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くるり『thaw』(2020年)

●20年以上の歴史の豊かさとコロナ禍の今に響く現在性


くるりによる未発表曲集。新型コロナウイルス感染拡大に伴うツアー中止を機に、"未発表作品集をとんでもないスピードでリリースする"というアイデアが実現された。


ここに鳴らされるのは、1997年から2020年に渡る20年以上のくるりの歴史の重みであると同時に、日常にそっと寄り添うような気だるい軽みだ。この気だるさはコロナウイルスによる災禍によって冴えない現実に対して適切な距離であってクセになる。ジャケットの写真も日常の現実の一コマを切り取ったものであると感じる。


"すごいぞくるり"と万歳三唱したくなるような作品だ。そこまでポップではないものの、天才的アイデアが随所に光っている。前作『ソングライン』は牧歌的でレイドバックした歌ものが並び、自身の音楽的なエゴをコントロールして抑制しながら作った曲に聴こえる。だが、僕は本作に収められた曲のように音楽的なエゴをむき出しにして聴かせるような曲の方が好きだ。


こなれていて技術もセンスも光る演奏は、骨太であり、洗練されて聴こえる。古今東西の音楽の音楽性を吸収しながら演奏する、その姿勢に音楽への愛情の深さを感じずにはいられない。滋味あふれる演奏から骨格をむき出しにした荒っぽい演奏まで、曲ごとの演奏のキャラクターも変化に富み、飽きさせない。


トラッドフォークの音楽性で美しい光景を叙情的に描く#5「evergreen」、ポスト・ロック的アプローチによる実験的インストルメンタル#7「ダンスミュージック」、12小節のブルース風モチーフをもとに怒りを表現した極めて生々しい作品である#8「怒りのぶるうす」。3曲例に挙げただけで音楽性がこんなにも違うことに驚かれる方も多いだろう。だが、そこは"すごいぞくるり"。アルバム全体の統一性はバラバラなように見えて、実験的な作風の中に一本のくるりとしての筋が通されているように思う。


非常に生(raw)な感触の#11「人間通」はスカムな作風で、実験的な作品が多いくるりの中にあっても異色な作品だ。その一方でオープナーである「心のなかの悪魔」のようなオーセンティックなロックソングもある。どの曲にも言えるのは、パーソナルな心情を吐露した曲であるということ。日常の中で引き裂かれるような実存が誠実に表現されているように感じる。怒っていても、笑顔が遠くても、音楽がそばにいるじゃないか。音楽を通してそう諭しているようにも聴こえるのだ。新型コロナウイルスに負けないためにミュージシャンが社会に対してできることは、音楽を届けることを止めないことなのかもしれない。


Score 7.4/10.0

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