90 怒ると笑顔
健斗さん若干おこ
「俺、来週の修学旅行で狗飼さんに告白するんだ」
そんな死亡フラグに聞こえる台詞を言う吉崎に俺は首を傾げて聞いた。
「狗飼さんて、学年で一番可愛いって噂の?」
「そう!修学旅行っていうのは有意義に使わないとな」
「それはいいけど、狗飼さんて確か今雅人の彼女じゃなかったっけ?」
確認のために雅人を見ると思い出したように頷いた。
「ん?まあそうな」
「マジかよ!うぉおおお!くそ!また雅人かよ!そんなに皆イケメンがいいのか!?」
「いやいや、吉崎にはその台詞を言う権利はないよ。というか、吉崎確か三股してるんじゃなかったっけ?」
「違う!四股だ!」
「クズでごさるな」
「女の敵だな」
「なんか、俺に冷たくない!?」
そんなやり取りを見ながら俺は帰る準備を済ませると、吉崎は復活したのか、不敵に笑って言った。
「なら、俺は今学生の身分を越えてみせる!」
「社会人とは既に付き合ってるだろ?」
「ふふ、そんな次元の話ではない!俺は修学旅行で黒羽を堕とす!」
ガツン!俺は思わず机に頭をぶつけていた。
「ん?大丈夫か健斗」
「・・・ああ。問題ない」
「そ、そうか・・・ならいいが」
くすくすと隣で笑う雅人の気配が。斉藤は少しだけ心配そうな視線を向けていたので俺はそれに手を降ってから吉崎の肩に手を置くと笑顔で言った。
「吉崎、中途半端な気持ちで教師に手を出すもんじゃないぞ」
「へ?」
「先生がお前のような子供を相手にはしないだろうけど、こちらから誘うような行動は慎むべきだ」
「な、なんだよらしくないな。そんなマジになって」
「いいから。俺は真面目に仕事をする人間を陥れるような行為は大嫌いなんだ」
むろん本心だが、嫉妬心が強いことは否定はしない。先生のことを信じてはいても、こういうふざけた気持ちで先生に近づいてくるのは決して許せない。まだまだ自分が子供だということを思い知らされるが、仕方ないとも思う。俺の言葉に吉崎は少しだけ怯えたように頷いたのを見てから手を離すと斉藤が苦笑しながら言った。
「けんちゃんは、やっぱり怒ると怖いでござるね」
「や、やっぱり怒ったのか?なんか健斗の笑顔の裏に般若が見えたが・・・」
「自業自得だ。無意識に健斗のスイッチ入れたお前が悪い」
「そ、そうなのか・・・高校生になってから初めて土下座したいと思った。こんな気持ちになるのは中学の頃にヤバい先輩の彼女に手を出した時以来だ」
「昔から馬鹿なのな」
そんな風に笑って流すが、これで多分吉崎が先生にアタックすることはないだろう。あまりライバルが増えても困るというのもあるが、修学旅行で先生の手を煩わせるのも嫌なのでこれでいいはずだ。