婚約者の姉がむかつく
ノア視点
ユリアとの登下校。これが僕の一番好きな時間。だって、馬車の中で二人っきりになれるから。ユリアは人前ではイチャイチャし過ぎるのは嫌がるんだけど、二人っきりの時はどれだけイチャイチャしても嫌がったりしない。ハグもキスも受け止めてくれる。だから、ユリアとの登下校は好き。でも、ユリアをあの家に置いて帰るのは正直言って嫌だ。本当なら今すぐにでも家に連れて帰りたい。
「はい、ユリア、着いたよ」
「送ってくれてありがとう、ノア」
「…それは大丈夫、僕はただユリアと一緒に居たかっただけだし。ほら、僕の手に掴まって」
「ありがとう」
馬車から降りる時に手を貸す。紳士としては当然のことだよね。まあユリアにしかやらないけど。
「あのさ、ユリア。やっぱり、僕の家に泊まりに来なよ。あいつ、いるんでしょ?」
あいつ、というのは僕が毛嫌いするマリアナ・オルコットだ。ユリアの姉。他の奴らは見た目も性格も成績もとてもいいとか言うけど、僕からしたらユリアの方がよっぽど可愛いし性格がいい。それになにより、あいつのせいでユリアはいつも辛い思いをしてるんだ。許せない。あいつに悪気はないにしても、皆あいつとユリアを比較して、ユリアをバカにしたり邪険にしたり虐めたりするんだ。だから僕はあいつが大嫌いだ。まあ、一番嫌いなのはユリアを邪険にするユリアの両親だけど。
一応、あいつはずっとユリアの味方をしてくれていたらしいし、ユリアを守ってくれていたらしいのだけれど、ユリアがあいつと比べられて周りから可愛がられることがなかったのも事実なので、本当に気に入らない。…でも、それでもユリアはあいつを庇うんだ。
「何度も言うようだけど、お姉様は本当に何も悪くないのよ?それどころか私を守ってくれていたのだから、そんなに毛嫌いしないで?」
「…でも、ユリアはあいつのせいで辛い思いをしてきたのに」
「そんなことないわ、心優しいお姉様に何度も救われたのよ?」
「…まあ、ユリアがそういうなら」
ユリアは本当に優しい。なんなら僕があいつに、あいつらに制裁を加えてやりたいくらいなのに、ユリアはあんな奴らのことを許してしまう。僕は優しすぎるユリアがすごく心配だ。
「ごめんなさい、私を気遣ってくれたのよね、ありがとう」
そう言って、ユリアは優しく僕を抱きしめてくれる。僕も抱きしめ返す。…うん、僕がユリアを守るんだもの、大丈夫。
「じゃあ、私はこれで。また明日ね、ノア」
「うん、また明日迎えにくるよ、ユリア」
毎日、こうしてユリアと離れる時が一番苦しい。でも、あともう少し、学園さえ卒業して成人してしまえばそれでユリアと離れずに済むようになる。はやく結婚して、こんな家からユリアを守るんだ。がんばるぞー!
マリアナは善良な人なのだけどノアとは仲良く出来そうにない