74 鶴と関係
器用なちーちゃん
「なるほど、それでこんなに鶴があるわけか」
夕飯を作っていると、先生が納得したように机の上の折り鶴を眺めていた。俺はそのまま作業をしながら頷いて言った。
「ええ、一回見せたら千鶴ちゃんあっさりとマスターしました」
「まあ、ちーちゃん器用だからな」
「ええ、母親に似たんでしょうか。遥香さんも手先器用ですよね?」
「私は普通だよ、折り紙なんて手裏剣をよく作ってたくらいさ」
手裏剣なんて作れないんだけど・・・やっぱり先生も器用なようだ。
「そういえば、今朝より肩の力が抜けてるようだが何かあったのか?」
「そう見えますか?千鶴ちゃんにも似たようなこと言われました」
「まあ、ちーちゃんは鋭いからな。それで?」
そう聞かれたので俺は特に隠さずに話した。とはいえ、友達と馬鹿やったことだけど、それを話すと先生は笑って言った。
「そうか、中条と斉藤か。あの二人なりに気を使ったんだな」
「ええ、あんなんでも一応友達ですから」
「そうか・・・だが、あまりあの二人に私達のことは話さない方がいい、親友だろうとどこから話がもれるかわからないからな」
それに対して俺は頷く。信用はしていても情報というのは流れてしまうものだからだ。とはいえ、知り合いにも理解者がいて欲しいというのは本音なので、あの二人だけにしておく。
あの二人は幸い昔から口が固いし、雅人もそれがわかってるから斉藤には話したのだろうし、そこだけは信じてもいいだろう。まあ、妹の薫ちゃんと、母親の巡李さんもよく知ってはいるが、家族以外に話すことはないと思うので多分大丈夫だ。なによりあと一年だけ隠せればいいのだ。卒業さえすれば何の問題もなくなる。
「ま、いつもの様子を見てれば問題はなさそうだがな」
「ええ、学校ではあくまで一人の生徒ですから」
「ほう、では家ではどうなんだ?」
「それは・・・なんでしょうね」
恋人と言うのだろうか?だったら千鶴ちゃんとの関係がわからなくなる。恋人の子供は他人なのだろうか?いや、そんなことはない。どんな形であれ、千鶴ちゃんとはもう家族だ。だからそう、あえて言うなら・・・
「やっぱり、主夫と恋人と父親候補ですかね」
すべてに候補がつくが、それが最も妥当な気がした。そんな俺の言葉に先生は微笑んで言った。
「そうか、ちなみに私はお前との関係はもっと深いものだと思ってるさ。言葉にはしないがな」
「なんですか、それ。教えてくださいよー」
「ナイショだ」
そんな風にもくもくと折り紙をする千鶴ちゃんの側で軽くイチャついていたのだが・・・不思議とこういう時間が一番楽しいと感じるのだった。