40 弟との電話
弟くん登場
「ん?電話か」
午後11時、先生の家から早めに帰宅した俺が試験勉強に勤しんでいると、着信音が鳴る。ディスプレイに映る名前は『巽海斗』の名前。こんなに遅くに弟からの電話が掛かってきたので俺は少しだけ不安になりながらも電話に出た。
「もしもし、海斗か」
『ごめん兄さん。寝てた?』
「いや、勉強してただけだだから大丈夫だけど」
『そうなんだ・・・って、兄さんがこんな時間に勉強?』
「なんか変か?これでも受験生、就活生だぞ」
そう言うと海斗は電話口で少しだけ驚いた様子を見せてから言った。
『兄さん、やっとあの変な目標捨てたんだね』
「変な目標?」
『主夫になるとか言ってたでしょ?ようやく将来を見据えてくれたのかと弟として嬉しくなったんだよ』
「いや、その目標は捨ててないよ」
『はい?』
「むしろ夢に近づいたくらいかな」
先生と千鶴ちゃんのことを思い出して思わずくすりと笑うと海斗は困惑しながら聞いてきた。
『もしかして兄さん・・・彼女できたの!?』
「夜中に大声上げちゃダメだぞ?あと彼女は出来てない」
『彼女じゃない?まさか人妻とか、浮気とかイケナイ恋?』
「兄さんはそのお前の想像力の高さにビックリだよ」
ある意味間違ってる気がしなくないが、子持ちの教師の元に通っているという事実は変わらないから否定はしない。
「それで、そんなことを聞きたくて電話したわけじゃないだろ?」
『詳しく聞きたいところだけど・・・うん、次のゴールデンウィークに帰るから知らせておこうと思ってね』
「そっか、ゴールデンウィークか・・・」
すっかり忘れていたが、学生にとってのご褒美期間。10連休あるゴールデンウィークのその翌週がテストなんだよね。
「父さんには知らせたのか?」
『・・・兄さんから伝えておいて』
「相変わらず父さんは苦手か」
『別にそんなことは・・・ただ、兄さんに全部丸投げした父さんを許せないだけだから』
「何度も言ってるが、俺が好きでやったことだからあまり恨んでやるな」
『わかってる。でも、父さんが今の仕事に逃げたことに変わりはないから』
逃げたか・・・まあ、父さんもどうしようもない気持ちを発散したかったのだろう。それに今海斗に何を言っても言葉が届くとは思わないのでしばらくは静観かな?などと思いながら俺は本題に話を戻した。
「とりあえずゴールデンウィークに帰ってくるのはわかったが・・・俺もバイトが多いからずっと家にはいられないけど大丈夫か?」
『うん、そっちの友達とも久しぶりに会う約束してるしね』
「そっか、ならご飯必要な日にちは前もって教えてくれ」
『うん、兄さんのご飯久しぶりで楽しみ』
そっから少しだけ弟と近況報告をしてから電話を切ったが・・・そのあとに先生はゴールデンウィークどうするのか予定を聞き忘れていたことを思い出したので次の日に聞こうと勉強を再開したのだった。