藤井風『Prema』(2025年)
●風さんも最後まで鳴らし続けてよね
藤井風、3年ぶりの3枚目のオリジナルアルバム。アルバムタイトルの『Prema』は、サンスクリット語で「無私の、霊的な、至高の愛」を意味する。
収録内容
【DISC 1】※初回・通常共通
01. Casket Girl
02. I Need U Back
03. Hachikō
04. Love Like This
05. Prema
06. It Ain't Over
07. You
08. Okay, Goodbye
09. Forever Young
初めて藤井風を意識的に聴く前は、全方向にうまくやりすぎているし、スカしている感じが嫌で聴いたことがなかった。
だけど、聴いてみたら素晴らしすぎてびっくりした。流行りというだけで俗っぽさを感じる方もぜひ聴いてみてほしい。
とんでもない美メロ。どこかで聴いたことがあるはずの歌メロなのだけど、新鮮に、鮮明に聴こえる。
モダンを飛び越えて最先端のその先に行こうとするそのサウンドテキスチャー。脳内のスイートスポットを絶えず刺激する魅惑的な音。音楽的な語彙も豊富であの手この手でリスナーを楽しませてくれる。藤井さんの盟友であるYaffleによるアレンジも功を奏しているのだろう。
これだよ、この音楽を僕は待っていた!
オールディーズの普遍的な音楽の魅力がありつつ、今の時代に沿ったプロダクション。音と歌の説得力が半端ないです。
圧倒的ハイクオリティ。当世の人気SSWでいうと星野源も音楽性が抜きん出て豊かだが、星野さんと肩を並べるほどの天才性を藤井さんには感じる。(ただ、グローバルな卓越性は藤井さんに特徴的だし、ポップでユーモアを交えた親しみやすさや音楽的な遊び心は星野さんに特に感じる。)
藤井さんはスキルのたくみさもマインドの美しさも今の日本で5本指に入る天才だと思う。今も人気だが、もっと騒がれていい。野球の大谷翔平、将棋の藤井聡太、音楽の藤井風、的な。個人的には彼の音楽シーン登場は宇多田ヒカルなみの登場のインパクトがあった(あるべきな)のではないかと思う。
なぜ、こんなにハズレ曲がないのか。どの曲にも熱量と美しさがある。リスナーに「捨て曲」とは言わせない、魂がこもった楽曲群。
おそらく幅広い古今東西の音楽から影響を受けているし、模範とすべきそれらの音楽に近づけるように鍛錬をし続けてきたはずだ。エイトジャム(8月31日回)に出演したした時には、クラシックも学んできたけど、J-POPもよく聴いていたことが紹介されていた(EXILE, YUI, Perfume, 湘南乃風, 加藤ミリヤ, アンジェラ・アキなどたくさん!)。あと、ちなみにボイトレの先生はヒゲダンの藤原聡さんの紹介で知り合ったみたい。そんな縁があったんだね(フジフジ繋がり)。
洋楽をカバーしたアルバム『LOVE ALL COVER ALL』('23)を聴いた時にも思ったが、ほぼというか聴き分けがつかないくらい英語ネイティブのような発音で歌っている(ネット上には一年間海外留学したくらいのレベルだと言っている方もいたがそんなことはない)。英語も日本語も乗りこなす二刀流なのだ。ハーフと間違えられることもあるが、両親は日本人である。
また、意味性やメッセージ性もある。音で遊ぶだけではなく前向きにメッセージを伝えようとするバイブスにあふれている。インド由来のスピリチュアルなメッセージ性は、特定の宗教を信じていない僕の心にもひしひしと伝わってくる。
タワレコの「NO MUSIC, NO LIFE.」ポスターも良かった。
>ポスターの藤井風「人生があなただけの音楽みたいなものなら 立ち止まったり、どんな展開になってもいいけど 最後まで鳴らし続けてよね」
力を持った、素敵な言葉!
本作も名曲ぞろい。その中から3曲を紹介しよう。今までのオリジナルアルバムとは違い、全編ほぼ英語詞なのだが、言語の壁を超えてくる秀逸な作品だった。
#3「Hachikō」
基本的に英詞なのだが、「Doko ni iko Hachiko」の部分が英語風発音の日本語で面白い。この日本語の歌詞も、それに合わせて韻を踏んだ英詞も、リズミカルな子音と母音の響きが心地よい。バイリンガルゆえのこの発想は、本曲の中で最も耳を引くフックになっている。
#4「Love Like This」
海のように寛容で茫洋とした愛。潮騒の響きのように彼の歌は優しく届く。沐浴みたいにこの歌に浸っていると、心底まで癒され、満たされている僕がいる。
#5「Prema」
描かれるのは我執を手放した後の愛のこと。曲名はまさに"愛"を意味するサンスクリット語。ヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教などの聖典もこの言語で書かれている。本曲はそんな古代からの利他な信仰の思想により、現代のエゴを超克しようとする尊く意欲的な歌。
他の曲もさっと見て(聴いて)いこう。#1「Casket Girl」はスネアドラムが曲をドライブしていくツカミはOKの良曲。#2「I Need U Back」は80年代の香りも感じさせる鉄板ダンスソング。#6「It Ain't Over」は渋くアンニュイなボーカルがセクシーなバラード。#7「You」は全方向に名曲感あるチルな佳作。#8「Okay, Goodbye」は洒脱なR&B。〆の#9「Forever Young」はテクノポップみたいな陽気な電子音が最高でフゥーー!となる。
また、この新譜をめぐってのトピックのひとつに、なぜ韓国のプロデューサーである250(イオゴン)と一緒に作品を作ったのかという問いがある。藤井さんが出演したエイトジャム9月7日放送回によると、その答えは、LAで山火事が起きたのが一つの原因であり、身の回りで組めるプロデューサーを探していたからとのこと。そして、藤井さんはおそらく250さんと組むと起こる音楽的な化学反応を楽しみにしていたのではないか。250さんが製作したNewJeansなどの音源は洗練されているし、ワールドワイドであるが、欧米人では出せない風味があるし、アジアの強さ、パワーが込められている。それは、藤井さんのこの新譜でも同様だ。
良いアルバムですので興味ある方はぜひ!
家のコンポで流したら低音もよく響いて気持ち良い。走っている車の中で聴いたら、爽快感極まりないだろうなー!フゥーー!(なお、よーよーは車を運転しません泣)
Score 8.9/10.0




