3.7 「ヨーロッパのルネサンス【3話最終段】
昨日と去年と千年前にたいした差があるか?
おなじ過去じゃないか。
「ヨーロッパのルネサンスだって、
ある意味紀元前時代の焼き直しなのに、
それを擬古・逆行だと笑うやつはいない。
あたしはその理由がわかる。
なぜだと思う黒之瀬?」
「わかりません!」
「即答!? まあいい。
時代をふりかえる下地がそれまでに出来てたんだ。
要は『歴史の必然』!
特定の過去をふりかえりたくなる流れがそのときにあったんだ。
日本の戦前の国粋主義だって、最後は破滅だけど、
それに向かっていく大きく止められない流れが生んだ結果だろ?」
「あー……はい」
「そして今、あたしも流れを感じてる。
古代に学べって流れを。
もう論理とかじゃなくて直感や霊感だ。
この国の風土がそうしろと言ってる。
産土神だよ、産土神。
大事だぞ神は」
テントの出口を開け、月光をとりこみながら宣言した。
「人の魂は、縄にしばられても強制できない『やむにやまれぬ』『まもり敢えぬ』ものだと、あたしは思う。
のびのびと、体がおもむくところに、心も置く。
場所に心身を溶かし込んで、そこがあるべきところだと信じる。
一人のおのずからの動きを極力ゆるすのが日本の古来永遠のありかただと、
打算と理屈で行き先をしばっちゃいけないと、
そうやって昔も生きてきてこれからも生きなきゃと、
あたしはすごく思うんだ」
「…………」
次からは、もうちょい整然と話してください。
杏奈の熱意を、俺はどう解釈すればいいのだろう。
ピュアな理想を持っているのか、
それとも歪んだ歴史認識に染まっているのか。
杏奈の行く道は正しいのか……
(たぶん、そのへんの判断を人にゆだねるのが俺の役目なのだ。
土俗超現代クロノスのありかたを紹介することで、
良くも悪くも少女たちに評価点がついて、
あわよくば未来を広げられるかもしれない。
おせっかいかもしれないが、
俺は今後も三人を世に引きずり出す)
あとは簡潔に書こう。
急に異性を感じなくなり、俺は快眠できた、
そして日の出とともに目覚め、
杏奈が湖上の朝日をながめてジャカジャカと演奏・録音し、
これで用は済んだ。
テントを撤収、さらば琵琶湖!
電車のロングシートで、杏奈は疲れたのか、よだれを垂らしながら寝た。
俺は旅の出来事を要約してきとらに送信した。
箱入り娘は『春の嵐』が仲間にも読まれていたと知って嬉しそうだった。
ガラガラの電車。
車窓の琵琶湖は日本晴れ。
寄りかかってくる寝息。
とてもゆっくり時間が流れた。
その後、おみやげに鮒鮨を買って地元にもどり、
誰も食べられず押しつけあったという話は、
機会があれば、そのときに……。
別作品の準備のため、本作の更新を停止します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




