」では初期のアルバムで聴けたオシャレなメロディセンスとサウンドを感じ取れた。でも、オシャレにとどまらない実存も力強く鳴っていて今のミスチルになっている。
#4「ウスバカゲロウ」。"五人目のビートルズ"にならっていえば、ピアノは五人目のミスチルとも呼ばれる小林武史によるもの。このアルバムではプロデューサーではなくプレーヤーに専念している彼によるピアノが麗しい。
#5「Glastonbury」。曲名はイギリスの大型音楽フェスのグラストンベリー・フェスティバルから取られている。冒頭に出てくる"クリス"とは2002年のこのフェスのヘッドライナーだったColdplayのフロントマンのクリス・マーティンだろう。クリスへの憧れを歌っているが、桜井さんもクリスに負けないくらい程よくカリスマ的だと思う。
#6「禁断の実」のサックスは桜井和寿さんが吹いているという。繊細なニュアンスが豊かに表現されていて、プロのサックスプレーヤー顔負けの演奏だ。
曲名の割にはスケールが大きく、大人のバラードの#7「平熱」。平熱でもエモーショナルな音楽性にこのバンドならではの熱さをそこに見る。
#8「空也上人」はミスチル的な本音吐露の歌唱が考えさせられる。曲終わりで「ジョン・レノンでも聴こうか」と歌うのが、楽観的に理想へ向かっていく感じがして好き。
#9「Stupid hero」。ブラスロックの鷹揚とした姿勢と気ままなアレンジにヒロイックな自由を感じ取れる一曲。
#10「Nowhere Man ~喝采が聞こえる」。そこにスポッとハマるようなメロディの美しさは本作随一ではないか。メロディが喝采を呼んでくる。
#12「Umbrella」。曲名のとおり、雨が降っているような湿り気のあるメロディ。雨が上がった後を見すえる主人公の視線が頼もしい。
掉尾を飾る #13「家族」。曲調やアコースティックなサウンドがフォークロックを思わせる。このフォークの情緒は、エンディングを飾るのにぴったり。
以上、完成度の高い13曲。ただ、近作でいえば『SOUND TRACKS』のような伸びやかで切実なメロディが聴こえない。『産声』収録曲のメロディメイクは天性の閃きというよりも、力技で作られているように思えるのだ。そう思うのは僕だけだろうか。
(ミスチルファンの方には、よーよーよりも自分の感性を信頼してほしい。)
しかし、「熱」はある。
本作最後の曲「家族」の歌詞。
「情熱はその行き場をなくし
だけど尚、沸々と僕を駆り立てる」
この歌詞に安心する。情熱がある限り、彼らは曲を作ることをやめないだろう。惓んでも膿んでもいない、産まれたての音楽がどこまでもいつまでも鳴らされていく予感がする。天から降りたメロディが彼らの航海の旅路を照らし、あるべき行き場に導いてくれることを祈っている。
Score 8.0/10.0




