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King Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』(2023年)

●音楽で偉大な未知を開拓していく


King Gnu (キングヌー) 、前作『CEREMONY』から約4年ぶりの4枚目となるニューアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』のレビュー。ファンダムを拡大した大躍進作品である前作に引き続き、今作も脂がのっております! 全曲入魂(なんと21曲)の佳作です。既発の曲も多いですが、大胆なアレンジで魅せてくれます。


≪収録曲≫

1. MIRROR

2. CHAMELEON -フジテレビ月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』主題歌-

3. DARE??

4. SPECIALZ -TVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」オープニングテーマ-

5. 一途(ALBUM ver.) -『劇場版 呪術廻戦 0』主題歌-

6. δ

7. 逆夢 -『劇場版 呪術廻戦 0』エンディングテーマ-

8. IKAROS

9. W●RKAHOLIC

10. ):阿修羅:(

11. 千両役者(ALBUM ver.) -NTTドコモ 5G「希望を加速しよう2nd篇」CMソング-

12. 硝子窓 -映画『ミステリと言う勿れ』主題歌-

13. 泡(ALBUM ver.) -映画「太陽は動かない」主題歌-

14. 2 Μ Ο Я Ο- MARO CMソング-

15. STARDOM(ALBUM ver.) -2022 NHKサッカーテーマ-

16. SUNNY SIDE UP

17. 雨燦々 -TBS系日曜劇場「オールドルーキー」主題歌-

18. BOY -TVアニメ「王様ランキング」第1クール オープニング・テーマ-

19. 仝

20. 三文小説(ALBUM ver.) -日本テレビ系 土曜ドラマ「35歳の少女」主題歌-

21. ЯOЯЯIM


King Gnuの魅力といったら、歌と音楽の両輪に説得力があること。また、井口理さんの歌声の美しさがとかく世間では騒がれているが、もちろんキングヌーの魅力は歌声だけではない。


メロディアスなメロディをウェットに歌う井口理さん。ヒップホップからの影響を受けたキレッキレのメロディを歌う常田大希さん。優しく艶やかな井口さんと、乾いた攻撃的な常田さんによるボーカルはお互いにお互いを補完する全方位ツインボーカルだ。他のバンドでいえば、シニカルな熱血で突き進んでいく松永天馬と、それに冷静なツッコミを入れる浜崎容子のアーバンギャルドがそうであるように歌のキャラが違うナイスコンビなのだ。


そして、音楽で最重要の構成要素であるメロディ、リズム、ハーモニーを魅力的に構築できたら、あとは表現なんだよね。それでいうと、 井口理さんの歌は表現という点でも優れているように思える。役者での経験がフィードバックされ、音楽業とのシナジーの効果が表れているのであろう。#2「CHAMELEONカメレオン」という曲があるが、曲の背景で鳴っている音に合わせてカメレオンのように張り付く歌声には、繊細な技巧が垣間見れる。


バンドの織りなす音楽も完璧すぎて隙が見当たらない。お笑いでいったら、霜降り明星の粗品のようにそつがない。本作に収録されている#4「SPECIALZ」のように比較的穏やかな場面もありつつ、一寸の隙もないロックミュージックであり、最強のメロディを備えたロックソングを演奏する彼ら。音楽の強度をひたすら上げていこうとする、一部のKpopみたいだ。これは国内音楽にとっても、過去から未来へ通じていく可能性の分岐の最先端だ。


また、こちらも収録曲である#12「硝子窓」のような、他の圧強めの曲の中にあって、涙で濡れるようにしっとりしている曲もある(ただ、音楽の強度は変わらず強い)。この振り幅こそ、キングヌー。楽器隊はもちろん、井口理さんのファルセットが◎。悲しみの向こう側に連れて行ってくれるような没入感がある。



この「硝子窓」の他にも、しっとりした曲は本作収録曲では#8「IKAROS」や#17「雨燦々」も挙げられる。しかし、しっとりしつつも革新性に目(耳?)を見開く音楽体験だった。革新性といえば、#10「):阿修羅:(」もヒップホップ由来のトラップ風味と彼らの音楽性が化学反応していて驚いた。メジャーのフィールドにおいてここまで実験性のある曲がアルバムに複数入るのは珍しいのではないか?


「音楽通」の一部は流行している音楽を忌避しがちだ。だが、以上見てきたように、そんな彼らを実力でねじ伏せる音楽の魅力が、King Gnuにはある。エッジが効いたロックであるため、合唱曲の素材にはなりそうにない。だが、それでもメロディが強い"うた"であり、音楽的にも複雑ながらフックがあり、その実力は今世ナンバー1バンドの筆頭格だ。


しかし、個人的にはもっと隙のある音楽が好きだ。二枚目の音楽も好きだが、三枚目の音楽はもっと好きなのだ。三枚目といえば、の子(神聖かまってちゃん)と笹口騒音(うみのてetc)だろう。音楽もそうだが、MCで笑いを誘ったり、弱さをさらけ出したり、人間的な隙があるところが好きだ。そんな彼らが二枚目の落ち着いた美メロや衝動的なギターを繰り出したりすると、ギャップで感動が押し寄せてくる。


だが、2枚目と2.5枚目の音楽は、お互いにお互いが僕のリスナーライフを補完する。キリッとしたい時には2枚目の音楽を聴くし、それに飽きたら2.5枚目の音楽を聴いてみる。様々な可能性の行き先に僕は興味がある。本作はだいぶ収録時間が長いが、リスナー冥利に尽きる素晴らしいアルバムだった。


人間性の二枚目と三枚目の話でいえば、常田さんはクールな感じでカッコいいけど、井口さんは人間味があって親しみやすい。でも、井口さんはカッコ悪くなりきれていないから(どんなお茶目もカッコいい)、三枚目というよりも二枚目だな。



「開会式」という曲で始まり、「閉会式」という曲で終わる前作『CEREMONY』のように、本作『THE GREATEST UNKNOWN』も「MIRROR」で始まり、それを反転させた「ЯOЯЯIM」で終わる。このシンメトリーの美学を始めとして、様々な美学がアルバム内に散りばめられている。


#2「CHAMELEON」を引き継ぐ#3「DARE?? 」や、#5「一途 」と#7「逆夢」の間を取り持つ#6「δ 」など、曲間をつなぐ小品も良く機能し、アルバムの世界観を確固なものにしている。こういうつなぎの曲があるから、ただの寄せ集めアルバムに聴こえないんだよな。#3「DARE?? 」の緻密なエレクトロニカ風味は、とても短い曲ながらサカナクションを思い起こした。好きな風味に嬉しくなる。


この音楽の強度は、生きようとする意欲の強度だ。収録曲#5「一途」のように生きることに対して一途なのだ。そして、ロックならではの全能感が僕らの五感をみなぎらせ、第六感を拡張していく。僕も一人のUNKNOWNとして、彼らの曲から力をもらっています。


Score 9.0/10.0

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遊道よーよーの運営する音楽ブログ『とかげ日記』です。
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