61 報酬を得るために
努力の男、健斗さん
「おいおい、なんだかやけにやる気だな」
昼休み、弁当を食べながら必死に勉強する俺に雅人はそう言った。ゴールデンウィークもあけて今日から学校。五月病というものなのかクラスがたるんだ雰囲気の中で、俺だけやる気が目立つことを気にしたように言ってくる親友に目を向けずに答えた。
「テストはなんとしても高得点を取らなきゃね」
「確かにテストが近いがそんなに必死なのはやっぱりご褒美があるからか?」
「まあね」
そう言うと雅人は苦笑しながら言った。
「黒羽とのキスくらいでそこまで必死になれるのが凄いと思うよ」
「ああ、キスはもうしたんだ」
その言葉にフリーズしてから雅人は俺の肩に手をおいて言った。
「なるほど・・・童貞卒業おめでとう」
「そこまでやってない」
「ん?じゃあ、キスだけか?」
「うん。まあね」
「回数は?」
「二回」
そう言うとしばらくしーんとしてから雅人は笑って言った。
「そうか、しかし約束の前にキスをしたというのは何かあったのか?」
「少しね」
「お前の親父さんと黒羽が挨拶をしたという話と関係あるのか?」
相変わらず鋭い親友に俺は簡単にあったことを説明する。まあもちろん先生の過去などは一切語らずに話すと雅人はどこか呆れたような表情で言った。
「つまり、お前らがラブラブになったという認識でオーケー?」
「肯定したいけど、なんとも言えない」
果たして俺と先生の関係をラブラブと言うのだろうか?俺から先生への愛情は確かなものだけど、先生からの愛情は時々しか見えないのでなんとも言えない。もちろん先生を信じてはいるが、それでもやっぱり不安になってしまうのは面倒な男の典型なのだろう。
「ラブラブだろ?あーあ、たく。俺もそういう恋愛したいぜ」
「モテるから恋愛経験豊富でしょ?」
「そんなの意味ないって。恋愛経験豊富というがな、それは悪く言えばソリが合わない回数の多い厄介な物件とも言えるからな」
「そんなマイナス思考な・・・」
「現に俺はこうして何人もの女と出会いと別れを繰り返してる」
イケメンにはイケメンなりの苦労があるのだろうが、それを理解してあげることは出来ないので放置。まあ、本当に困ったら親友は相談してくるだろうと思ってるから特に気にしない。
「それで?報酬がキスから何に変わったんだ?」
「『なんでもしてくれる券』ってところかな」
「それは確かに大きな獲物だが、そこまで必死になるほどか?」
「まあね。どうしてもお願いしたいことがあるから」
「エロいことか?」
「違う。あと、勝手に弁当箱から盗むな」
そんな感じで親友と過ごしつつ勉強に励む学生です。