3.2 あやしく愛を語る
「女だけふたり! We are together!
あ、シャンプー変えました?」
あやしく愛を語る円城。
「今日は付きっきりで高貴な心を教えてくださいね。
和泉式部の恋路のゆくえが知りたいです。
昔の春画に女どうしがあったかどうかもです。
ああ、ほんとにきれいな髪ですね……
むふふふふふ」
美少女成分を堪能するなら、
お前の家でやってくれ。
しかも腕をからませて首を締めていたから、
きとらは円城に抱かれながら「うっ、うげげっ」とうめき苦しんで、
やがて真っ白に燃えつきてしまった。
たのむから店で悲劇を起こすな。
円城が女の子しゅきしゅきなのは見ての通りだが、
ところで杏奈はどうだろう。
考えてみると、
いま円城に対しよそよそしく背を向けている杏奈は、
知り合った当初から男っ気ゼロだった。
彼氏がいるかと聞けば「いない」と一蹴され、
店のテレビにどんな種類のイケメン俳優が映ろうが一瞥もしなかった。
俺がうっかり下ネタを言ったときも、
きとらは真っ赤になり円城は食いついてきたが、
イギリス娘は「ふーん」で済まし、一ミリも態度を変えなかった。
反面、女性関係は隙がありそうに見える。
円城にボディタッチをされれば慌てるし、
百合系のイラストの試作を見てほしいと言われれば無駄にツンツンして拒む。
前はきとらのスイカのような乳をぼーっと眺めていたことがあって、
あとで俺が指摘したらめっちゃ逆ギレされた。
よって、俺の推測では、
杏奈はムッツリの女好きだ。
土俗超現代クロノスのメンバーとしてはむしろ正解だと思う。
きとらと円城を食いちらかして交友をぶっこわすとかじゃなきゃ、
俺は問題にしない。
これまでの付き合いから言っても、
そんな暴走をする先輩ではないはずだ。
秘めた欲求はこれからも音楽にぶつけていただきたい。
そんなムッツリツンツン(?)の杏奈が、
この冬のツーリングに選んだのは、
「琵琶湖だ。今から琵琶湖まで走るぞ」
「はあ?」
やたら具体的な地名が出てきておどろいたかもしれないが、
俺も別の意味でたまげていた。
日本最大の湖沼・琵琶湖のある滋賀県といえば、冬は雪が降る。
隣県の岐阜羽島から米原にかけて豪雪で新幹線が止まったという話を、
毎年聞く気がする。
ってか先週もニュースになってた。
で、バイクの天敵は路面状態だ。
ふつうの雨でもスリップしかねない。
ましてや冬は、除雪されてたり降ってなかったりしても路面凍結がありえる。
気温が下がる時間帯は特に危ない。
免許のない俺でもわかることだ。
雪国へ、
寒い夜に、
バイク二人乗り?
心中したいの?
死に物狂いで説得して、
滋賀へは電車で行くことになった。




