9 合鍵と見送り
沢山のコメントありがとうございます(^^)皆さんの応援に励まされております・・・読んでいる皆さんがほのぼのとして癒されるような作品にしたいと思いますので何卒よろしくお願いしますm(__)m
「じゃあ、明日の朝また来ますから」
そう言ってから俺は自転車に跨がる。結局、夕飯が終わってから千鶴ちゃんが寝るまで出来ることをして過ごしたのだが、その一日の充実感を持って心地よい夜風に当たりながら闇夜を突き進もうとするが・・・その前に俺は先生に肩をつかまれてストップする。
「待った。朝も来てくれるのか?」
「ええ。二人の朝食と先生のお弁当も必要ですし・・・何か問題でも?」
「問題はないが・・・はぁ、仕方ない。少し待て」
ため息をついてから先生は一度家に戻ると何かを持って戻ってきた。こちらに向けて出されたのはどう見ても鍵のようで俺は思わず聞いてしまう。
「それは・・・先生の部屋の鍵ですか?」
「そいつはもう少し先だな」
「では千鶴ちゃん?」
「暴力を誘発する発言は控えろ。私は温厚だが娘を性的な目で見れば黙ってないからな」
新手のヤンデレだろうか?私以外の女の子と寝ないで!なんて脳内妄想しつつも俺はそれを受け取ってから聞いた。
「それで・・・家の合鍵を貰えるのはありがたいですがそんなに俺に気を許していいんですか?」
「ま、悪用するほどの度胸はないだろう。今日のちーちゃんへの態度を見てある程度信じてもいいと思ったんだよ」
「嬉しいですが・・・それは先生が千鶴ちゃんの父親として俺を認めて貰えたってことだけですか?」
「何が言いたい?」
怪訝な表情の先生に俺は直球で聞いてみた。
「先生の白馬の王子様役にはどうかと思いまして」
「この歳で白馬の王子様とは思わなかったな・・・私は少女と呼べる年はとうに過ぎてるぞ?」
「女はいくつになっても女ですよ」
「どこかのCMで同じ台詞を聞いたような気がするが・・・ま、乙女チックなお前にはお似合いかもしれないな」
先生の中では完全に俺は乙女キャラが定着しているようだ。あなたが男前過ぎると言うのは簡単だけど、後が怖いので俺はそこには触れずに言及する。
「それで?先生の王子様に俺はなれますか?」
「及第点だな。だいたいお前は王子という器ではないだろ?どちらかと言えばプリンセスだな」
「ではヒーローは先生ですか?」
そう聞くと先生は笑いながら答えた。
「なら、お前は私が一生守ってやるさ」
不意打ち気味の台詞。こちらが口説いていたと思ったらあちらからの攻撃に俺は一瞬トキメキの感情が顔に出そうになるが・・・なんとか我慢して目線を反らして言った。
「・・・先生は卑怯ですね」
「はは、バカだな健斗は。恋愛に卑怯も糞もない。想いを伝えた者勝ちなんだよ」
「それで玉砕したらどうするつもりですか?」
「そん時はそん時だ。ま、少なくとも私は今の恋は勝ちが確定だと思ってるぞ?」
ニヤリと笑いながらそう言う先生。こちらの心を見透かしたような先生に俺はため息をついてから言った。
「帰る前にキスの一つでも欲しいところですが・・・ファーストキスはもう少しムードを良くしてからにします」
「ほう?なら私はお前の初めてを予約してるわけだ」
「先生、卑猥な言い方やめてください」
色んな意味で事実だけど人聞きが悪いのでそう言うと先生は笑いながらこちらに近づいてきてーーーそのまま、頬に唇を一瞬だけ押し付けてきた。つまり頬にキスされたのだ。
呆然としている俺に先生は背中を向けてから手を振って言った。
「おやすみ健斗。早く帰れよー」
バタン。と、ドアが閉まってからしばらく俺はフリーズしていたが・・・頬に残った僅かな温もりを感じながら思わず苦笑してしまった。
「ほんと・・・かなわないよなぁ・・・」
自転車に跨がってペダルを踏む。夜風が心地よく感じながら、俺は思わず出る笑顔を隠すことなく家へと帰るのだった。