640 やっぱり一番は
一番
「じゃあ、またな」
「お邪魔しました、巽くん、先生」
夕飯も食べ終わったので、あまり遅くならないうちに2人を見送ることにした。
「帰り道気をつけてね」
「雅人くんがいるから、大丈夫だよ」
「いや、その雅人が水瀬さんが可愛くて襲わないかと思ってさ」
その言葉にチラッと雅人に視線を向ける水瀬さん。若干期待してるように見えたのは気の所為だろうか?
「少なくとも、ムードがなければそんなことしないがな」
「それもそうか」
変なところでヘタレだから、俺としてはもう少し肉食でも良さそうだが、まあ、そこはカップルの問題なのであまり口出しするべきではないだろう。
「水瀬、気をつけてな」
「はい、ありがとうございます、先生」
「いや、こっちこそ、夕飯美味かったよ」
楽しげに話す遥香と水瀬さん。本当に雅人はいい彼女を持ったものだ。遥香のストレス発散にも付き合ってくれるし、男の俺だけでは難しい部分も助けてくれて助かる。それに比べたら、料理や家事を教えたり、雅人との関係を後押しする程度なんてことないな。
「雅人、お疲れ様」
「お前もな」
「飛んだり跳ねたり、炎天下の中外で待ったり大変だったもんね」
「今夜は良く眠れそうだよ」
「あれ?水瀬さんと寝ないの?」
「あのな、まだ同棲してないから気軽に出来ないんだよ」
「する予定はあるんだね」
「当たり前だ。その時は引っ越し手伝えよな?」
「はいはい」
そうは言っても、そんなにすぐって訳でないだろうと、俺はこの時思っていた。それが間違いだと分かるのは結構すぐの事なのだが。
「水瀬さん、夕飯作ってくれてありがとうね」
「ううん、私も巽くんに教えて貰った成果が出てきて凄く嬉しいから。それに、先生も千鶴ちゃんも一緒にいて凄く楽しいしね」
「雅人さんや、随分といい彼女を持ったものやね」
「まあな。自慢の彼女だからな」
「うぅ・・・恥ずかしいって・・・」
そう言いながら雅人の服の袖を引く姿は様になっていた。そんな2人を見送って中に入ると、遥香が早速抱きついてきた。
「そんなに我慢してました?」
「当たり前だ・・・許可しておいてなんだが、やっぱりお前が居ないと寂しくてな」
「それは俺もですよ。ずっと2人のこと気になってましたから」
「・・・明日は、ちーちゃんの好きなハンバーグ作ってやれよ」
「ええ、勿論です。遥香は何か希望ありますか?」
「お前の飯なら何でもいいさ」
うん、友達とのお出掛けもいいが、やっぱり家族団欒が一番だね。そんな感じで初めてのライブは終わるのだった。




