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ドレスコーズ『戀愛大全』(2022年)

●まるで恋のような音楽


ドレスコーズ(志磨遼平さん)の音楽に対して思うのは、とにかく音楽的だということ。曲ごとにキャラクターがはっきりしていて違う光景を見せてくれる。光景の多彩さと光景を音楽で再現する力にかけては、笹口騒音さん(うみのてetc)と並んで彼の右に出るものはいない。


また、自分のエゴを出すだけではなく、聴こえ方を計算している。音楽性で挑戦しているアルバム『ジャズ』や『三文オペラ』でさえ、キャッチーに聴こえる。


そして、アルバム一枚ごとに掲げるテーマがあり、この時代にアルバムという形でリリースする意義がある。


例えば、前述した『ジャズ』は滅びゆく人類をジプシーミュージックで描いたものだし、『三文オペラ』は志磨さんが実際に劇団に提供した曲を自分で歌うという趣旨のアルバムであり、まるで昭和歌謡版ザ・フー『トミー』みたい。


ドレスコーズになってからの作品で僕が一番好きなアルバムは、『1』だ。メンバーが抜けて一人となった感傷が音楽ににじみ出ている。ジャケットにも一人で映っている、この寂寥感。寂しさが影にあると、志磨さんの曲はますます活きる。


『1』で好きな曲を2曲挙げてみよう。ギターの淡い音色で水色を表現した収録曲「みずいろ」はスピッツの「水色の町」を彷彿とさせる佳曲だ。同じく収録曲「アニメみたいな」も良い。既聴感のあるメロディだが、ほれぼれするような強すぎるメロディのため、何度でも聴ける。


それでは、本作『戀愛大全』の全10曲の紹介と感想を以下に駆け足で書いていこう。


#1「ナイトクロールライダー」。明るくニューウェーブな意匠と深く夜に潜っていくかのようなボーカルのリバーブに胸がトキめく。最近では音楽を聴いてこんなにワクワクするのは稀なことだ。失われた音楽の魔法がここにはあり、歌に力がある。僕が待ち焦がれていた音楽はコレだよ!


#2「聖者」。ひんやりとした質感で熱意のこもったギターサウンド。最近のバンドでいうとヘルシンキラムダクラブみたいな感じかな?


#3「やりすぎた天使」。確かで安心なスネアのアタック音の上で天使が自由に飛ぶような爽快さがある。


#4「夏の調べ」におけるニューミュージック×シティ・ポップの曲調がかもす夏の純情の淡さ。


#5「ぼくのコリーダ」。完成して作り込まれた世界観。中盤の無軌道なギターソロさえ完成されている。コリーダへの愛は完全なのだ。


#6「エロイーズ」。情緒が深く掘り下げられていて、この曲の哀愁は僕の胸を静かに突いた。


#7「ラストナイト」。ささやくようなボーカルと柔らかいサウンドが夢心地にさせてくれる。その中で歌われる「Every thing is alright」という歌詞がリスナーをたおやかに癒し励ます。


#8「惡い男」。"惡"は旧字体だが、これはアルバムタイトルの"戀"にあわせたのだろうか。曲の冒頭で「すべて終われ」と歌われ、そんな"悪い"欲望を開放するようなフィーリングが奔放に表現されている。


#9「わすれてしまうよ」。イントロがKAN「愛は勝つ」っぽさがある。しかし、この曲では愛の敗北(別れ)が歌われている。黄昏感が切ない。


#10「横顔」。ピアノのエレガントな響きと共に、しっとりとしめやかに恋の絶望と希望がしたためられている。前曲といい、『戀愛大全』と銘打たれたこのアルバムは恋の敗北という絶望で終わるのだ。しかし、恋が成就するかもしれないという期待と可能性も引き連れているところに希望も感じる。


本作『戀愛大全』にはエロス(≒生への欲動)を感じる。タナトス(≒死への欲動)を蹴散らすぐらいのエロスだ。エロスをけん引する音の精度の清らかさは、大瀧詠一の『ロングバケーション』と引けを取らない。恋は始まりと終わりがあるからこそ、みずみずしく清らかなのだと感じさせてくれる澄んだ音だ。


志磨さんのボーカルはGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーと声質は近い。両者共にボーカルの音色や歌いぶりに強い実存を感じる。しかし、マヒトさんがハードコアなシリアスさを究めているのに対し、志磨さんのボーカルはユーモアにあふれ、それゆえの包容力がある。


志磨さんは石崎ひゅーいくらい歌に華と存在感と歌心があり、くるりのように個性的で様々な音楽性とメロディの曲を聴かせてくれる。アレグロの曲では即効性もあり、もはや無敵だ。彼のこれからの活動にも注目したい。


Score 8.4/10.0

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