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BUMP OF CHICKEN『Iris』(2024年)

●ポップに振り切れた良作


邦楽ロックの人気を牽引するバンプオブチキン(BUMP OF CHICKEN)の約5年ぶりとなる通算10枚目のフルアルバム『Iris』(読み:アイリス)のレビュー。


《収録内容》

[CD]

01. Sleep Walking Orchestra

02. なないろ

03. Gravity

04. SOUVENIR

05. Small world

06. クロノスタシス

07. Flare

08. 邂逅

09. 青の朔日

10. strawberry

11. 窓の中から

12. 木漏れ日と一緒に

13. アカシア


前作『aurora arc』(19')のレビューで僕はエラそうにも次のように書いた。


「これからのバンプが僕にとって良いバンドになってくれるには、二つの未来の世界線がある。一つは、『orbital period』以前のバンプに戻ること。これは今のバンプの進路上無理だろう。もう一つは、「新世界」「Butterfly」「ray」のようなポップのベタに寄ったキャッチーな曲を作ること。『Butterflies』では「Butterfly」の一曲だけ良かったし、『RAY』では「ray」の一曲のみ良かった。このようなポップでキャッチーな曲をアルバム一枚通して聴いてみたい。」


そう、『orbital period』(07')までのバンプの作品は、粗さや勢いの中にも熱さがあり、生き方のひとつを教えてくれる、僕にとって本当に特別な音楽なのだ。


とくに 『orbital period』については、過去に下記のとおり書いた。


「経験値を得た演奏と失われていない熱さが両立したアルバム。本作よりも後のアルバムは曲単位では良い曲があるが、一枚としては僕は評価していない。10年代以降の彼らは満たされてしまった。昔のように生を渇望するような歌を聴きたい。」


(余談だが、僕は『COSMONAUT』(10')は過渡期のアルバムだと思っている。インディーズ時代も含めてそれまでのアルバムは8〜9割の収録曲が神曲だと思っているが、『COSMONAUT』は3割打者くらいになった。その後の窮状<あくまで筆者視点>は上記のとおりである。)


バンプの作品は昔から今まで、陰がありつつも、優しく力強い歌声は一貫している。また、夜や星、宇宙のロマンティシズムと抱擁のぬくもりは、現在に至るまでのバンプの十八番おはこのテーマだ。


しかし、変わってしまったものもある。天から降ってきたような良質のメロディはいくぶん弱くなったし、歌詞のパンチラインが以前よりも減った。そして、スケール感が半径5mからもっと大きなものになった。


ホール、アリーナ、スタジアムなど、規模の大きい会場には、スケール感のある曲の方が映える。ファンの規模が大きくなるにつれ、多くの人にライブを聴いてもらうためには、スケール感を大きくしていくのは自然な流れなのかもしれない。


だけど、百万人のために歌われる歌(©️ポルノグラフィティ)よりも、目の前のひとりひとりのリスナーを宛名として歌われる歌の方が好きな僕にとって、このスケール感の伸長にはバンプが僕のもとから離れていったような感触を受けた。(藤原基央さんは今も、ひとりひとりに向けて歌っているつもりかもしれないけど。)それは、ミスチルが大作路線になったときの寂しさを思い出させる。中期までのバンプの音楽に「貧しさ」を感じる方がいるとすれば、よそ行きではない素顔で平服なバンプをその貧しさから感じ取れて、僕の半径5mを灯す勇気のランプになっていたのである。


曲の音楽性が変化したことによって、昔からのファンは少なからずバンプを離れただろう。逆に、最近ファンになった方もいるだろう。僕は執念深いファンなので、あまり好きではない音楽性になったとしても、ファンでいることはやめないつもりだ。



では、本作はどうだろう? 聴いてみると、ポップな歌ものとしての精度はかなり上がってきた印象を受ける。


一曲目「Sleep Walking Orchestra」からしてポップに振り切れている。ケルティックな味付けもバンプの十八番!


そして、#4「SOUVENIR」なんて、ポップの極み乙女。ポップの鳴らし方が分かっているバンドだとあらためて感心する。


冒頭で僕が書いたバンプの二つの世界線のうち、後者である「ポップのベタに寄ったキャッチーな曲」ばかりのアルバムになっている。ポップな歌ものロックとしては、本作におけるバンプは8割打者のスラッガーだ。


特に、#6「クロノスタシス」に感動する。シングルで配信したときから名曲だと思っていたけど、アルバムの流れで聴いてみるとその名曲ぶりが際立っている。(ちなみに、バンプのファンであることを公にしている佐藤千亜妃さんを中心とするバンド"きのこ帝国"<現在は活動休止>にも同名の名曲があるのでぜひ聴いてほしい。)


本当にウェルメイド&ポップな良いアルバムなのだが、ウェルメイド&ポップであれば良いかというと、そういうわけでもない。たとえば、コブクロのアルバムが同日発売しているが、自ら進んで聴くことはないだろう。それは何故かと考えたとき、本作のバンプの音楽は売れ線であるだけではなく、ロックのフィーリングがあるということに尽きるだろう。


「この体だけの鼓動を この胸だけの感情を

音符のひとつ 言葉のひとつに変えて 繋げて見つける はじめの唄」

(#11「窓の中から」)


上記の歌詞の言葉のとおり、バンプは音楽を作り続ける。バンプの体だけに脈打つ鼓動を、藤原さんの胸だけに浮かぶ感情を、音符と言葉に変えて外へ形にして作り続ける。


アルバムタイトルの『Iris』はアイリスと読み、虹彩(眼球の色がついている部分)という意味だが、その語源である同綴りの「Iris」はイリスと読み、ギリシャ神話上の「伝える神様」を指す。この由来通り、本作からはリスナーの虹彩に向かってまっすぐに曲を伝えようとするバンプの想いが感じ取れる。でも、これは本作に限らず、『orbital period』以前から変わらないことだ。


本作『Iris』は清々しい生き生きとしたバイブスにあふれたみずみずしいアルバムです。今のバンプを形容するときに「ベテランバンド」という言葉が似つかわしくないくらい、フレッシュでカラフルな作品。#2「なないろ」の曲名のように、彼らが繰り出す虹色の光があなたの目の虹彩に届くとき、開ける(拓ける)視界と世界があるでしょう。ぜひ、読者の皆さまも一聴を!


Score 9.0/10.0

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