アベル・オルティス
大好きだったお兄様
僕には兄がいた。優しくて、かっこよくて、勉強ができて、剣術や運動は苦手だったけど本当になんでも出来て、というか剣術や運動はやらないだけで多分才能は僕以上で…そして将来の公爵様。小さな頃から憧れだった。大好きだった。でも、憧れが嫉妬に変わるのも、敬愛が憎悪に変わるのも早かった。だって、いつもいつもいつもいつもいつも、兄に比べられた。辛かった。ちょっと努力すればすぐになんでもできる兄が妬ましかった。だから、努力した。兄の何倍も、何百倍も努力して、兄の得意分野の勉強も、苦手分野の運動も兄を超えてみせた。必死に両親に媚を売った。見た目にも気をつけた。これでも兄の弟だ。ちょっと見た目に気をつければすぐに色んな人からちやほやされた。いつの間にかあの兄よりも両親に期待されるようになった。この頃には兄を見下すようになった。試しに兄を虐めてみた。悪い噂を流してやったり、嫌味を言ったり、時には直接暴力を振るった。兄は次第に自信を失くしていった。大した抵抗もしてこなかった。僕は気分が良かった。あれだけ比べられた兄が今じゃ背中を丸めて小さくなっている。ざまあみろと思った。
転機が訪れたのは母上の開いたお茶会で、兄がいきなり愛らしいご令嬢に求婚した時。僕は最初兄は馬鹿なのかと思った。だって彼女はご両親から愛情を受けていない、姉から比べられてばかりのいじめられっ子。僕のように努力して姉を見返してやればいいのに、それもしてこなかった顔だけのご令嬢。あんな子と婚約したってなんの旨味もないのだ。そう。そのはずだった。
ところが、その日から兄は変わった。得意な勉強も、苦手な剣術や運動も頑張った。あの才能溢れる兄だ。結果はすぐに出た。結局家督を継ぐのは兄に決まった。それでも僕は諦められず、兄を虐めた。初めて反撃された。兄は強くなっていた。僕の力じゃ到底及ばない。すぐに立場は逆転した。
兄は特に僕に報復してこなかった。僕を見下すこともなかった。というか婚約者に夢中でそれ以外眼中になかった。みんなの評価も、二人とも優秀なご兄弟。昔みたいに比べられて僕が馬鹿にされることもなかった。それが余計にむかついた。なんだかわからないけど許せなかった。
…全部、あの女の子が悪い。あの女の子さえ現れなければ。そうすれば、きっとあのままだったのに。兄に超えられることもなく、僕が公爵になれたのに。…あれ?僕は公爵になりたかったんだっけ?…いや、そんな些細なことどうでもいい。あの女の子さえいなければ。あの女の子さえ兄から引き離せれば、また、あの頃のように兄は塞ぎ込むに違いないんだ。…なら、やる事は一つだ。捨て身の作戦だけど。やるなら今だ。やるしかない。…ああ、でも、本当に。僕は一体、何がこんなに許せないんだろう。
大っ嫌いな兄上




