2.2 うるささとタバコ臭さで
山道に飛び出した鹿のような目をしていたきとらをすばやくチャラ男から奪取し、
ゲーセンに連れ込んだ。
うるささとタバコ臭さで正気に戻されたのだろう、
きとらがいつものオドオド顔になり俺の背中にかくれた。
今どきはショッピングモールとかのゲーセンなら禁煙で音量おさえめなのだが、
一方こちらは魔窟だから配慮なんてない。
神経の細いヒョロガリは来るなという主義だ。
暗く狭いフロアに置けるだけ置いたみたいなゲーム筐体の光の列や、
そこでプライドをかけて戦う猛者たちの熱気を、
きとらは俺の陰からしげしげと見ていた。
どんな興味が湧くんだか。
そのあと彼女なりの大声で言うには、
「ねえっ、黒之瀬くん」
「?」
「黒之瀬くんが遊んでいるところ、見てみたいっ」
騒音で聞こえないふりをすりゃ良かったものを、
まあいいや肩慣らしでやっとくかと考えたのがミスだった。
格ゲーコーナーへと歩き、その手前で、
テカテカの青いジャケットを着たやつが両替しているのを見つけてしまった。
髪にワックスをつけ、
財布は黒いカードを覗かせ、
ジャケットと革靴はイタリア・ミラノの現地でご注文(ウン十万円)。
親に任されたマンション経営の儲けをゲーセンにぶっこむ二十六歳男性・藪下だ。
俺に気づくや大熱波のような笑顔になって言った。
「黒之瀬! ドバイ大会来いよ!」
「……前も言ったでしょ、もっとガチの奴と組みゃいいって」
「僕はいつでもガチれる。
でもお前には世界の雰囲気を感じてレベルアップしてほしい。
早く顔を売っとけばプロゲーマーとしてスポンサーもつきやすいぞ」
「あいにく俺は実家の八十八種類の料理のプロにならにゃいかんのです」
「鍛えていけばお前は世界とやりあえる。
絶対に保証する」
「そこまでゲーム好きちゃうし」
「家業はあとでも継げるだろう。
ゲーマーの旬は反射神経が落ちてからではキツいぞ?
なあ来いよ!
旅費は主催者持ちだぞ! 楽しいぞ!」
「めんどくせー人……」
直前まで、店の裏口を出たところの自販機でメロンソーダを飲んでいて、
今もどってきたのだという。俺のタイミングと運が悪すぎた。
藪下がいると知ってりゃこんなコーナー来ないで射撃ゲーとかで平和に過ごせたのに。
はーあ、なにがドバイじゃ。
俺は嫌いなんだよ飛行機が。




