1.3 杏奈も立ち上がる
二人もそこは踏まえてやっている……らしい。
たしかに奇襲で頭突きをしたり七味の瓶を投げたりは今までない。
杏奈も立ち上がる。
背がチビすけなぶん(?)ジェスチャーを大きくし、
壁に立てかけたギターケースにぶつけそうな勢い。
「お前の感じてる季節は頭でつくった季節だ!
直接に自然を味わう気がないだろ。
邪念を捨てて向きあえ。純粋な古代人のようになれ!」
「先輩は自然風景になにを求めます?
私はいやし、なぐさめ、救いがほしい。
季節を感じようと家や町を出るときどういう気持ちなのか考えてくださいよ。
――ほら、やっぱり心の問題でしょう?
救われたいんでしょう?」
「ちがう! 何もわかってない!」
「じゃあどうなんです?」
「なにもかも忘れて見入った長野県の春を、お前も一度見ればいい!!」
「先輩のほうこそっ、季節で揺れる私の心の、
緑から枯葉まで入り混じった秋の山のような複雑な色を想像してもらえません?」
円城も熱くなってきて俺の首筋に爪を立てる。痛いアホやめろ。
そろそろ時間が気になる。
都市大衆のお食事処《くろのせ》は十八時前に客が増えてきて、
そのへんで奥座敷を明け渡さなきゃいかん。
で、なぜここでタムロしているかというと俺の家だからだ。
この集まりは笑っていいのか悪いのか、
《土俗超現代クロノス》というロボアニメみたいな名前がついていて、
メンバーは四人。
はっきり決まった目的はなく、
おたがい情報を交換してそれぞれの「創作」に役立てあう寄合なのだろう、
と思う、たぶんなんとなく。
たまに三人が共作したりしなかったりする。
ともあれ俺には他人事であり、
会話を右から左へ流しつつ紙ナプキンに落書きしている。
俺はクリエイティブじゃないから創作とかやらない。
ひまつぶしに座敷の小物やら柱の木目やらを写すだけだ。
いろいろあって場所を貸すに至り、
他にやりたいことがなくてここに座っている。
そりゃ男としてこのうち誰かと☆☆☆的な妄想はするけども、
彼女らのややこしさをだいぶ知っているものだから、
そりゃ実際はちょっと遠慮したいなという結論になる。
一度も浮いた話はない。
さて、春秋バトルがゆきづまり、
二人とも座布団にもどって無言。
こういうときは「御判断」をもとめる流れだ。
俺の隣の夏制服の少女が残っている。
背中をまるめて暗く物思いしつつ、
爆乳をテーブル上で休めていたが、
俺たちの目に気づいてハッとなり、
「そ、そうだよね。なにか言わなきゃ……」
弱々しく顔をあげた。