53 観覧車
最後は観覧車
「あれ?」
観覧車で風景を眺めていると、何やら隣にかかる体重が増えた気がして見れば千鶴ちゃんが寝息をたてて寝ていた。
「千鶴ちゃん寝ちゃいましたね」
「疲れたんだろう。観覧車から降りたらホテルに直行だな」
「ですね」
その言葉にしばらくその場の会話がなくなる。やがてその静寂を破るように先生は聞いてきた。
「楽しかったか?」
「ええ、とても」
「ならよかった」
「遥香さんはどうなんですか?」
「私か?そうだな・・・これまでのどの外出よりも一番楽しかった。多分、和也とのデートよりもな」
和也という言葉に俺は少しだけ胸を締め付けられるような思いになる。自分でもわかってる幼い嫉妬。そんな嫉妬を見抜いたのか先生は言った。
「確かに私には昔和也を好きだったという気持ちがある。だけど・・・多分今の想いほど強くはなかったのだろうな」
「そんなことないと思いますが・・・」
「いや、弱いさ。一人の想いだけでは足りない。お前とちーちゃん、そして私。三人の想いがあってこそ成立する。そして、私とお前の子供もそのうちその輪に入るだろう」
俺と先生の子供。そう言われて俺は思わず先生を見た。
「それって・・・」
「なに、将来の話さ。お前が来年卒業したら私とお前は教師と生徒という立場から解放される。そうなればお前は私と結婚できるだろう?」
「さらっと言いますね」
「まあ、簡単な話だったんだよ。それと、お前にお願いがあるんだ」
「なんです?」
「お前の名字を私とちーちゃんにくれ」
その言葉に思わず目を丸くしてしまうが、先生は真剣な表情で言った。
「もちろん卒業して私と結婚する意志があればだ。ま、拒否権はないがな」
「でも、いいんですか?俺が黒羽の姓を受けてもいいんですよ?」
「いいんだよ。私はお前と家族になりたいんだ」
嬉しいその言葉に俺は笑いながら言った。
「なら、遥香さんは巽遥香になりますね」
「ちーちゃんは巽千鶴だ」
なんとなくだが二人が俺と同じ姓というのは家族に近づいた気がして嬉しくなる。こんな些細なことでも嬉しくなる自分のチョロさを笑いたくなるが仕方ないだろう。
「ただし、来年結婚するまではプラトニックな関係は変わらないぞ?覚悟はあるか?」
「元からそのつもりです。第一俺は先生と心を通わせてからそういう行為をしたいので全く問題はありません」
「乙女だなぁー」
「それは違います」
そんなやり取りをして夕陽の中観覧車からの景色を楽しむのだった。なお、千鶴ちゃんはこの後俺がおんぶしてホテルまで連れて入ったのは言うまでもないだろう。