50 家族旅行
またまたお出かけ
「おい健斗。せっかくのお出掛けになんで顔を覆ってるんだ?」
「すみません。しばらく放置でお願いします・・・」
翌日、仕事が休みの先生が車を出して俺達は出掛けていた。のだが隣に座る俺は先生の言うように顔を覆って恥ずかしさに身悶えていた。
(やってしまった・・・先生の前で子供みたいに泣いてしまった)
昨夜、俺の心のスキマを先生に話して泣いてから恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。だって高校生の男が好きな女の人の前で童心に返ったように泣いてしまったらそうなるだろう。いや、先生の過去を聞いたあとでは俺の過去なんて些細なことだけとわかってるけど、その理解がなお俺の恥ずかしさに拍車をかけていた。
ちなみに千鶴ちゃんは後ろで借りてきた本を読んで大人しくしているが・・・車の中で本を読めるその三半規管の強さが流石先生の子供という思いになる。
「ま、何を恥ずかしがっているのかなんとなくわかるが・・・別に恥ずかしことではないだろ?」
「いえ、この年になってあまりにも小さい理由で子供みたいに泣いたら誰でもこうなりますよ」
「そうか?私は可愛いと思ったが」
ぐさりと俺の心を無自覚にえぐる先生。
「まあ、なんだ。お前が本当に優しい奴だとわかって私は嬉しいがな」
「女々しいの間違いじゃないですか?」
「いいじゃないか。女々しくても」
「否定はしてくれないのですね」
「まあ、聞けって」
そう言ってから先生は一瞬こちらを見てから笑って言った。
「私みたいなタイプには下手に男らしいよりも多少女々しいくらいの女子力があった方がいいからな」
ぐさりぐさり。めちゃくちゃ心をえぐられる。
「女子力は言い過ぎじゃ・・・」
「そうか?まあ、とにかくお前は必要だってことだ」
「ざっくりな励ましありがとうございます」
なんか先生と会話していると不思議と心が安らぐからいつもの状態に戻ってきてはいるが、昨日のことは俺の中でもっとも黒歴史に残る事柄だろう。好きな女の前で恥ずかしい醜態をさらす。羞恥プレイかな?意味が違うだろうがそうとしか言えない。
それにしても、昨日の先生はなんというか・・・えらく包容力があったような気がする。母性というのか・・・これはまたさらに先生の夫というポジションが遠くなった気がするが、なんとなく昨日の先生あの母性的な姿を一生忘れられないような気がする。
「ま、なんだ。いつでも胸を貸してやるからな」
「追い討ちと、無自覚な誘惑発言やめてください」
そんな風にして昨日のことを俺は胸に刻みつつ二人との日常を受け入れるのだった。