42 決戦ではない
伏線なのかな?
翌朝、俺は少しだけ早く起きて、父さんを待ちながら家事をこなしていると、帰ってきた父さんに声をかけられる。
「ただいま、健斗。相変わらず早起きね」
「おかえり父さん」
「それで、何か話があるのかしら?」
話をしようとする前にそう言われる。
「どうしてわかったの?」
「わかるわよ。何年あなたの父親やってると思ってるの」
女装しながらそんな格好いい台詞を言われると複雑な気持ちになるが、俺は気にせずに本題を話すことにした。
「ゴールデンウィークって仕事休みの日ある?」
「どこかに出掛けたい・・・とかの話かしら?」
「いや、むしろ父さんには堂々と家にいて欲しい」
「家に?・・・もしかして、あなたの先生が会いたいって言ったのかしら?」
「挨拶に来たいそうだよ」
「そう・・・」
その言葉に父さんはしばらく目を瞑って考えてから答えた。
「一応休みの日はあるけど、昼間来てもらいなさい」
「昼間はキツくない?」
「むしろ、そういう話なら昼間しなきゃ意味ないでしょ。それに相手は子供連れなんだから昼間の方が会いやすいでしょうしね。」
千鶴ちゃんに気をつかった結果なのだろう。まあ元々千鶴ちゃんは先生が父さんと話している間俺が別室で面倒みるつもりだったからありがたいけど。
「それと、海斗がゴールデンウィーク戻ってくるらしい」
「あら?そうなの」
「うん。あと先生、海斗にも会いたいって言ってたんだけど・・・」
「海斗に会う?あらあら、随分と勇敢ですこと」
いつも毒舌を聞いている父さんからの反応はそんな感じだった。
「まあ、海斗が大丈夫なら一緒に会いましょう。話の間は健斗が相手のお子さんの面倒みるのよね?」
「まあね。兄妹くらいのレベルには仲良くなったからね」
「あらそう、将来の孫の顔をこんなに早くに見れるとは思わなかったけど・・・その前にあなたには言っておくわね」
そう言ってから父さんはえらく真剣な様子で言った。
「私はあなたの先生をまだ疑ってる。だからもし気に入らなかったらちゃんと言いたいことは言うけど・・・反対をするつもりは今のところないから」
「そうなの?」
「ええ、合意の上でなら私は特に何も言わないわ。あなたが嫁ぐと決めたなら私はその意思を尊重するわ」
あの・・・父さん。シリアスな顔で言ってるけど、嫁ぐって字的には嫁入りに使う単語じゃないの?まあ、俺としては婿入りするのだろうから間違ってはないのかもしれないけど・・・
「とにかく、わかった。先生と海斗にも話をしておく」
「お願い。ところで健斗・・・あなたは先生には母さんのことは話したの?」
その言葉に俺は少しだけドキリとしてしまうが・・・誤魔化せないので正直に答えた。
「何も言ってない」
「向こうは母さんが死んだことは知ってるでしょう。でも、それ以上のことは何も知らないはずよ」
「・・・わかってる。必要なら話すよ」
「あなたが本当に先生のことを好きなら・・・あなたはきっと母さんにも向き合う必要があるわ」
「向き合うって・・・片時も忘れたことはないよ」
ベッドで微笑む母さん。いつも穏やかで怒ることはなかった母さん。一緒にいれば安心するし、ずっとこの人の笑顔があると思っていた。だけど・・・
「私はあなたみたいに強くないから女になることで逃げた。でも、あなたはそれらを受け止めた上で自分が代わりになろうとした」
「そんな大層なことは・・・」
「そしてーーーあなたは自分に嘘をついた」
ドキリとする。父さんは少しだけ穏やかな表情で言った。
「ねぇ、健斗。私にも海斗にもぶつけられないなら・・・あなたの本心は誰が受け入れてくれるのかしらね」
「それは・・・」
「本当にあなたが先生のことを好きになったなら、そういう部分もいずれあかす必要がある。それだけは覚えておきなさい」
「・・・わかった」
「なんて、余計なお世話かもしれないけどね」
そんな風にしていつもの父さんに戻ったが、俺はしばらくその言葉に悩んでしまうのだった。