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内田万里+CRAZY PIG『FOUR WAVES』(2025年)

●それは、4つの波、波動、波紋


いまさらだが、"内田万里+CRAZY PIG"が4月にリリースした新譜を買った。


10曲中7曲がすでに配信リリースされているが、内容が良かったのでフルアルバムで聴きたくなった。


CDを買うのはいつぶりだろう…


今回の『とかげ日記』の記事は、その新譜についての感想&レビューです。元ふくろうずの内田万里の巧みなソングライティングと、手練れの楽器隊(ベボベの関根史織も!)が奏でる素敵な曲の数々に、よーよーもレビューを書く手が止まらない!


内田万里+CRAZY PIG「FOUR WAVES」収録曲

01. WAVES

02. HIMITSU (配信なし)

03. HARU-RANMAN

04. TASOGARE-CHINA

05. WHY

06. SUPER HATE

07. MONOLOGUE

08. DIE DIE

09. DAWN (配信なし)

10. TONIGHT(配信なし)



これまで、内田万里+CRAZY PIGは、内田万里、関根史織(ベース。ベースボールベアーのメンバーとしても知られる。)、河西愛紗(ドラム。"chatoe"や"奮酉"のメンバーとしても知られる。)の3人編成だったが、ギターの渡辺蒔生が加入して4人編成に。ちなみに、渡辺蒔生さんは過去にワタナベマイとしてうみのてで活躍していた。うみのてと内田万里さんは対バンしたことがあるし、「テトリ(キッ)ス」という曲でコラボしたこともあるし、何かとご縁がある。


彼女たちのツアーのタイトルが「波動ツアー」と名づけられたとおり、このアルバムのタイトル「FOUR WAVES」のWAVESとは"波動"のことだろう。波動というよりも波動拳の使い手(©️ストリートファイター)である僕よーよーにも、本作に込められた念であったり、波動だったりを感じ取れた。それは、メロディが輝き、リズムが躍動し、コードが美しく、何よりも彼女たちの魂を感じる、真に迫る演奏だったからである。まさに、4人による波(FOUR WAVES)のような音楽だった。


リスナー界隈にはスルメソングなんてないと言う方がいるが、本作はまさにスルメソングスなアルバムだ。一口目で分からなくても、二口、三口といくうちに、病みつきになれるはず。仕掛けられた多くの実験は、ただ実験であるというわけではなく、一曲通しての良さにも貢献している。僕らはただただ、曲を愛で、そのにじみ出る良さをスルメを何回も噛むかのように楽しめばいいだけだ。


実験と聞いて距離を感じる方もいるだろうが、安心してください。ポップ、鳴ってますよ。(©️とにかく明るい安村さん)


その「ポップ」はJ-POPの死角のない抱擁力あるポップサウンドとは違う。インディーロック的なむき出しのバンドサウンドで奏でるポップだ。でも、むき出しだからこその切実なポップネスがこのサウンドにはある。よそゆきの作り込まれたフィクションではなく今を熱く伝えるドキュメンタリーのような聴きごこちだ。


歌詞のことばの一つ一つも胸を突く。また、歌詞カードの文字のフォントが、僕が生涯の名盤とする中村一義『ERA』のそれに似ていて、自分にとって意味性の重みと親近感の軽みがあるものだった。


ここで各曲について聴いていこう。


#1「WAVES」。波(WAVES)の音が聴こえ、環境音楽的でもあるし、その環境の中で内田さんの独白が切実な波動のように波紋となって広がっていく。頭の音楽的な回路が刺激され続ける、音楽ジャンキーな僕にとっては面白い曲だ。


#2「HIMITSU 」(配信なし)。聴いていると、感情が走り出す、歌い出す、踊り出す、光り出す。プレリュード的な#1「WAVES」を経て、実質的な幕開けともいえるこのナンバーは、動き出していく、その始まり的な明るい高揚感に満ちている。


#3「HARU-RANMAN」。この3拍子(3曲目と掛けているのだろうか、そんなことはないか)には切実な明度がある。ハートブレイキングな曲なのに「春爛漫」と名づける諧謔に表現の奥深さを思う。楽しくも悲しい春の息吹を感じてほしい。


#4「TASOGARE-CHINA」。「4人ならいっそ家飲みもいいけど」という歌詞があるけど、内田万里+CRAZY PIGが4人であることと掛けているのかな? 湿り気がありつつ凛としたピアノがたそがれていて美しい。


#5「Why」では、チップチューン的なギターの音色や、中盤でヒップホップを意識した展開があるなど、少し実験的だけど、「歌」へのポップな美意識があるから素晴らしい。


#6「SUPER HATE」。ふくろうず時代にも時々あった、ストレートではなく変化球の曲。アルバム全体における表現と音楽性の多様性に貢献している。


#7「MONOLOGUE」。歌唱が深化し、感情をダイレクトに伝えてくる。聴いているこちらも泣いちゃうくらいエモい。「Tonight」で鳴っている鍵盤にも感じだが、ミスチルっぽいギターソロが核心(©️Atomic Heart)を突き、勇壮な訴求力がある。


#8「DIE DIE」。「DIE DIE」と「だいだい」をリンクさせた言葉遊びが面白い。DIE(死)を曲名にしているだけあって、絶望感を匂わせる歌詞だが、「死にたいとかは、ナンセンス」と歌って希死念慮を一蹴するのが、内田さんの熱さ。


#9「DAWN」(配信なし)。このアルバムで一番の名曲だと思う。サブスクで配信されていないので、この曲を聴くにはCDを買うしかない。世界を形作るシンセ。間奏だけで泣けるギター。リスナーの寂しさに寄り添う優しいルート弾きのベース。シンプルなリズムパターンが歌を支えるドラム。そして、内田万里さんの切実なボーカルがたやすく琴線に触れてくる。


最後の曲#10「TONIGHT」(配信なし)は、「好き」だらけだが、「隙」のない完璧なポップソング。過去の音源(『Pee-Ka-Boo』)にも収録されているが、本作『FOUR WAVES』の最後に並べられた曲として聴くと、クライマックスの重みがある。



さて、こうして本作を見てきたわけだが、ここで告白タイム。ふくろうず解散後の音源で本作『FOUR WAVES』が一番好きだ。秘密だよ。この4人が鳴らす音を聴きにライブにも行きたいなー。少なくとも、内田万里さんには歌を歌い続けてほしいよ。熱くて優しくて可愛くて面白くて、僕は女性シンガーで内田さんが一番好きなのだ。秘密だよ。


Score 9.1/10.0

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