7 手作りの夕飯
不器用な優しさ(^^)
「わぁ・・・」
ぱぁと顔を輝かせる千鶴ちゃん。だが、俺の存在を思い出してかびくっ!としてから顔を背ける。千鶴ちゃんが顔を輝かせた理由は俺が作った夕飯に対してだろうと恥ずかしながら思う。
いや、自分の料理で喜んでいると客観的に見なくてもわかるんだけど、なんか自画自賛みたいで恥ずかしいんだよね。
本日のメニューは肉じゃがに卵焼き、ご飯、味噌汁とわりと王道メニューで攻めてみた。先生と千鶴ちゃんの好みがわからないのであまり奇抜なものを出しても反応を確認できない、というのが理由ではあるが・・・
「肉じゃがとか・・・お前本当に乙女チックだよな」
「何が言いたいんです?」
「『初めての手料理なら肉じゃが』みたいな発想なんだろ?まあ普通は逆だが・・・お前らしくはあるな」
褒められてる気はまったくしないが・・・間違ってないので否定もできない。女の子の手作りの肉じゃがに何かしらの意味を求めてしまう思春期特有の淡い気持ちがなかったかと言えばそうではないのだが・・・先生は本当に俺の心を読んだように発言するので侮れない。
料理を見ながら感嘆の息を漏らした先生は、しかしそこで違和感に気づいたのかこちらを見て言った。
「どう見ても二人分しかないが・・・お前の夕飯は?」
「お気になさらず。帰ってから食べますので」
本音を言えば一緒に食べたいところだが・・・千鶴ちゃんが俺を怖がっている中での食事は流石に早いだろうと思っての選択だ。本当なら千鶴ちゃんと仲良くなるためにもっと積極的に攻めるべきなのだろうけど・・・千鶴ちゃんの大人を怖がる気持ちにはおそらく何かしらの大きな要因があるのだろう。それを知ってから彼女に負担をかけないように仲良くなる方法を模索するのが最良だろうと判断したのだ。
まあ、これはあくまで建前。本音はこんなに俺を怖がっている千鶴ちゃんにこれ以上負担をかけたくないという思いが強いのだ。
そんな俺の気持ちを読んだように先生は難しい顔をして言った。
「本来、私が言うべき台詞ではないが・・・問題を先送りにしたところでこの件は解決するわけではないと思うぞ?」
「先送りにしたくはないのですが・・・俺としてもあまり早くに攻略してバッドエンドフラグが立つのだけは勘弁なので」
「オタク会話禁止」
そうなると俺の語彙はかなり少なくなるのだが・・・などと思っていると、俺は袖をひっぱられた。見ればそこには震えながらもなんとか笑顔を浮かべている千鶴ちゃんがいた。
「だいじょうぶ・・・ちーはだいじょうぶだよ・・・?」
「千鶴ちゃん・・・」
この場合どうするべきなのか非常に悩む。彼女の気持ちを考えればこのまま意思を貫き通すべきなのだろうけど、しかし怖がりながらも彼女が見せた優しさに甘えるべきなのか。
しばらく俺は迷ってから・・・視界の外で先生が笑っているのを感じながら怯える千鶴ちゃんに目線をあわせてから優しく笑いながら言った。
「ありがとう千鶴ちゃん。一緒に食べてもいいかな?」
「・・・う、うん」
もう一度感謝の意味をこめて頭を撫でる。すると最初は俺の手に驚いた様子を見せた千鶴だったが、撫でているうちに少しだけ肩の力が抜けるのがわかった。
こんな小さな女の子に背中を押してもらったことに少なからずため息をつきたくなる気分を払ってから俺は先生を見て言った。
「先に食べててもらってもいいんですが・・・」
「愚問だな。『食事は皆で仲良く』保育園児でも知ってることだぞ?」
「ですか」
俺は急いで自分の鞄から必要なものを取り出して盛り付けることにした。しかし・・・この親子は本当に強いなと今日改めて思ったのは内緒だ。