76 ようこそ中条家へ
親友ファミリー
雅人の家は俺の家からそこまで遠くない場所にある。とはいえ雅人が彼女を作りはじめてからは行く機会もかなり減ったので久しぶりに感じる。イケメンというのは金持ちというオプションがあるほどにそこそこ大きな家を見ながら俺は言った。
「相変わらず親父さんのお仕事順調そうだね」
「ま、うちの親父はそれくらいしか取り柄ないからな」
「雅人は卒業したら親父さんの会社に入るの?」
そう聞くと雅人は笑って言った。
「さてね、大学で楽しんでから考えるさ」
「そっか、雅人らしいね」
そんなことを言いながら玄関をあけると、広い玄関で久しぶりに見るえらく若い女性に視線がいく。俺はその人を見てから頭を下げて言った。
「お久しぶりです、巡李さん」
「あら、健斗くん。いらっしゃい。大きくなったわね」
その人は俺達と同じくらいの容姿だが、正真正銘雅人の母親の中条巡李さんだ。昔からよくしてもらっている人なので親戚のおばさんみたいな間柄のその人は俺に近づいてくると微笑んで言った。
「元気そうでよかったわ。もう、雅人ったら久しぶりに健斗くんに会いたいって言ってもいつも無視するからお母さん悲しいわ~」
「仕方ないだろ、こっちも事情があるんだから」
「すぐ代わる彼女よりも一生の友を大切になさいよ、もう。そういえば、健斗くん聞いたわよ」
親子で微笑ましいやり取りをしてから俺を見て爛々とした瞳で巡李さんは言った。
「聞いたわよー、なんでも黒羽先生と結婚するんでしょ?日取りはいつなの?」
「いえ、まだ卒業してからとしか決めてないですが・・・」
「あら、ダメよ?早く準備しないと。結婚式はやること満載なんだから」
「それ以前に先生が結婚式をやる気があるのかわからないので・・・」
なんとなく式はいらないとさえ言いそうな気配があるのでなんとも言えない。それ以前にこの関係を最後まで保つことがなにより大切だからそこまで気を回せるか悩みどころだ。
「まあ、お忙しい方だしね~。あ、そういえば、黒羽先生、娘がいるんでしょ?可愛いの?」
「ええ、とっても可愛いですよ」
「そう、その様子だと娘さんとは良好な関係を築けてそうね」
「今はお兄ちゃんって呼ばれてます。そのうちお父さんと呼んで欲しいですけど・・・」
そう言うと巡李さんは微笑みながら雅人を見て言った。
「ねえ、雅人。唐突だけど新しい兄妹欲しくない?」
「さらりと、とんでもない爆弾投げるなババア」
「だってー、子供愛でたいんだもん」
「もんじゃ、ねえーよ。可愛くないから」
仲のいい親子に少しだけ羨ましくなっていると雅人がこちらを見てからいやらしい笑みを浮かべて言った。
「なんなら、一度黒羽の娘と会わせて貰えばいいんじゃねぇか」
「あら、名案ね。それならお父さんと夜頑張るまで耐えられるわね」
「いや、そっちは頑張らなくていいから」
何やらとんでもない爆弾を投げてきた雅人。その瞳は『逃がさん』と言わんばかりの道連れ精神に溢れた瞳だった。そんな感じで始まった展開はまだ序の口。本番はこれからだということにこのときの俺は気づかなかったのだった。