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46 真実と本音

回答編



「来なくていいって・・・」


いきなりの言葉に呆然とすると、先生は部屋を指差して言った。


「ま、とりあえず入ってみな」

「え、ええ・・・」


俺は緊張で震える手でなんとかドアを開ける。


部屋の中はカーテンがひかれており真っ暗だがすぐにスイッチがみつかり灯りをつける。すると、この家にしてはやけに綺麗に片付けられた部屋と、ベッド、本棚にそして仏壇が置かれており、仏壇にはお供え物と優しそうな男の人の遺影があった。これは・・・


「あの人が前の旦那さんですか?」

「・・・ああ、真波和也(まなみかずや)。私の前の旦那で、ちーちゃんの実の父親だ」

「そうですか・・・」


わかっていたことだがなんとなく前の旦那さんに嫉妬を抱いてしまう俺に構わずに先生は言った。


「旦那・・・和也を殺したのは私だ」

「・・・え?」


その言葉に思わず先生を見ると悲しそうな表情をしていた。


「直接殺したわけじゃない。間接的に殺したのが私なんだ」

「・・・話してください」


俺がそう言うと先生はこくりと頷いて言った。


「私と和也は幼なじみなんだ。昔から一緒にいてな。一時期私が苛めを受けていた時に助けられて告白したんだ」

「遥香さんが苛めを?」

「笑うだろ?でも、私がこうして教師をしているのはあの時の苦しさをもう誰にも味あわせたくないからなんだ」

「そうなんですか・・・やっぱり遥香さんは凄いです」

「ま、過去のことを引きずってるだけさ」


そう笑ってからまた悲しそうな表情で言った。


「和也は両親が早くに亡くなってな。恋人でも友人でもとにかく人と繋がりを持ちたがったんだ。だから好きでもない私と付き合って、結婚までしてくれた」

「好きでもないって・・・」

「馬鹿だろ?向こうからの好意が偽物だって知ってたんだ。それでも和也のことが好きで結婚できて幸せだった。ちーちゃんが産まれて絆が強くなったと思ったよ。だが・・・あるときにそれは消えた」


ふと、表情を消して先生は言った。


「・・・事故で和也は両足が動かなくなったんだ。なんてことない交通事故。そこから和也は豹変した。それまでの笑みは全部消えて常に苛立った態度になった。きっと、そこで病院に任せていればよかったんだろうな・・・愚かにも私は自分が和也の看病をすると言ったんだ」

「・・・この部屋でですか?」


その言葉に頷いて言った。


「下らない独占欲だよ。和也を他の誰かに渡したくないという気持ちから私は自宅で和也の看病をはじめた。ちーちゃんの面倒を見ながらな」

「遥香さんが家事を?」

「無論全く出来ないさ。それまで全部和也に任せていたから使い方を全くわからかった。だから洗濯は近くのコインランドリーに行き、ご飯は惣菜や弁当を買ってきた。そんな生活をしていたからか・・・和也は変なものにハマった」

「変なもの?」

「その本棚の本の後ろを見てみな」


そう言われて本棚に近づく。哲学書や小説などが並んでおり確かにその後ろに何かが隠れていると思い取り出して・・・絶句した。


そこにあったのはいわゆる18禁の大人のゲームやら本、DVDなのだが、そのジャンルがどれも酷かった。首しめや、薬を使ったもの、俺には理解出来ないプレイのものや、そして・・・幼女で欲求を発散するものまであった。


「遥香さん、これ・・・」

「歪んだ欲望ってやつかな。それでもまだマシな部類なんだ。実際あと一歩で本物の薬物を取り寄せそうになっていたからな」

「そんな・・・」


俺が絶句する中で先生はさらに続きを話した。


「正直、話すのも躊躇われるくらいに和也は荒れていった。私やちーちゃんへの暴力はもちろん、一回本気でちーちゃんを犯そうとしたこともあった」

「だから千鶴ちゃんは最初あんなに怯えていたんですか・・・」

「そうだ。だが、それでも私は和也を守りたかった。だからちーちゃんを守って和也の世話をしていたが・・・それも限界がきた。その日、いつもよりも穏やかな和也の変化に私は嬉しくなって色々話したよ。少しでも前の和也に戻ったってね。でも・・・」


そこで先生は言葉を発するのに躊躇してから言った。


「次の日和也は自殺した」

「・・・!」

「どうやったのか本気で疑問だったが、隠していた縄で首を吊って死んだよ。私が自分で面倒を見ると言わなければそうはならなかった。私の独占欲が和也を殺したんだ・・・!」

「違います!」


その言葉に俺は思わず先生の手を握って言っていた。


「遥香さんのせいではありません!絶対です!」

「・・・私のせいだろ?私が和也を追いこんだから和也は死んでーーーん」


遥香さんの言葉を全部言わせなかった。何故なら俺が遥香さんにキスをしたからだ。普段なら出来ないような大胆な行動に遥香さんはキョトンとしていたが、俺はそれでも言いたいことを言った。


「遥香さんの気持ちは間違ってません。好きな人のために何かするのは決して間違いなんかじゃない!」

「・・・空回りしたから間違いだろ?」


いつもより弱気な瞳に俺は目を合わせて言った。


「遥香さん。和也さんのこと好きですか?」

「それは・・・うん」

「なら、その気持ちも行動も決断も決して間違ってません。間違っていたことがあるならそれはきっと、神様が書いたシナリオが間違ってるんです!」

「神様のシナリオ・・・」

「はい!」


ポカーンとしていた遥香さんはその言葉にしばらく笑ってからいつもの表情に戻って言った。


「お前は本当に面白いな・・・さて、それでどうする?こんな重い女とこれから先、一生隣にいる覚悟はあるか?」

「はい。もちろんです」

「そうか・・・なら最後に一つ聞いてもいいか?」

「なんでも」

「私のことは・・・好きか?」


その言葉に俺は笑顔で言った。


「はい。大好きです」

「そうか・・・私もお前が大好きだ健斗」


そう言って笑う先生の笑顔はいつもより幼く可愛く感じるのだった。






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