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1.4 土俗超現代クロノス

「そ、そうだよね。なにか言わなきゃ……」


 弱々しく顔をあげた。

 土俗超現代クロノス《主宰》須田(すだ)きとら。

高校二年生ながらあらゆる芸術をよく知り、文芸・音楽・絵のすべてで作品を生み出す才媛。

乳がマジでかい。


 だが俺はきとらに儚さを感じざるをえない。


 能力があるのになぜ自信がないのか。

作品を匿名や他人名義で発表し、

日常生活でも存在感をわざと消していき、

なぜ自分をおもてに出したがらないのか。


 まだ本心には迫れておらず、

下手にさわればワイングラスのように割ってしまいそうだから、

外面の儚い美しさをながめることしか今はできない。


「……うん、杏奈(アンナ)さんと円城(えんじょう)さんだと審美の方法がちがうから、

やっぱりむずかしくなっちゃうよね。ゴンゴラとグラシアンみたいに」


 語りだすと空気が変わる。

きとらの知見の深さをメンバーは信頼しており、

特に円城は崇拝の域にあって目をキラキラさせる。

理解できない世界だ。


 依然うつむきながら言う。


「季節は変化するってことを、みんなわすれてるんじゃないかな。

どんな純粋経験も(よろず)(こと)()も、やがて季節がすぎれば、とりのこされてしまう。

その悲しさ・むなしさをわたしは『平行線の(ヴァニタス)』と呼んでいる」


 なんだって?


「どこかで自覚的になるんだよ。人も自然も見つめていれば、

心と時空が離れていくことに気づいてむなしくなるよ、いつか誰でも。

だからその考えで行くと、そうだね、

流転のなかでいちばん愛おしくなる季節は……

わたしは夏か冬だと思う」


 こいつテーマをひっくり返したぞ!?


 背中のふすまの向こうで来店のドアベルの音が増えても、

論理のくみたてに専心しているきとらには聞こえない。


「もう勘弁してっていう暑さ寒さは、その最中は永遠の苦しみみたいだけれど、

でも永遠じゃないってことをみんなは知ってる。

七夕の伝説や一面の雪景色はロマンティックだけれど、

苦しい季節の短い夢なのをみんなも知ってるはず。

 だから考えてみると、

時間が永遠に流れるなかで季節は一瞬、

そのなかの一時期も刹那、

その刹那のなかにも一瞬があって、

そこにわたしたちがいて……」


 なに言ってるか知らないが、

暗室でそだったような色白の頬が今は熱っぽくなっている。

飲みかけのバヤリースの瓶を真摯に見つめている。


「星空や雪について思えば思うほど、

まるで心は刻まれて土に撒かれてしまったみたいで、

体だけその場に残っていて風がスースーと肋骨(あばら)をぬけていって、

でもなにも感じず思わず、

死んだような気分になって……」


 ふたつ結びの黒髪を自分で二度なでたあと、

時間をかけて結語する。


「……それがいちばん美しいかもしれない。

人間の苦しみと自然の流転を思えば、

自分の体が今ここにあるってだけでも美しいんじゃないかって。

(さかずき)のひとつの破片みたいになれるのが幸せじゃないかって。

 ……ごめんね、全然まとまらなくて。

ほんとごめん」


 皆固まってシーンとなり、今日はこれで解散だろう。

杏奈は牛丼屋のバイト、円城は自主練がある。

土俗超現代クロノスのふつうの流れだ。


 ――次回、夏と冬の美しさで争うのはいつごろか? 


 季節推しバトルがそもそも何のためになるのか?


 それは彼女らだけが知る。俺には全くわかりません!

2話へ続く

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