5 ちょろインじゃないから
ちょろい主人公・・・なんて呼べばいいのか?
その後、千鶴ちゃんは俺を若干怖がりつつもなんとか笑顔を浮かべてくれていた。その不器用な笑顔を見るたびに俺は心を締め付けられるように痛めてしまうが・・・
「たつ・・・健斗。ぼーっとしてどうした?」
「いえ、ちょっと夕飯をどうするか考えていたところです」
「お、本当に作ってくれるんだな」
「当たり前です。せんせ・・・遥香さんは何か食べたいものありますか?」
そう聞くと先生はしばらく考えてから嬉しそうな笑みで言った。
「肉だな!とりあえず肉が食べたい!」
「そ、そうですか・・・えっと、千鶴ちゃんは何か食べたいものある?」
先生があまりにも男前な答えを口にするものだから俺もそれで肩の力が抜けて自然とそう千鶴ちゃんに聞けていた。
千鶴ちゃんは俺の質問にびくん!と体を震わせてから、ポツリと呟いた。
「ちーは・・・ママとおんなじがいい」
どうやら一人称は『ちー』らしい。千鶴だからちーなのかな?というかこの男前な先生からこんなに大人しい子が生まれたこと事態が疑問ではあるが・・・あまり余計なことを考えると先生が察しそうなので深くは考えずに俺は苦笑気味に答えた。
「わかったよ。ちなみに苦手なものってある?」
「・・・ない」
目線を反らす千鶴ちゃん。うーん・・・これはどうなんだろ?あるけど隠したいのか、それともただ俺が怖いだけなのか。後者な気はするが念のため先生に視線を向けると先生はとくに気にせずに答えた。
「ちーちゃんは野菜全般苦手だよな」
「ほほう。ちなみにお母さんの方はどうなんです?」
「無論、野菜全般だよ」
似てないと思ったらまるっきり似た者親子だった。社会人でも野菜苦手な人っているんだなぁ・・・あれ?でも待てよ・・・
「遥香さん、一昨日俺が作った野菜の煮物食べてましたけどあれはセーフなんですか?」
「ん?そういやなんでだろうな。正直野菜は苦手なんだが・・・お前の料理は美味そうに見えたんだよな」
・・・天然なのだろうか?この人。無自覚にさらりと嬉しいことを言ってくれる。なんだかその台詞に思わずトキメキそうになるが・・・いかんいかん。なんで俺がこんな口説かれる側の気持ちにならねばならんのだと思って気持ちを切り替えるために言った。
「と、とりあえず今日は時間も時間なのでスーパーによってから遥香さんの家に行きましょう」
「おう。期待してるよ」
にかっと快活に笑う先生。なんとなくこの人には敵わないなぁと思いつつ俺達は近くのスーパーに向かったのだった。