59 帰り道
ゆったり帰る
「しかし・・・よく寝てるな」
「しー、千鶴ちゃん寝てるんですから」
遥香さんの家に帰る前に寝てしまった千鶴ちゃんをおんぶしていると先生が背中の千鶴ちゃんにちょっかいを出そうとする。可愛いのはわかるが起こすのは可哀想なのでそう言うと先生は少しだけ頬を膨らましてから言った。
「ちーちゃんばっかりずるい」
「おんぶのことですか?流石に遥香さんをおんぶするのは俺の理性が持つかわからないので勘弁してください」
「理性?」
主に母性的な部分が背中にあたるとよからぬことを思ってしまいそうなので、そう言うと先生はしばらくしてから納得したように頷いた。
「ムラムラするのか?」
「好きな人からのアプローチに何の反応もしないほど落ちてはいません」
「そっかー・・・好きなんだなぁ」
「あの、もしかして遥香さん酔ってますか?」
さっきから感じてた疑問を口にする。歩き方や表情はいつも通りだけど要所要所がなんだか酔ってる気配があるのでそう聞くと笑いながら言った。
「かもなー・・・流石に飲み過ぎたかも」
「父さんが潰れなければそのまま朝までいってそうでしたもんね」
父さんが思った以上に飲んでたようで結構早めに寝たのでそのままお開きにしたが、父さんのハイペースに付き合ってた先生にもそのツケが回ってきたようだ。
「でも意外です。遥香さんもう少しお酒に強いかと思ってました」
「あんまり人とは飲まないからなぁ・・・素の部分が出るから」
「父さんとのお酒楽しかったですか?」
「ああ。でも、やっぱりお前との晩酌が一番安心する」
そう笑顔で言われると照れるが・・・
「無理して父さんに付き合わなくてもいいんですよ?」
「お義父さんには少しでも認めてもらっておかなきゃならないからな。それに無理はしてない」
「そうなんですか?」
「お前の家族は本当に変わってるよな。オカマの父親にブラコンを拗らせたような弟。まあその背景を知ったからこそ余計に無理とは思わないな」
なんだかそう言われるとかなりカオスな家庭環境に思えるが、俺としてはどんな形であれ家族が無事ならそれでいいかと思う。そんな俺に構わずに先生は続けた。
「健斗・・・私はな。あの二人をこれまで守ってきたお前を今度は私が守りたいんだ」
「それは・・・俺の台詞ですよ」
正確には遥香さんだけではない。千鶴ちゃんも娘として守りたい気持ちはある。でも、それと同じくらいに・・・
「俺は、遥香さんのことを守りたいんです。遥香さんが抱えるものを知ったからこそ側にいたいんです」
「お前は変わってるよな」
そう笑う先生の表情はお酒のせいで赤かったがとても無邪気で嬉しそうに見えた。